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06楽しい日々
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それからの生活は、リュートにとって一部分だけとても輝かしいものになった。
薄暗い地下室から出られないのは変わらない。
粗末な食事も、古いベッドも服も、八つ当たりで鞭を打たれることも相変わらずだ。
それでも週に一度、外の世界を飛び回ったルミアスが闇夜と共に地下室に訪れてくれる。
何もなかった日々が、その時だけは眩しい輝きを見せてくれていた。
「おっと、待て待て。俺の目の前でそれを食べるな」
夜もすっかりと更けた頃。
いつものように出された硬いパンを味のしないスープに浸して食べようとしていれば、影の重なった暗がりから気配もなくルミアスが姿を現した。
「おかえりルミアスっ!」
嬉しさに思わず駆け寄れば、決まり悪そうに頬を掻き、リュートの頭を誤魔化すように乱雑に撫でてくる。
ルミアスが召喚されてから既にふた月の時間が経っていた。
わずかでも重ねた時間のおかげか、多少は慣れを見せる彼だが、まだまだその動きはぎこちなさを伴っている。
当初の宣言通り、ルミアスは召喚された翌日には早々と外へ出掛けて行ってしまった。
途端に静まり返った薄暗い部屋の中。
ぽつんと一人でベッドの上で膝を抱えたリュートはぼんやりと一転を眺めたまま、しばらく動くことができなかった。
都合の良い妄想か、夢であったのだろうかと取り残された地下室で考えてしまう。
気分は容易くどん底まで落ちてしまい、気分はとんでもなく最悪だった。
ぐるぐると回る気分の悪さに押しつぶされそうになっていれば、数日も経たない内にルミアスが再び地下室に姿を現したのだ。
その時の感動は言葉では言い合わらせない。全身から歓喜が溢れ出し抑えきれなかった。
感情の赴くままにルミアスに駆け寄り抱き着けば、リュートのように純粋な喜びから出迎えられたことなどなかったという彼は大いに戸惑っていたのは記憶に新しい。
そんな悪魔らしからぬ様子のルミアスに、リュートはますます嬉しくなってしまう。
人とのかかわりに飢え過ぎていたせいもあるのだろう。
こうして気にかけて貰えて、話ができる存在が居てくれるというのは、心が締め付けられるほどに嬉しくて堪らないものだ。
陰鬱とし、表情すらも抜け落ちるようになっていたリュートは、ルミアスのおかげで再び自然な笑みを浮かべられるようになった。
そのせいかルミアスが地下室に居る間、自覚なく楽し気にしてしまっていたようで、ルミアスから奇怪な者を見るような視線をうけてしまうこともある。
だがリュートはそんなことなど気にしなかった。
嬉しいものは嬉しいのだから仕方がない。溢れる感情は止めようがないのだから。
数日ぶりに姿を現したルミアスが、慣れた手つきでパチンと指を鳴らした。
途端に粗末な机がパッと消え、真っ白なクロスがひかれた上質なテーブルが姿を現す。
その上には精巧な作りの金に輝く蝋燭台が置かれ、並ぶ食事を優雅に照らしていた。
粗末な食事は、机の変貌と共に色とりどりの温かな料理に姿を変えている。
置かれ二脚の椅子の片方にリュートが腰を落ち着ければ、それに合わせるようにしてルミアスも対面に腰を下ろす。
「それな、一昨日行った街で流行ってる料理らしい。それを出す店が人気店らしくて、外にまで長い行列ができてんだよ。それで店に入るまでに何時間も待たされるんだとよ」
真っ白に金色の柄が浮かぶ傷が一つもない皿の上には、薄切りにされ煮込まれたカラフルな野菜が、崩れそうなほどに煮込まれた肉と共に盛り付けられている。
銀でできたスプーンを手に、ゆっくりと味を堪能しながら咀嚼する。
温かい料理を食べすすめながら、リュートはルミアスが話す外の世界の出来事に耳を傾けていた。
こうなったのは、少しでもと外の話を聞きたいと強請ったのがきっかけだ。
それに加えて、目の前で粗末な食事を食べられるのは気分が悪いと、出掛けた先で見かけた食事を話をするついでに出してくれるようになった。
その行為の数々は、リュートの心を溶かすには充分すぎるものだ。
今では飼い主の帰りを待つ子犬よろしく、飛び上がるほどに喜んでしまう。
ゆっくりと味わいながら食事を終えると、汚れのないまっさらなナフキンで口元を拭う。
普段の粗末の食事との落差に、舌が驚くかと思えばそうでもなかった。
どうやら都合のいいように、味覚が切り替わるようだ。
切り替わらなければ、味のしないスープや古くなったパンなど口にできなくなっていただろう。
ルミアスが来るまでの間、飢えてのたうち回ることになるなんて御免だ。
「美味かったか?」
「とっても! ルミアスは美味しいものを見つける天才だね」
「行列ができてたから気になっただけだけどな」
「その行列には並ぶの?」
「まさか! そんな面倒なことするわけがない。こう、従業員のとこまで行って、ちょちょいってな?」
