婚約をなかったことにしてみたら…

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「何故それを…」

トール様が信じられないような顔で漸く口を開いた。

その顔はまさかというような、だけど私が現場を見ていないことを祈るような表情だった。

「たまたま、たまたまなんです。忘れ物を取りに行ったら…あんな…。私、それがショックで…。だからトール様のお願いは聞くことはできません」

私は勤めて冷静に、だけど最後は厳しい口調でそう返した。

そんな私にトール様は復縁は無理だと悟ったのか崩れ落ちるようにして一言

「そうか、すまなかった」

と言った。

こうして私の長い記憶喪失のふりは幕を下ろしたのだった。

トール様が帰られた後、ルシウス先生が心配そうに私を見て

「……大丈夫か？」

と尋ねてきたが、私は思ったより無感情…いや、むしろスッキリしていた。

ずっとショックで傷付いていると思ってた今回のことは、どうやら傷付いているというより許せないという気持ちの方が強かったらしい。

私は思わず晴れやかに

「全然大丈夫です」

と答えていた。

「強がりではなく？」

「勿論。思ったよりずっとスッキリしました。私、結構怒ってたみたいです」

「そうか…。それなら良かった」

「ルシウス先生、ありがとうございました」

「いや、それはいいのだけど…」

ルシウス先生は心配そうな顔を一変して硬い表情になる。

そして

「本当は今日はミリー嬢の話をしにきたんだ」

と言った。

私は思わず息を飲み身構えてしまった。