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41 夜の部屋
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ジェスが姿を消してから、既に半月が経っていた。ケインズは報告に訪れなくなったジェスに不安を覚え、カステルに内緒で王宮を抜け出しソルドの家を訪れていった。
しかし家の中は明かりが落とされ、人が出入りしたような気配はどこにもない。ソルドも消えその上ジェスも消えたとなれば、ケインズの不安は最高潮に達したのは言うまでもない。
ソウルを触りながら気を落ち着けようとしても無理だった。怪我をしてしまったのか、どこかで迷ってしまったのか。
魔法を駆使し自信を大魔法使いだと豪語するジェスではあるが、元の世界とこの世界では勝手が違い、もし思うように能力が発揮できないと言うことがあるかもしれない。
既に夜の帳は降り、ケインズの私室は静けさに包まれている。そんな中であれば、更に思考は良くない方向へと進んでいってしまう。
「最初から、人に頼まずに僕が探しに行けばよかった」
ぽつりと零れたケインズの言葉に、膝の上で寝ていたソウルが反応を示す。どこか悲しそうな表情は、ケインズの心情を読み取ったか移ってしまったのかもしれない。
「僕の大事な人が居なくなってしまったんだ。彼の友人に捜索を頼んだんだけど、その友人も報告に訪れなくなってしまってね……危険な目に合っていなければよいのだけれど」
それを聞いたソルドは、目が覚めるような思いだった。自身が一時の欲に走り、猫として生活していた傍ら、ジェスは必死でソルドのことを探していたと言うのだ。
もちろんそれはケインズも同じだ。夜な夜などこかへ出かけていくこともあったケインズは、どうやらソルドが帰ってきてはいないかと、こっそり家を見に行っていたようだった。
猫としてケインズの側に居られると言うことが心地よ過ぎてしまい、ソルドは自身の過ちに憤りを覚える。
王都に来た時点で、ケインズに引き渡された時点で、それよりももっと前。八つ当たりをして家を飛び出さなければ、こんなことにはならなかった。
ケインズは自身の身分柄、勝手にジェスの捜索を頼むこともできず、かといってそうソルドのことも探しに行けずに困り果てていた。
そんなことなど露知らず、ソルドは“ソウル”としてぬくぬくと幸せを堪能していたのだ。申し訳なさが溢れ出し、今更だが自身がソルドであると気が付いてもらおうとケインズにアピールをするが、悲しそうにケインズは笑うだけだ。
「元気づけようとしてくれているのかな? 君は本当に僕の大切な人に似ているね」
ゆっくりと抱き上げ、ソルドの体をゆるく抱きしめその毛の中に顔を埋めたケインズは、今にも泣きだしそうな声音で言葉を零す。
「好きなんだ、ソルド。私が早く自分の気持ちに気が付いて、ソルドにそういえばよかったんだ。でも気が付いてしまったら、どうしていいかわからなくなってしまった……うじうじとしていないで、早く好きだと、愛しているのだと伝えていれば……」
小さく小さく呟かれたその言葉は、長い毛に吸収され人間の耳ならば聞き取れなかっただろう。
だが今のソルドは猫であり、猫の能力はそのまま引き継がれている。三角の耳はしっかりとケインズの言葉を捉え、ソルドの鼓動を痛いくらいに早めた。
ジェスの言う通り、ケインズは確かにソルドに対して明確に好意を持っていた。それはソルドが待ち望んでいた物だ。
なぜ今この場で“私もです”とケインズに伝えられないのか。幼いころから泣くことなどしなかったケインズが、ソルドのために涙を流しているのだ。
それにどれほど自身の浅ましさを浮き彫りにさせられると同時に、それほどケインズの中に己が居ると言うと事実は喜悦を味わわせる。
溢れ出しそうな思いを伝えたくて仕方がないのに、喉から出る声は高い猫の声だ。それが今はどれ程もどかしいか。
濡れぬ自身の毛はその範囲を増していく。なんとかケインズの顔を上げさせれば、綺麗な顔は普段では見ることができないほど酷く憔悴していた。
――私の、私のせいで!
