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40 名付け
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「決めた、この子の名前はソウルにしよう」
朝起きてからというもの、なにかいい名前はないかとケインズは頭を悩ませていた。しかし猫の姿を見れば見るほど浮かんでくるのはソルドの名前だけだ。
政務の間に名づけの本に目を通しては見たものの、しっくりくるものはついぞ見つからない。
であるならば、いっそのことソルドの名前に近しい物にしようと今度は頭を捻った結果、ソウルと言う名前に落ち着いたのだった。
「いくらソルドさんの色に似ているからって、名前が安直過ぎでは?」
「仕方ないだろう? どれもしっくりこないのだから。君もこの名前でいいだろう、ソウル」
問いかけながら頭を撫でれば、ソウルは気持ちよさそうに目を細める。
「ほら、彼もこの名前が気に入ったようだよ」
「すっかり猫馬鹿になっちゃいましたね殿下……」
呆れるように言ったカステルだったが、ソルドとの関係が不穏になってから見せなかった穏やかな雰囲気を纏うケインズに、ほっとしている部分もあった。
すっかり虜になってしまったのか、ケインズは朝からソウルに付きっきりだ。朝からソウル用の服を仕立てようと言いつけ、使用人の誰にも触らせずに自らソウルの世話をしていた。
周りの反対を押し切り、ケインズは執務室にまでソウルを連れて行った。先に室内にいた文官や、書類を持って来る文官や大臣達は、急に現れた猫の姿に大層驚いていた。
事情を説明するカステルはこの日だけで疲労困憊であったが、それでもケインズがソウルが居ることで心が穏やかになるならと、仕事をしていた。
一方でケインズ手ずから世話をされるソルドは、幸せなひと時を味わっていた。戯れをしていた時のようにブラシで丁寧に毛を梳かれる。香油はケインズが使っていた物だ。
あの時感じていた心地よさが蘇り、無意識に体が伸びごろごろと喉が鳴る。それを嬉しそうに眺めるケインズは穏やかな表情だった。
時折護衛騎士の立ち位置を見るケインズは、もしかしたら、自分自身を案じてくれているのではないかと淡い期待が過る。
だがジェスから行方不明と聞いていないのか、それとも上手く誤魔化しているのかわからないが、ソルドがおらずともケインズは穏やかに見えた。
そのことに寂しさを覚えてしまう。自分から出ていき猫の姿になっていると言うのに、それはそれだと自身の感情をどうにも棚に上げてしまうのだ。
しかし今の状態は、心置きなくケインズに触れ甘えることができる。この環境もまた大変に捨てがたく思っていた。
鬱蒼とした森の中。ジェスは朦朧と彷徨っていた。ケインズから渡されたお金をウッカリとスラれてからと言うもの、まともにご飯を食べていなかった。
燃費が悪く、元々魔力も溜まっていないジェスは僅かな魔力でケインズの元へと戻ろうとしたのだ。
だが転移しようにも遠くにき過ぎてしまっていたために、残りの魔力では王都にすら戻るのは無理だった。
とぼとぼと歩いていれば、辺りはいつの間にやら鬱蒼とした森だった。
「あぁぁぁもう嫌じゃぁぁ、坊のばかものぉぉぉ」
ぐしぐしと大声を上げながらジェスは森の中をひたすら進む。
有り余る魔力のお陰で、ジェスの移動手段は専ら転移だった。
元いた世界の自身の家ですら面倒で転移で部屋間を移動していた。
そのせいで自身の足で歩くと、途端に方向音痴を発揮し迷子になってしまうのだ。
そう、今現在ジェスは森の中で迷子になっていた。食べるものがあまり無い森では、どう頑張っても魔力は増えない。
懸命に森の外を目指すも、さらに深く潜ってしまっていることにもジェスは気が付けないでいた。
ぐしぐしと涙を拭っていれば、突如目の前の空間が歪み、ジェスは全身の毛を逆立て警戒体制を取る。
魔法が無いこの世界で、自分以外に転移を使えるものはいない。
だが目の前の歪みは紛れもなく転移時にできる歪みだ。
ジリジリと後退していけば、ジェスが身を隠すよりも早く歪みから二人の青年が姿を見て現す。
その姿を見たジェスは驚愕に目を見開いた。
「兄上、やっと捕まえましたよ」
「あぁぁぁジョエール!? それに小僧!?」
「全く世話が焼ける、もう充分だろう帰るぞジェス」
歪みから現れたのは眉間にこれでもかと深い谷間を作る眼鏡の美男子であるジェスの弟ジョエールと、ソルドに引けを取らない大きな体と威厳のあるオーラを放つ偉丈夫、皇帝アイオンだった。
まさかこの世界まで追ってこれると思っていなかったジェスは、驚きのあまり驚愕し固まるしかなかった。
確かにジョエールはジェスに次ぐ大魔法使いなので、異界を渡ることもできるだろう。
しかし遠すぎるこの場所に、しかもアイオンを伴って現れるのは並大抵ではできない。
「時間がありません、行きますよ兄上」
「ま、まて、待つのじゃ、我にはやらなきゃならないことが……!!」
「待つわけがないだろう! もう騙されないからな、いつまで逃げるつもりだジェス!」
ガッツリと首根っこをアイオンに掴まれたジェスを、ジョエールが縄で手早く縛る。
完全に逃げ出せなくなったジェスを抱え、二人は歪みの中へと再び進んだ。
「待て、待つのじゃ、我はソルドを探さねばならぬのじゃぁぁぁ!!!!」