悪い顔をしながら、ふふんと胸を張るルミアスに思わず小さく吹き出してしまう。
くすくすと笑っていればそれに気をよくしたのか、この世界の人間の魔法とは比べ物にならないほどのことができるのだとルミアスが自慢げに話し出すのだった。
薄暗い地下室から出られないのは変わらない。
粗末な食事も、古いベッドも服も、八つ当たりで鞭を打たれることも相変わらずだ。
それでも週に一度、外の世界を飛び回ったルミアスが闇夜と共に地下室に訪れてくれる。
何もなかった日々が、その時だけは眩しい輝きを見せてくれていた。
「おっと、待て待て。俺の目の前でそれを食べるな」
夜もすっかりと更けた頃。
いつものように出された硬いパンを味のしないスープに浸して食べようとしていれば、影の重なった暗がりから気配もなくルミアスが姿を現した。
「おかえりルミアスっ!」
嬉しさに思わず駆け寄れば、決まり悪そうに頬を掻き、リュートの頭を誤魔化すように乱雑に撫でてくる。
ルミアスが召喚されてから既にふた月の時間が経っていた。
わずかでも重ねた時間のおかげか、多少は慣れを見せる彼だが、まだまだその動きはぎこちなさを伴っている。
当初の宣言通り、ルミアスは召喚された翌日には早々と外へ出掛けて行ってしまった。
途端に静まり返った薄暗い部屋の中。
ぽつんと一人でベッドの上で膝を抱えたリュートはぼんやりと一転を眺めたまま、しばらく動くことができなかった。
都合の良い妄想か、夢であったのだろうかと取り残された地下室で考えてしまう。
気分は容易くどん底まで落ちてしまい、気分はとんでもなく最悪だった。
ぐるぐると回る気分の悪さに押しつぶされそうになっていれば、数日も経たない内にルミアスが再び地下室に姿を現したのだ。
その時の感動は言葉では言い合わらせない。全身から歓喜が溢れ出し抑えきれなかった。
感情の赴くままにルミアスに駆け寄り抱き着けば、リュートのように純粋な喜びから出迎えられたことなどなかったという彼は大いに戸惑っていたのは記憶に新しい。
そんな悪魔らしからぬ様子のルミアスに、リュートはますます嬉しくなってしまう。
人とのかかわりに飢え過ぎていたせいもあるのだろう。
こうして気にかけて貰えて、話ができる存在が居てくれるというのは、心が締め付けられるほどに嬉しくて堪らないものだ。
陰鬱とし、表情すらも抜け落ちるようになっていたリュートは、ルミアスのおかげで再び自然な笑みを浮かべられるようになった。
そのせいかルミアスが地下室に居る間、自覚なく楽し気にしてしまっていたようで、ルミアスから奇怪な者を見るような視線をうけてしまうこともある。
だがリュートはそんなことなど気にしなかった。
嬉しいものは嬉しいのだから仕方がない。溢れる感情は止めようがないのだから。
数日ぶりに姿を現したルミアスが、慣れた手つきでパチンと指を鳴らした。
途端に粗末な机がパッと消え、真っ白なクロスがひかれた上質なテーブルが姿を現す。
その上には精巧な作りの金に輝く蝋燭台が置かれ、並ぶ食事を優雅に照らしていた。
粗末な食事は、机の変貌と共に色とりどりの温かな料理に姿を変えている。
置かれ二脚の椅子の片方にリュートが腰を落ち着ければ、それに合わせるようにしてルミアスも対面に腰を下ろす。
「それな、一昨日行った街で流行ってる料理らしい。それを出す店が人気店らしくて、外にまで長い行列ができてんだよ。それで店に入るまでに何時間も待たされるんだとよ」
真っ白に金色の柄が浮かぶ傷が一つもない皿の上には、薄切りにされ煮込まれたカラフルな野菜が、崩れそうなほどに煮込まれた肉と共に盛り付けられている。
銀でできたスプーンを手に、ゆっくりと味を堪能しながら咀嚼する。
温かい料理を食べすすめながら、リュートはルミアスが話す外の世界の出来事に耳を傾けていた。
こうなったのは、少しでもと外の話を聞きたいと強請ったのがきっかけだ。
それに加えて、目の前で粗末な食事を食べられるのは気分が悪いと、出掛けた先で見かけた食事を話をするついでに出してくれるようになった。
その行為の数々は、リュートの心を溶かすには充分すぎるものだ。
今では飼い主の帰りを待つ子犬よろしく、飛び上がるほどに喜んでしまう。
ゆっくりと味わいながら食事を終えると、汚れのないまっさらなナフキンで口元を拭う。
普段の粗末の食事との落差に、舌が驚くかと思えばそうでもなかった。
どうやら都合のいいように、味覚が切り替わるようだ。
切り替わらなければ、味のしないスープや古くなったパンなど口にできなくなっていただろう。
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「その行列には並ぶの?」
「まさか! そんな面倒なことするわけがない。こう、従業員のとこまで行って、ちょちょいってな?」
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