婚約をなかったことにしてみたら…

宵闇 月

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それからあっけなく私とトール様の婚約は解消となった。

本来ならトール様の有責で破棄でも良かったのだがミリー様の魅了のことを聞いたからにはこれ以上関わりを持つべきではないとお父様が判断したからだ。

そしてトール様の話はルシウス先生に伝え、ミリー様のことはルシウス先生と同僚の方に任せることにした。

ーーはずが、何故か今私の目の前にはトール様がいらっしゃる。

理由は婚約解消が決まってすぐに手紙が届き、その内容がどうしてももう一度会って話がしたいとのことだったからだ。

本当なら断りたかったしお父様はそれでいいとおっしゃってくれたけれど、やはりそれはできず今に至る。

婚約解消に至った理由が理由としても家格は我が家の方が下。

正式に面会を希望されては断れないと私自身が判断したのだ。

何もないとは思うがやはりそこはきちんとしておいた方がいいだろう。

そして会いに来たはいいが一向に口を開かないトール様に私は内心ビクビクしながら口を開いた。

「それで本日はどのような御用件でしょうか?」

するとトール様が勢いよく私の側に来て私の手を取った。

「このようになって今更だが、やはり私はエルーシアを諦められない。愛してるんだ。どうかもう一度考え直してくれないか?」

考え直すって…

「既に婚約解消は決定してますし私はどのような理由があれトール様が他の方と身体を重ねられたことを許す気はありません。ですのでどうかお引き取りを」

「それは悪かった。だけど本当に仕方がなかったんだ!私がああしなければ今頃…」

「それは分かります。ですが私の気持ちの問題です。それにお父様もおっしゃったと思いますがミリー様が魅了使いである以上バトス侯爵家に嫁ぐことはできません」

「いや、それはなんとかーー」

「できないからあのようなところであのようなことをーーっ!!」

しまった!!

「………え…あのようなとは…?」

それまで必死の形相だったトール様が不思議そうな顔になった。

私はトール様の誠意の見えない言葉に相当腹が立っていたようで、すっかり記憶喪失設定を忘れてしまったのだった。

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