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学園初日をなんとか終えることができたリュートは、屋敷に帰る馬車の中でも、そして自室に戻ってからもルミアスから離れる気にはなれず、べったりと引っ付いて過ごした。
離れることに慣れなかったせいもある。しかし気にしていないと思っていたが、心無い言葉の渦はリュートが思っていたより精神を摩耗させていたようだ。
少しでも離れた瞬間、不安の渦に飲み込まれそうだった。
まるで赤ちゃん返りだとルミアスには笑われたが、気にすることはない。そう言ったルミアスが引っ付くリュートを心底嬉しそうに構うからだ。
学園での出来事はリュートが語らずとも、ルミアスがルドルフに説明したため、リュート自身は時々補足のように付け足すだけでよかった。
その話の中で、ルミアスがこっそりと学園に居る間教えれたフィルバートのことも、そこでようやく聞くことができた。
悪魔に不老不死を望む場合、二通りの選択肢がある。
自分自身の体をそのまま老いずに存続せるものと、そしてもう一つが自分の魂と肉体を別の者に移すというものだ。
前者は契約した時のままの肉体を存続させる。ロマリオは高齢で、しかもそのままの体でいれば今後周りから疑われると考えたのだろう。
特に権力を、力を持ち続けたいと思うのなら尚のことだ。
そこで後者の魔法だ。自分と瓜二つ、魔力を溜める器をそのままにできるようにと複生体を作り、育ったところで老いた体を捨て、若い体で魔法伯として君臨し続けようとしているのだろう。
ルミアスとルドルフは互いの話を総合して、そう結論付けていた。
依り代を作るには無数の生命と、育てるための胎が必要になる。
話はそれをどこから調達したかというものに切り替わった。
「無数の生命……か。奇しくも攻撃魔法を使える者は魔獣討伐に任命される。彼が魔術書を手に入れた年……つまりはリュートがサンドラのお腹に宿た年だが、その半年後にスタンピードが起き、僕も彼も招集された。きっとその時に集めたんじゃないだろうか。それに僕はその後しばらく領地に引き籠っていたし、ロマリオがその間あちこち行っていたみたいだから」
「胎はどうだ? アイツの妻なら歳だろう。肉体が耐えられるとは思えないが。生きてるよな?」
「生きてますよ。社交界で見かけることもありますが、化粧で隠してはいるけれど顔色が良いとは言えません。息子の妻が産後すぐに亡くなっているから、きっとそう言うことだと思いますよ。因みに息子はそれ以降病気療養とされて表には出てきていない」
「なら、もう死んでいるか……生かされたまま生命力を取られているか」
「そんなことまで、する……?」
実の息子を生贄のように扱うだろうか。リュートに対しては酷い扱いを続けていた彼らだが、彼ら自身は家族仲が良いように見えていた。
一緒に出掛けるのだと話していたことも一度や二度ではない。
だというのに、今はこのありさまだ。
その薄気味悪さに寒気を感じ、リュートが腕を擦ればルミアスが体を引き寄せてくれる。
「じゃあ……フィルバートは体を乗っ取られるためだけに、今……生かされてるってこと……?」
「……ルミアス様の話が本当であれば、そうだろうね」
ロマリオの非道さに、リュートは絶句するしかない。
悪魔という存在をリュートはルミアスしか知らない。だがリュートが知っている悪魔よりも非道なことをしているロマリオのことは、悪魔のようだと思ってしまう。
「力を望み続けた末に力を持った人間なんてそんなものだ」
悪魔はそんな人の欲望に漬け込むのが仕事で、また堕ちていく様子を見るのが娯楽だという。
「ルミアスは、今楽しいの?」
「俺か? いいや、楽しくない」
「だってそれを楽しむのが悪魔なんでしょう?」
「昔なら、楽しんでたろうな。何ならもっと堕落するように囁くかもしれない」
ニヤリと笑ったルミアスの口からはちらりと尖った歯が覗く。目は細められ、その光景を想像して楽しんでいるように見える。
対面に座るルドルフは顔は平静さを装っているが、額からたらりと汗を流し、気を紛らわせるように眼鏡のレンズを拭き始めていた。
「けどなぁ、俺は今、リュートといる方が楽しいから、そんな遊びに興味はこれっぽっちもないな」
さんざん遊びつくしたおかげかもなと陽気に笑ったルミアスに、リュートも笑みを零す。
もしこれが年若い悪魔であれば、リュートのことなど目にもくれなかったかもしれないし、こうして執着してくれることもなかっただろう。
リュートといる方が楽しいから、そこに害を与える存在が煩わしく排除対象なのだとルミアスは笑う。
悪魔の力を無断で使うこともまた、ルミアスの琴線に触れているらしい。
「早く力を取り戻して、排除しなきゃな。楽しくリュートと生活できない。なぁヴァローア」
「そうでございますね坊ちゃま。全て綺麗に片づけられれば旦那様もお喜びになりましょう」
「だよなぁ、親父はジジイの魔術書もコレクションに加えるつもりだろうしな」
いつの間にか新しいティーセットが乗ったワゴンを持って現れたヴァローアが、ルミアスと共に楽しそうに微笑む。
差し出されたミルクにはたっぷりと砂糖が入っていて、飲めば体に温かさが染み渡っていった。
「無理はしない?」
