悪魔に願うはただ一つ

関鷹親

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03召喚されし者2

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 冷たく薄暗い地下室。
 そこに自分以外の、それも敵意を感じない相手がいるという状況に、リュートはすでに慣れつつあった。

 誰ともかかわらない、かかわりがあったとしても必要最低限で、虫けらを見るような蔑んだ目に晒される日々。
 それがどれだけ心を疲弊させるか。
 孤独が心を蝕んでは殺していく。いつまでも終わりが見えない苦しみと絶望の中で、リュートは一筋の光を今、見ていた。

 石の床にペタリと座りながら、見上げるルミアスの赤い瞳は綺麗な宝石のようで、薄暗い中でも輝いて見える。
 悪魔だろうが何だろうが関係なかった。
 ただただ普通に会話し接してくれる、人間扱いしてくれる存在に飢えていたリュートにとって、ルミアスは突如砂漠に現れたオアシスのように思えた。

「さてリュート。お前は俺の召喚主という名の主だが、俺はそれに縛られるつもりはない。勿論、願いは聞くがな。ただし願いを聞くのも今すぐってわけでもないし、気に食わない願いを聞くつもりもない」

 数百年ぶりにこの世界に来たらしく、ルミアスはバカンスがてら、あちこち見て周り楽しみたいという。
 その自由気ままさに、なるほど確かに悪魔らしいと妙な納得をしてしまう。
 オアシスだと思ったものは、どうやら蜃気楼のようなものなのかもしれない。

 リュートの願いはこのわずかな間で既に決まっている。
 それは突如現れたルミアスという存在に、ずっと傍にいて欲しいというものだ。
 だがバカンスを楽しみたいと言う彼の言葉から、リュートの願いは聞き届けられないのだと分かってしまった。

「バカンスを楽しむ間でも、ルミアスはここに来る?」
「それは勿論。様子見程度にはなるだろうがな」
「じゃあ僕のお願いごとは、ルミアスがもういいよって言うまで言わないでおくね。そうしたらバカンス、楽しめるでしょ?」

 落胆する気持ちは多分にある。
 けれども同時に、合間にでもこの薄暗く寂しい場所に足を運んでくれるというならば、それはそれでいいのではないだろうかとリュートは考えた。

「変なやつだな。俺を優先するだなんて」
「だって君は、僕が今願いを言っても叶える気はないでしょう?」
「それはそうだが……」

 お前の状況を考えるとその思考が不可解だと、心底訳が分からないといった風にルミアスが首を傾げる。

「ここから連れ出せでも、美味しいものをたらふく食べさせろでも、その背中を打った奴らを八つ裂きにしろでも。何かしらすぐに言われると思ったんだがな」

 人間らしくない、聞き分けの良い物言いが、なんだかむず痒くて居心地が悪い。そう言って顰めっ面をしたルミアスに思わず苦笑が漏れる。
 確かに、それらのことを願ったことなら過去に何度もある。それもまだこの家に来たばかりの頃のことだ。

 不可思議な力が働くか、もしくは優しい誰かに連れ出してもらえるようにと。そして酷い仕打ちをしてくるロマリオ達に罰を与えてくれないかと。
 そんな希望をまだ抱いていた幼い頃。
 しかしそんな都合の良いことなど、現実には起こり得ない。
 その事実が心を握りつぶし、ヤスリで削られるように痛んで仕方がなかった。
 突如己に降りかかった不幸を嘆きに嘆いても、この薄暗い場所から解放されることはない。
 そうした感情の波に揉まれ続け、溺れた結果、叶うことがないことに執着することを諦めた。

 するとどうだろうか、途端に心が軽くなったのだ。
 終わりを迎えるまで、大きな希望を抱いてはいけないのだとその時にリュートは学んでしまった。
 けれどもこの悪魔にであれば。自分に召喚されたというこの悪魔にであれば。
 小さな願いくらい抱いても大丈夫だろうと、リュートは少しだけ凍り付いた心を溶かしたのだった。




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