猫耳のおじさん護衛騎士

関鷹親

文字の大きさ
上 下
41 / 44

41 夜の部屋

しおりを挟む
 ジェスが姿を消してから、既に半月が経っていた。ケインズは報告に訪れなくなったジェスに不安を覚え、カステルに内緒で王宮を抜け出しソルドの家を訪れていった。
 しかし家の中は明かりが落とされ、人が出入りしたような気配はどこにもない。ソルドも消えその上ジェスも消えたとなれば、ケインズの不安は最高潮に達したのは言うまでもない。
 ソウルを触りながら気を落ち着けようとしても無理だった。怪我をしてしまったのか、どこかで迷ってしまったのか。
 魔法を駆使し自信を大魔法使いだと豪語するジェスではあるが、元の世界とこの世界では勝手が違い、もし思うように能力が発揮できないと言うことがあるかもしれない。
 既に夜の帳は降り、ケインズの私室は静けさに包まれている。そんな中であれば、更に思考は良くない方向へと進んでいってしまう。

「最初から、人に頼まずに僕が探しに行けばよかった」

 ぽつりと零れたケインズの言葉に、膝の上で寝ていたソウルが反応を示す。どこか悲しそうな表情は、ケインズの心情を読み取ったか移ってしまったのかもしれない。

「僕の大事な人が居なくなってしまったんだ。彼の友人に捜索を頼んだんだけど、その友人も報告に訪れなくなってしまってね……危険な目に合っていなければよいのだけれど」

 それを聞いたソルドは、目が覚めるような思いだった。自身が一時の欲に走り、猫として生活していた傍ら、ジェスは必死でソルドのことを探していたと言うのだ。
 もちろんそれはケインズも同じだ。夜な夜などこかへ出かけていくこともあったケインズは、どうやらソルドが帰ってきてはいないかと、こっそり家を見に行っていたようだった。
 猫としてケインズの側に居られると言うことが心地よ過ぎてしまい、ソルドは自身の過ちに憤りを覚える。
 王都に来た時点で、ケインズに引き渡された時点で、それよりももっと前。八つ当たりをして家を飛び出さなければ、こんなことにはならなかった。

 ケインズは自身の身分柄、勝手にジェスの捜索を頼むこともできず、かといってそうソルドのことも探しに行けずに困り果てていた。
 そんなことなど露知らず、ソルドは“ソウル”としてぬくぬくと幸せを堪能していたのだ。申し訳なさが溢れ出し、今更だが自身がソルドであると気が付いてもらおうとケインズにアピールをするが、悲しそうにケインズは笑うだけだ。

「元気づけようとしてくれているのかな? 君は本当に僕の大切な人に似ているね」

 ゆっくりと抱き上げ、ソルドの体をゆるく抱きしめその毛の中に顔を埋めたケインズは、今にも泣きだしそうな声音で言葉を零す。

「好きなんだ、ソルド。私が早く自分の気持ちに気が付いて、ソルドにそういえばよかったんだ。でも気が付いてしまったら、どうしていいかわからなくなってしまった……うじうじとしていないで、早く好きだと、愛しているのだと伝えていれば……」

 小さく小さく呟かれたその言葉は、長い毛に吸収され人間の耳ならば聞き取れなかっただろう。
 だが今のソルドは猫であり、猫の能力はそのまま引き継がれている。三角の耳はしっかりとケインズの言葉を捉え、ソルドの鼓動を痛いくらいに早めた。
 ジェスの言う通り、ケインズは確かにソルドに対して明確に好意を持っていた。それはソルドが待ち望んでいた物だ。

