猫耳のおじさん護衛騎士

関鷹親

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 籠の中から覗くつぶらな瞳に酷く既視感を感じたケインズは、そのまま籠の中から猫を取り出した。
 ふさふさの毛をした猫は嫌がる素振りも見せず、恐る恐るだがケインズにすり寄ってくる。

「ケインズが最近気になるって言ってたのを思い出してな。ここに来る途中酷い扱いを受けていたソイツを買ったんだ」
「酷い扱い?」
「小さい袋に無理やり詰め込まれて、怪我までしてた。本来ならそんな猫など土産にふさわしくないだろうが……だけどほら、あいつに似てるだろう?」

 チェイスにそう言われ猫をまじまじと見てみれば、黒い毛に緑に黄色が見える瞳はソルドを思い出させた。
 なるほど既視感の原因はこれかとケインズは溶けたような笑みを浮かべると、猫を抱きしめる。

「確かに似ているね、素敵な贈り物をありがとうチェイス」
「どういたしまして、ケインズ」

 ケインズの膝の上に乗せられたソルドは、やっとケインズの元へと帰ることができ、心の底から安堵した。
 チェイスと会話を楽しむケインズだが、その手は常にソルドの背を丁寧に撫でる。それはいつも猫耳や尻尾を撫でてきた時と同じで、とても優しい物だった。
 張り詰めていた緊張の糸はすっかりと緩み、ソルドはケインズの膝の上でいつの間にか深い眠りへと落ちていた。



 ソルドが目を覚ましたのは夜もすっかり更けたころだった。体が重く、もぞもぞと身動きすればすぐ隣からくぐもった声が聞こえてくる。
 自分だけだと思っていたソルドはびっくりしてしまい、毛をこれでもかと逆立てる。だが次の瞬間には力強い腕に抱き込まれ、息を呑んだ。
 一緒に寝ていたのはケインズだったのだ。至近距離にあるケインズの顔と、一緒のベッドで、しかも抱き込まれていると言う状況にソルドは狼狽え、鼓動がこれでもかと早くなる。
 落ち着かない状況になんとかケインズの腕の中から抜け出そうと藻掻けば、ケインズも目を覚ましてしまった。

「起きてしまったのかい?」

 掠れた寝起きの声に、優しく見つめてくる瞳。人間であったならソルドの顔は真っ赤を通り越していただろう。幸い今は黒の毛に覆われていて、目が大きく見開かれるぐらいしか変化がないのが救いだ。

「お腹は空いてないかい? 君はすぐに寝てしまったからね。用意させよう」

 慌てて止めようとしたが、ソルドはハタと思いとどまった。今の自分は猫だ。人間では身分が邪魔をして行動を起こせないが、この姿ならケインズに甘えても誰からも咎められないのではないだろうかと。
 猫がソルドなのだと気づいてもらい、ジェスに連絡を取ってこの魔法を解いてもらうことが良いのはわかってはいる。
 だが人間の姿では己の感情を素直には出せはしないし、出していいものではない。でも猫の姿であるならば。少しの間だけでも。
 気が付けばソルドはふらふらと欲望のまま、ソルドのご飯の用意をしているケインズの足元へと近づき頭をごつんと何度も擦り付けていた。

「ふふ可愛いね、ほら早く食べなさい」

 ぐりぐりと足に体を擦り付け続けるソルドを引きはがしたケインズは、テーブルの上にソルドを乗せる。
 ソルドの目の前にはチェイスから聞いていたのだろう、きちんと人間が食べるような焼いた細切れの肉が乗っていた。

「明日は君の名前も考えないとね」

 優し気に目を細めるケインズに、ソルドの胸は締め付けられるほど弾んだ。
 遅すぎる夕飯を食べ終えれば満腹になったせいだろう、ソルドに再び睡魔が襲い掛かる。そんなケインズは何事も無いようにソルドを抱え上げると、再びベッドへと向かいソルドも布団の中へと入れた。ドキドキと心拍数は再び上昇してしまう。

「おやすみ」

 優しく頭を撫でられたかと思うと、ちゅっとリップ音が聞こえソルドは固まってしまった。
 今のは間違いなくキスだ。好きな人からされるキスとは、これほどまでに胸が高鳴り爆発しそうになるのかと、ソルドは布団の中で体を丸め身悶えた。
 猫の姿も悪くない。やはり暫くはこの姿でいようとソルドは決意してしまうのだった。
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