「しないさ」
確実に仕留めると言ったルミアスの表情は、真剣そのものだった。
離れることに慣れなかったせいもある。しかし気にしていないと思っていたが、心無い言葉の渦はリュートが思っていたより精神を摩耗させていたようだ。
少しでも離れた瞬間、不安の渦に飲み込まれそうだった。
まるで赤ちゃん返りだとルミアスには笑われたが、気にすることはない。そう言ったルミアスが引っ付くリュートを心底嬉しそうに構うからだ。
学園での出来事はリュートが語らずとも、ルミアスがルドルフに説明したため、リュート自身は時々補足のように付け足すだけでよかった。
その話の中で、ルミアスがこっそりと学園に居る間教えれたフィルバートのことも、そこでようやく聞くことができた。
悪魔に不老不死を望む場合、二通りの選択肢がある。
自分自身の体をそのまま老いずに存続せるものと、そしてもう一つが自分の魂と肉体を別の者に移すというものだ。
前者は契約した時のままの肉体を存続させる。ロマリオは高齢で、しかもそのままの体でいれば今後周りから疑われると考えたのだろう。
特に権力を、力を持ち続けたいと思うのなら尚のことだ。
そこで後者の魔法だ。自分と瓜二つ、魔力を溜める器をそのままにできるようにと複生体を作り、育ったところで老いた体を捨て、若い体で魔法伯として君臨し続けようとしているのだろう。
ルミアスとルドルフは互いの話を総合して、そう結論付けていた。
依り代を作るには無数の生命と、育てるための胎が必要になる。
話はそれをどこから調達したかというものに切り替わった。
「無数の生命……か。奇しくも攻撃魔法を使える者は魔獣討伐に任命される。彼が魔術書を手に入れた年……つまりはリュートがサンドラのお腹に宿た年だが、その半年後にスタンピードが起き、僕も彼も招集された。きっとその時に集めたんじゃないだろうか。それに僕はその後しばらく領地に引き籠っていたし、ロマリオがその間あちこち行っていたみたいだから」
「胎はどうだ? アイツの妻なら歳だろう。肉体が耐えられるとは思えないが。生きてるよな?」
「生きてますよ。社交界で見かけることもありますが、化粧で隠してはいるけれど顔色が良いとは言えません。息子の妻が産後すぐに亡くなっているから、きっとそう言うことだと思いますよ。因みに息子はそれ以降病気療養とされて表には出てきていない」
「なら、もう死んでいるか……生かされたまま生命力を取られているか」
「そんなことまで、する……?」
実の息子を生贄のように扱うだろうか。リュートに対しては酷い扱いを続けていた彼らだが、彼ら自身は家族仲が良いように見えていた。
一緒に出掛けるのだと話していたことも一度や二度ではない。
だというのに、今はこのありさまだ。
その薄気味悪さに寒気を感じ、リュートが腕を擦ればルミアスが体を引き寄せてくれる。
「じゃあ……フィルバートは体を乗っ取られるためだけに、今……生かされてるってこと……?」
「……ルミアス様の話が本当であれば、そうだろうね」
ロマリオの非道さに、リュートは絶句するしかない。
悪魔という存在をリュートはルミアスしか知らない。だがリュートが知っている悪魔よりも非道なことをしているロマリオのことは、悪魔のようだと思ってしまう。
「力を望み続けた末に力を持った人間なんてそんなものだ」
悪魔はそんな人の欲望に漬け込むのが仕事で、また堕ちていく様子を見るのが娯楽だという。
「ルミアスは、今楽しいの?」
「俺か? いいや、楽しくない」
「だってそれを楽しむのが悪魔なんでしょう?」
「昔なら、楽しんでたろうな。何ならもっと堕落するように囁くかもしれない」
ニヤリと笑ったルミアスの口からはちらりと尖った歯が覗く。目は細められ、その光景を想像して楽しんでいるように見える。
対面に座るルドルフは顔は平静さを装っているが、額からたらりと汗を流し、気を紛らわせるように眼鏡のレンズを拭き始めていた。
「けどなぁ、俺は今、リュートといる方が楽しいから、そんな遊びに興味はこれっぽっちもないな」
さんざん遊びつくしたおかげかもなと陽気に笑ったルミアスに、リュートも笑みを零す。
もしこれが年若い悪魔であれば、リュートのことなど目にもくれなかったかもしれないし、こうして執着してくれることもなかっただろう。
リュートといる方が楽しいから、そこに害を与える存在が煩わしく排除対象なのだとルミアスは笑う。
悪魔の力を無断で使うこともまた、ルミアスの琴線に触れているらしい。
「早く力を取り戻して、排除しなきゃな。楽しくリュートと生活できない。なぁヴァローア」
「そうでございますね坊ちゃま。全て綺麗に片づけられれば旦那様もお喜びになりましょう」
「だよなぁ、親父はジジイの魔術書もコレクションに加えるつもりだろうしな」
いつの間にか新しいティーセットが乗ったワゴンを持って現れたヴァローアが、ルミアスと共に楽しそうに微笑む。
差し出されたミルクにはたっぷりと砂糖が入っていて、飲めば体に温かさが染み渡っていった。
「無理はしない?」
「しないさ」
確実に仕留めると言ったルミアスの表情は、真剣そのものだった。
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