婚約をなかったことにしてみたら…

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トール様は両親の前でミリー様とのことを包み隠さずに話してくれた。

魅了にかかったふりをする為にやむを得なく身体の関係を持ったと。

そしてそれでも心は、愛しているのは私だけだと。

私は少しだけホッとしたが、とても複雑な気持ちだった。

だが、今の私は記憶喪失。

首を傾げて

「何のことをおっしゃっておられるのか分かりません。申し訳ございません」

と言い、言及することを避けた。

正直どうしていいのか分からない。

いくら事情があるといっても現場を見た身としては何を言えばいいのか分からない。

私にはあの時のトール様が本当に演技であのようなことをしていたのかを判断することができないのだ。

あの時二人は確かに愛し合っていたようにしか見えなかったからだ。

結局私は記憶喪失に甘えてこの話を分からないで終わらせた。

しかしトール様に魅了を感知する能力があったとは。

私は魅了は魔法を使える者にしか分からないと思っていたが違うのだろうか？

そういえばルシウス先生の同僚の方も魅了に気付いたと言っていたが、彼らの場合は研究者だ。

恐らくトール様とは違うはず。

私は記憶喪失のふりをしながら傍らで頭を回転させていた。

両親もあまりのことにどう言葉を返すか悩んでいたようだが何かを決めたように言及した。

「どのような理由があれ婚約者以外のご令嬢と身体を繋げるような人には娘はやれん。しかも魅了使いのいるところに娘を嫁にやるなどもってのほか。よってこの婚約はなかったことにしたい。近いうちにバトス侯爵と文書をかわさせていただく。魅了が本当なら近寄るわけにはいかないからな」

と。

トール様は真っ青な顔になっていたが、思うところもあるらしく、私の無事を確認できたことをよしとしてこの日は一旦帰られた。

私は漠然とこれからどうなるのだろうかと思った。