猫耳のおじさん護衛騎士

関鷹親

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42 夜の部屋2

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 鼻先にケインズの唇が触れ離れるその瞬間、ソルドの体の奥底からなにかがブワリと沸き上がるのを感じた。
 一体なんだと思う間もなく、気が付けばソルドの目線は高くなっていてケインズを見下ろしている。
 その目線の高さは馴染みがあるもので、はっとし自身の体を見れば人間の姿に戻っていた。
 やっと戻った自身の体に歓喜が沸き上がり、ソルドはガバリとケインズを抱きしめる。

「殿下っ殿下、殿下っ!!」
「えっソルド……? 一体何が、え?」

 混乱するケインズを、ソルドは命一杯抱きしめ嬉しさからそのままくるくると回る。そのまま存分にケインズの臭いを吸い込むと、無意識の内に頭をケインズに擦り付けていた。

「ソルド、ちょっと待ってくれソルド!」

 ケインズの必死な声に我に返ったソルドは、はたと動きを止めた。

「本当に、本当にソルドか?」

 混乱しながらも目を潤ませ腕の中から見上げてくるケインズに、ソルドは体を離すと膝を着いて頭を下げた。

「……ご心配をおかけして、申し訳ありませんでした」
「僕もジェスも、どれだけ心配したかっ」

 顔を上げれば、今にも泣きだしそうなケインズの顔があった。綺麗な眉を下げ、怒りと同時に安堵に揺れる瞳に、ソルドの心は罪悪感に溢れた。
 どう言葉を出せばいいか悩んでいれば、ケインズが一歩踏み出しふわりとケインズの頭を抱きしめてきた。
 包まれる香りはソルドに明確な安心感と同時に、羞恥を運んできた。先ほどまでは人間の姿に戻れたことが嬉しくて、自らケインズを抱きかかえてしまった。
 しかし冷静さを取り戻してみればなんとも恥ずかしい己の行動に、どんどんと鼓動が早くなり全身が熱い。

「悪い子だねソルド」

 そっと両手で顔を上に向けられ、ケインズと目があえばその薄紫の瞳に囚われた。そのせいか、ぐっと近づいたケインズに反応することができず、気が付けばお互いの唇が重なり合っていた。
 始めは軽く微かに触れる程度のそれが、次第に深くなっていく。微かに口を開いてしまえば、ここぞとばかりにケインズの舌が口内に侵入しソルドを舌に絡めてくる。
 突然の出来事に混乱するのは、今度はソルドの番だった。
 がっちりと顔を固定され、顔を背けることもできないまま、ソルドは羞恥に顔を真っ赤にさせながらケインズに求められるままに口づけを続けた。
 否、ソルドの力があればケインズなど多少無理な体勢からでも、逃れることは充分に可能である。
 しかしソルドが自分自身に心の中で言い訳をしながらも逃れようとしないのは、ケインズに求められることが嬉しくて仕方なかったからだ。

「でっでん、か」

 ソルドが敢えて抵抗しないことに気が付いているのだろうケインズは、更に角度を変え深くソルドの口内を堪能するかのように嘗め回す。
 言い知れぬ気持ちよさと共に少しの息苦しさをソルドが感じていれば、猫耳の付け根を撫でまわされビクリと体が跳ねた。
 ソルド自身気が付いていなかったのだが、散り散りになりそうな理性をかき集めて意識をしてみれば、猫耳と尻尾は無くなることなく頭と尻に生えたままだった。

「ふふ、耳の内側まで真っ赤になっているよソルド」

 悪戯っぽく、それでいて異様に艶めいたケインズの声が猫の耳で拾ってしまい、腰がずしりと重くなる。
 これ以上はマズいと判断したソルドが微かに抵抗をしようとすれば、いつの間にか下に伸びていたケインズの手が、ソルドの尻尾を緩慢な動きで付け根から撫でていく。
 その感覚に堪らず逃げ出そうとすれば、欲望が光るケインズの瞳がソルドを逃さなかった。
 こんな年のいったむさ苦しい騎士である己にケインズが欲情しているのかと思えば、言い知れぬ高揚感と喜悦が溢れて仕方がない。今まで経験したことの無い感覚に、ソルドは溺れてしまいそうだった。

「好きだよソルド、君もそうだろう?」
「殿下っ……」

 ソルドがケインズの言葉に感極まると同時に、ばくばくと己の心臓の高鳴りが耳の側で聞こえる。
 それがだんだんと大きくなったかと思えば、ソルドがケインズに答えようとしたその時。再びソルドの視界は更にケインズを見上げるような物へと変わってしまった。
 驚愕に見開かれたケインズの顔に、ソルドもまた同じような顔をした。まさかここに来て、再び猫の姿に戻るとは思いもよらなかった。
 ソルドが己の姿に愕然とすれば、ケインズは床にへとたり込み同じような表情でソルドを見たのだった
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