公爵令嬢の婚約解消宣言

宵闇 月

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公爵家の使用人たちは突然やってきた王太子に驚くも、その状況からアリシアの涙の元凶を察した。

ーーまさかの王太子殿下?!

ーーお嬢様一筋の拗らせ王太子が?

ーーヘタレて何かやらかしたとか?

使用人たちは一瞬だけ表情筋をピクリと動かすも、瞬時に無表情に戻る。

心の声は決して口にも表情にも出さない。

公爵家の使用人たちはいろいろと思うことはあれど完璧な態度でオルフェウスを迎えた。

流石である。

しかし本音では今すぐオルフェウスを問いただしたいのが使用人たちの総意。

だけど残念ながらその権利は使用人にはないので、とりあえずマリーが代表でことの顛末を見守ることにして、オルフェウスを客間に通した。

後からオルフェウスを追いかけて来た護衛騎士たちは、使用人たちのそんな様子に少し複雑な表情をしたのはいうまでもない。



ーーなんなの?なぜ殿下が?

アリシアはまるで自分を追って来たかのように思えるオルフェウスの訪問に困惑していた。

いや、事実そうなのだが。

泣きはらした顔を今すぐどうにかすることは不可能なので、とりあえず急ピッチで誤魔化せる箇所を誤魔化して客間に向かった。

幸か不幸かまだ公爵が帰宅していなかった為、婚約解消の話はできていない。

オルフェウスにとってもアリシアにとってもある意味事態を好転させるチャンスでもあった。

とはいえ、片や焦りで暴走気味、片や思わぬ事態に困惑中だが。



アリシアが客間に入ると、本来ならソファに座っているはずのオルフェウスが部屋の中をうろうろと落ち着きなく歩いていた。

決して狭くはないが、歩き回るほど広いわけではないのにだ。

アリシアはそんなオルフェウスに更に困惑して一瞬声を掛けるのを躊躇った。

が、すぐにアリシアの気配に気付いたオルフェウスが物凄い勢いで向かって来たので、思わず後退し、客間の扉を閉めてしまう。

その場にいた使用人と護衛騎士たちは顔に出すことはないが頭を抱えた。

既に前途多難な気配を感じる一場面である。

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