ソルドは抱きしめられている腕からぐっと背を伸ばし、ケインズの顔に自身の顔を近づける。
ケインズの綺麗な薄紫の瞳には、真っ黒な猫が写る。ぽろりと零れた涙をソルドが舌で舐めれば、その途端に次々に涙が溢れ出し止まらなくない。
暫く涙を舐めとっていれば、次第にケインズは落ち着きを取り戻したようだった。
「ありがとう、ソウル。お陰で少しだけ元気が出たみたいだ」
にこりと不器用に笑ったケインズがぐっと顔を近づけると、ソルドの鼻先にキスを落とす。
ソルドは自身のやるせなさに耳を倒したまま、謝罪も含めケインズにお返しとばかりに鼻先をケインズへとつけた。
しかし家の中は明かりが落とされ、人が出入りしたような気配はどこにもない。ソルドも消えその上ジェスも消えたとなれば、ケインズの不安は最高潮に達したのは言うまでもない。
ソウルを触りながら気を落ち着けようとしても無理だった。怪我をしてしまったのか、どこかで迷ってしまったのか。
魔法を駆使し自信を大魔法使いだと豪語するジェスではあるが、元の世界とこの世界では勝手が違い、もし思うように能力が発揮できないと言うことがあるかもしれない。
既に夜の帳は降り、ケインズの私室は静けさに包まれている。そんな中であれば、更に思考は良くない方向へと進んでいってしまう。
「最初から、人に頼まずに僕が探しに行けばよかった」
ぽつりと零れたケインズの言葉に、膝の上で寝ていたソウルが反応を示す。どこか悲しそうな表情は、ケインズの心情を読み取ったか移ってしまったのかもしれない。
「僕の大事な人が居なくなってしまったんだ。彼の友人に捜索を頼んだんだけど、その友人も報告に訪れなくなってしまってね……危険な目に合っていなければよいのだけれど」
それを聞いたソルドは、目が覚めるような思いだった。自身が一時の欲に走り、猫として生活していた傍ら、ジェスは必死でソルドのことを探していたと言うのだ。
もちろんそれはケインズも同じだ。夜な夜などこかへ出かけていくこともあったケインズは、どうやらソルドが帰ってきてはいないかと、こっそり家を見に行っていたようだった。
猫としてケインズの側に居られると言うことが心地よ過ぎてしまい、ソルドは自身の過ちに憤りを覚える。
王都に来た時点で、ケインズに引き渡された時点で、それよりももっと前。八つ当たりをして家を飛び出さなければ、こんなことにはならなかった。
ケインズは自身の身分柄、勝手にジェスの捜索を頼むこともできず、かといってそうソルドのことも探しに行けずに困り果てていた。
そんなことなど露知らず、ソルドは“ソウル”としてぬくぬくと幸せを堪能していたのだ。申し訳なさが溢れ出し、今更だが自身がソルドであると気が付いてもらおうとケインズにアピールをするが、悲しそうにケインズは笑うだけだ。
「元気づけようとしてくれているのかな? 君は本当に僕の大切な人に似ているね」
ゆっくりと抱き上げ、ソルドの体をゆるく抱きしめその毛の中に顔を埋めたケインズは、今にも泣きだしそうな声音で言葉を零す。
「好きなんだ、ソルド。私が早く自分の気持ちに気が付いて、ソルドにそういえばよかったんだ。でも気が付いてしまったら、どうしていいかわからなくなってしまった……うじうじとしていないで、早く好きだと、愛しているのだと伝えていれば……」
小さく小さく呟かれたその言葉は、長い毛に吸収され人間の耳ならば聞き取れなかっただろう。
だが今のソルドは猫であり、猫の能力はそのまま引き継がれている。三角の耳はしっかりとケインズの言葉を捉え、ソルドの鼓動を痛いくらいに早めた。
ジェスの言う通り、ケインズは確かにソルドに対して明確に好意を持っていた。それはソルドが待ち望んでいた物だ。
なぜ今この場で“私もです”とケインズに伝えられないのか。幼いころから泣くことなどしなかったケインズが、ソルドのために涙を流しているのだ。
それにどれほど自身の浅ましさを浮き彫りにさせられると同時に、それほどケインズの中に己が居ると言うと事実は喜悦を味わわせる。
溢れ出しそうな思いを伝えたくて仕方がないのに、喉から出る声は高い猫の声だ。それが今はどれ程もどかしいか。
濡れぬ自身の毛はその範囲を増していく。なんとかケインズの顔を上げさせれば、綺麗な顔は普段では見ることができないほど酷く憔悴していた。
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ケインズの綺麗な薄紫の瞳には、真っ黒な猫が写る。ぽろりと零れた涙をソルドが舌で舐めれば、その途端に次々に涙が溢れ出し止まらなくない。
暫く涙を舐めとっていれば、次第にケインズは落ち着きを取り戻したようだった。
「ありがとう、ソウル。お陰で少しだけ元気が出たみたいだ」
にこりと不器用に笑ったケインズがぐっと顔を近づけると、ソルドの鼻先にキスを落とす。
ソルドは自身のやるせなさに耳を倒したまま、謝罪も含めケインズにお返しとばかりに鼻先をケインズへとつけた。
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