 なぜ今この場で“私もです”とケインズに伝えられないのか。幼いころから泣くことなどしなかったケインズが、ソルドのために涙を流しているのだ。
 それにどれほど自身の浅ましさを浮き彫りにさせられると同時に、それほどケインズの中に己が居ると言うと事実は喜悦を味わわせる。
 溢れ出しそうな思いを伝えたくて仕方がないのに、喉から出る声は高い猫の声だ。それが今はどれ程もどかしいか。
 濡れぬ自身の毛はその範囲を増していく。なんとかケインズの顔を上げさせれば、綺麗な顔は普段では見ることができないほど酷く憔悴していた。
――私の、私のせいで!
 ソルドは抱きしめられている腕からぐっと背を伸ばし、ケインズの顔に自身の顔を近づける。
 ケインズの綺麗な薄紫の瞳には、真っ黒な猫が写る。ぽろりと零れた涙をソルドが舌で舐めれば、その途端に次々に涙が溢れ出し止まらなくない。
 暫く涙を舐めとっていれば、次第にケインズは落ち着きを取り戻したようだった。

「ありがとう、ソウル。お陰で少しだけ元気が出たみたいだ」

 にこりと不器用に笑ったケインズがぐっと顔を近づけると、ソルドの鼻先にキスを落とす。
 ソルドは自身のやるせなさに耳を倒したまま、謝罪も含めケインズにお返しとばかりに鼻先をケインズへとつけた。
しおりを挟む
感想 11

あなたにおすすめの小説

あなたと過ごした五年間~欠陥オメガと強すぎるアルファが出会ったら~

華抹茶
BL
子供の時の流行り病の高熱でオメガ性を失ったエリオット。だがその時に前世の記憶が蘇り、自分が異性愛者だったことを思い出す。オメガ性を失ったことを喜び、ベータとして生きていくことに。 もうすぐ学園を卒業するという時に、とある公爵家の嫡男の家庭教師を探しているという話を耳にする。その仕事が出来たらいいと面接に行くと、とんでもなく美しいアルファの子供がいた。 だがそのアルファの子供は、質素な別館で一人でひっそりと生活する孤独なアルファだった。その理由がこの子供のアルファ性が強すぎて誰も近寄れないからというのだ。 だがエリオットだけはそのフェロモンの影響を受けなかった。家庭教師の仕事も決まり、アルファの子供と接するうちに心に抱えた傷を知る。 子供はエリオットに心を開き、懐き、甘えてくれるようになった。だが子供が成長するにつれ少しずつ二人の関係に変化が訪れる。 アルファ性が強すぎて愛情を与えられなかった孤独なアルファ×オメガ性を失いベータと偽っていた欠陥オメガ ●オメガバースの話になります。かなり独自の設定を盛り込んでいます。 ●最終話まで執筆済み(全47話)。完結保障。毎日更新。 ●Rシーンには※つけてます。

男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。

カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。 今年のメインイベントは受験、 あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。 だがそんな彼は飛行機が苦手だった。 電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?! あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな? 急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。 さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?! 変なレアスキルや神具、 八百万(やおよろず)の神の加護。 レアチート盛りだくさん?! 半ばあたりシリアス 後半ざまぁ。 訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前 お腹がすいた時に食べたい食べ物など 思いついた名前とかをもじり、 なんとか、名前決めてます。     *** お名前使用してもいいよ💕っていう 心優しい方、教えて下さい🥺 悪役には使わないようにします、たぶん。 ちょっとオネェだったり、 アレ…だったりする程度です😁 すでに、使用オッケーしてくださった心優しい 皆様ありがとうございます😘 読んでくださる方や応援してくださる全てに めっちゃ感謝を込めて💕 ありがとうございます💞

王道学園の冷徹生徒会長、裏の顔がバレて総受けルート突入しちゃいました!え?逃げ場無しですか?