ジェスの叫びはそのまま転移に吸い込まれ、森は静寂を取り戻したのだった。
朝起きてからというもの、なにかいい名前はないかとケインズは頭を悩ませていた。しかし猫の姿を見れば見るほど浮かんでくるのはソルドの名前だけだ。
政務の間に名づけの本に目を通しては見たものの、しっくりくるものはついぞ見つからない。
であるならば、いっそのことソルドの名前に近しい物にしようと今度は頭を捻った結果、ソウルと言う名前に落ち着いたのだった。
「いくらソルドさんの色に似ているからって、名前が安直過ぎでは?」
「仕方ないだろう? どれもしっくりこないのだから。君もこの名前でいいだろう、ソウル」
問いかけながら頭を撫でれば、ソウルは気持ちよさそうに目を細める。
「ほら、彼もこの名前が気に入ったようだよ」
「すっかり猫馬鹿になっちゃいましたね殿下……」
呆れるように言ったカステルだったが、ソルドとの関係が不穏になってから見せなかった穏やかな雰囲気を纏うケインズに、ほっとしている部分もあった。
すっかり虜になってしまったのか、ケインズは朝からソウルに付きっきりだ。朝からソウル用の服を仕立てようと言いつけ、使用人の誰にも触らせずに自らソウルの世話をしていた。
周りの反対を押し切り、ケインズは執務室にまでソウルを連れて行った。先に室内にいた文官や、書類を持って来る文官や大臣達は、急に現れた猫の姿に大層驚いていた。
事情を説明するカステルはこの日だけで疲労困憊であったが、それでもケインズがソウルが居ることで心が穏やかになるならと、仕事をしていた。
一方でケインズ手ずから世話をされるソルドは、幸せなひと時を味わっていた。戯れをしていた時のようにブラシで丁寧に毛を梳かれる。香油はケインズが使っていた物だ。
あの時感じていた心地よさが蘇り、無意識に体が伸びごろごろと喉が鳴る。それを嬉しそうに眺めるケインズは穏やかな表情だった。
時折護衛騎士の立ち位置を見るケインズは、もしかしたら、自分自身を案じてくれているのではないかと淡い期待が過る。
だがジェスから行方不明と聞いていないのか、それとも上手く誤魔化しているのかわからないが、ソルドがおらずともケインズは穏やかに見えた。
そのことに寂しさを覚えてしまう。自分から出ていき猫の姿になっていると言うのに、それはそれだと自身の感情をどうにも棚に上げてしまうのだ。
しかし今の状態は、心置きなくケインズに触れ甘えることができる。この環境もまた大変に捨てがたく思っていた。
鬱蒼とした森の中。ジェスは朦朧と彷徨っていた。ケインズから渡されたお金をウッカリとスラれてからと言うもの、まともにご飯を食べていなかった。
燃費が悪く、元々魔力も溜まっていないジェスは僅かな魔力でケインズの元へと戻ろうとしたのだ。
だが転移しようにも遠くにき過ぎてしまっていたために、残りの魔力では王都にすら戻るのは無理だった。
とぼとぼと歩いていれば、辺りはいつの間にやら鬱蒼とした森だった。
「あぁぁぁもう嫌じゃぁぁ、坊のばかものぉぉぉ」
ぐしぐしと大声を上げながらジェスは森の中をひたすら進む。
有り余る魔力のお陰で、ジェスの移動手段は専ら転移だった。
元いた世界の自身の家ですら面倒で転移で部屋間を移動していた。
そのせいで自身の足で歩くと、途端に方向音痴を発揮し迷子になってしまうのだ。
そう、今現在ジェスは森の中で迷子になっていた。食べるものがあまり無い森では、どう頑張っても魔力は増えない。
懸命に森の外を目指すも、さらに深く潜ってしまっていることにもジェスは気が付けないでいた。
ぐしぐしと涙を拭っていれば、突如目の前の空間が歪み、ジェスは全身の毛を逆立て警戒体制を取る。
魔法が無いこの世界で、自分以外に転移を使えるものはいない。
だが目の前の歪みは紛れもなく転移時にできる歪みだ。
ジリジリと後退していけば、ジェスが身を隠すよりも早く歪みから二人の青年が姿を見て現す。
その姿を見たジェスは驚愕に目を見開いた。
「兄上、やっと捕まえましたよ」
「あぁぁぁジョエール!? それに小僧!?」
「全く世話が焼ける、もう充分だろう帰るぞジェス」
歪みから現れたのは眉間にこれでもかと深い谷間を作る眼鏡の美男子であるジェスの弟ジョエールと、ソルドに引けを取らない大きな体と威厳のあるオーラを放つ偉丈夫、皇帝アイオンだった。
まさかこの世界まで追ってこれると思っていなかったジェスは、驚きのあまり驚愕し固まるしかなかった。
確かにジョエールはジェスに次ぐ大魔法使いなので、異界を渡ることもできるだろう。
しかし遠すぎるこの場所に、しかもアイオンを伴って現れるのは並大抵ではできない。
「時間がありません、行きますよ兄上」
「ま、まて、待つのじゃ、我にはやらなきゃならないことが……!!」
「待つわけがないだろう! もう騙されないからな、いつまで逃げるつもりだジェス!」
ガッツリと首根っこをアイオンに掴まれたジェスを、ジョエールが縄で手早く縛る。
完全に逃げ出せなくなったジェスを抱え、二人は歪みの中へと再び進んだ。
「待て、待つのじゃ、我はソルドを探さねばならぬのじゃぁぁぁ!!!!」
ジェスの叫びはそのまま転移に吸い込まれ、森は静寂を取り戻したのだった。
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