名無しのナナ氏
BL
王道学園に入学して1ヶ月でトップに君臨した冷徹生徒会長、有栖川 誠(ありすがわ まこと)。常に冷静で無表情、そして無言の誠を生徒達からは尊敬の眼差しで見られていた。 そんな彼のもう1つの姿は… どの企業にも属さないにも関わらず、VTuber界で人気を博した個人VTuber〈〈 アイリス 〉〉!? 本性は寂しがり屋の泣き虫。色々あって周りから誤解されまくってしまった結果アイリスとして素を出していた。そんなある日、生徒会の仕事を1人で黙々とやっている内に疲れてしまい__________ ※ ・非王道気味 ・固定カプ予定は無い ・悲しい過去🐜のたまにシリアス ・話の流れが遅い

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます

まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。 貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。 そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。 ☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。 ☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

兄たちが弟を可愛がりすぎです

クロユキ
BL
俺が風邪で寝ていた目が覚めたら異世界!? メイド、王子って、俺も王子!? おっと、俺の自己紹介忘れてた!俺の、名前は坂田春人高校二年、別世界にウィル王子の身体に入っていたんだ!兄王子に振り回されて、俺大丈夫か?! 涙脆く可愛い系に弱い春人の兄王子達に振り回され護衛騎士に迫って慌てていっもハラハラドキドキたまにはバカな事を言ったりとしている主人公春人の話を楽しんでくれたら嬉しいです。 1日の話しが長い物語です。 誤字脱字には気をつけてはいますが、余り気にしないよ~と言う方がいましたら嬉しいです。

猫を拾ったら聖獣で犬を拾ったら神獣で最強すぎて困る

マーラッシュ
ファンタジー
旧題:狙って勇者パーティーを追放されて猫を拾ったら聖獣で犬を拾ったら神獣だった。そして人間を拾ったら・・・ 何かを拾う度にトラブルに巻き込まれるけど、結果成り上がってしまう。 異世界転生者のユートは、バルトフェル帝国の山奥に一人で住んでいた。  ある日、盗賊に襲われている公爵令嬢を助けたことによって、勇者パーティーに推薦されることになる。  断ると角が立つと思い仕方なしに引き受けるが、このパーティーが最悪だった。  勇者ギアベルは皇帝の息子でやりたい放題。活躍すれば咎められ、上手く行かなければユートのせいにされ、パーティーに入った初日から後悔するのだった。そして他の仲間達は全て女性で、ギアベルに絶対服従していたため、味方は誰もいない。  ユートはすぐにでもパーティーを抜けるため、情報屋に金を払い噂を流すことにした。  勇者パーティーはユートがいなければ何も出来ない集団だという内容でだ。  プライドが高いギアベルは、噂を聞いてすぐに「貴様のような役立たずは勇者パーティーには必要ない!」と公衆の面前で追放してくれた。  しかし晴れて自由の身になったが、一つだけ誤算があった。  それはギアベルの怒りを買いすぎたせいで、帝国を追放されてしまったのだ。  そしてユートは荷物を取りに行くため自宅に戻ると、そこには腹をすかした猫が、道端には怪我をした犬が、さらに船の中には女の子が倒れていたが、それぞれの正体はとんでもないものであった。  これは自重できない異世界転生者が色々なものを拾った結果、トラブルに巻き込まれ解決していき成り上がり、幸せな異世界ライフを満喫する物語である。

幽閉王子は最強皇子に包まれる

皇洵璃音
BL
魔法使いであるせいで幼少期に幽閉された第三王子のアレクセイ。それから年数が経過し、ある日祖国は滅ぼされてしまう。毛布に包まっていたら、敵の帝国第二皇子のレイナードにより連行されてしまう。処刑場にて皇帝から二つの選択肢を提示されたのだが、二つ目の内容は「レイナードの花嫁になること」だった。初めて人から求められたこともあり、花嫁になることを承諾する。素直で元気いっぱいなド直球第二皇子×愛されることに慣れていない治癒魔法使いの第三王子の恋愛物語。 表紙担当者:白す(しらす)様に描いて頂きました。

病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。 人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。 2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事) 。 誰も俺に気付いてはくれない。そう。 2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。 もう、全部どうでもよく感じた。

処理中です...