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38 チェイスとソルド
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ソルドは無事に王宮へと戻って来た。チェイスに宛がわれた離宮へと入れば、ソルドはすぐさまその離宮に務める者達によって丁寧に風呂に入れられた。
ふさふさの毛はお湯によってぺしゃりと一瞬で萎み、元の肉体からは考えられない貧相な体を露わにする。
風呂を出れば丁寧に乾かされ、いつの間に用意されたのか豪華な猫用のマントと、大きな宝石が付いた首輪が付けられた。
頭の後ろにある大きなリボンが鬱陶しく、足で掻こうとしてしまえば血相を変えた侍女や侍従達に止められる。
ハッとしたソルドは、猫の本能を精神鍛錬の一環と位置付け耐えに耐えた。爪は当然のように短く切られ、豪華な食事が与えられる。
チェイスと共に王宮へ来る間、猫用の生肉をソルドが嫌がったために、更にはきちんと焼かれ細かく切られた肉が乗っていた。
猫にしては豪華な食事に、過剰なまでの好待遇。王子への土産とされるので扱いは最上の物であるのだが、ソルドは大いに戸惑った。人間である時ですら受けたことがない待遇なのだから当然だ。
チェイスは使者らしく、早くに起き遅くまで帰ってこない。いつケインズの元へ連れて行ってくれるかと、ソルドは日々ソワソワとしながらチェイスの帰りを待っていた。
「なんだお前、まだ寝てないのか」
酒の匂いを大量に漂わせながら帰って来たチェイスに、ソルドは鼻筋に皺を寄せる。しかし次の瞬間には、チェイスに喋りかけるように鳴いた。
「にゃう、うにゃぁ? にゃにゃう」
「何を言っているかわからんが、可愛いな」
顔を寄せてくるチェイスを両手で必死に抑えた。それがお気に召したのか、チェイスは上機嫌だ。
「あぁケインズにやるのが勿体ない気もするな」
「ふにゃぁ!? にゃにゃにゃ、にゃあぁぁぁ」
「なんだ腹でも空いたか? 誰かこいつにミルクでもやってくれ」
「殿下、だめですよ。うちの城は動物禁止なんですから」
「わかっているさ。しかしこうも人懐っこくて面白い猫もそうそういないだろう?」
素早く用意されたミルクを仕方なしに飲みながら、ソルドはチェイス達の話に耳を傾ける。
どうやらチェイス自身が飼う言うことがなさそうでほっと息を吐いた。せっかくここまでたどり着いたのに、他国に連れていかれては堪ったものではない。
チェイスがケインズの元を訪れたのは、式典から四日が立っていた。ソルドはその間、毎日ソワソワと落ち着かない日々を過ごしたのは言うまでもない。近くにいるのに会えないことがこれほど辛いとは思わなかった。
その日は朝から更に飾り立てられ、大きな籠に入れられた。これは間違いなくケインズの元へ連れていかれるに違いないと、ソルドは胸を高鳴らせたのだった。
「ケインズ、お前更に顔色が酷くなってるんじゃないか?」
公務ではなく、私的な場として設けられた部屋に入ったチェイスは開口一番そう言った。毎夜ジェスから報告される捜索状況は思わしくない。突然消えてしまったように、どこにも痕跡がないのだと言うのだ。
そんな報告を毎日聞かされているケインズは、精神的に参ってしまっていた。公務はこなせるし、カステル以外にバレはしないのだが。
カステルにはソルドが療養で側に居ないため酷い恋煩いだと早々に思われていた。あながち間違っていないので軽く流していたが、日覆うごとに不安定さが滲み出るケインズをカステルは心配している。
「そんなに猫が居なくなったのが辛いのか?」
「あぁそうだね、とても辛いさ」
「ははは、じゃぁナイスタイミングだったわけだな。おい、アレを持ってきてくれ」
「アレとは?」
「言っただろう、土産があるんだよ」
新たに運ばれてきた小ぶりのテーブルと、布を被せられた何かを侍従達が運んできた。ケインズの前に置かれたそれを見ていれば、チェイスに早く開けろと促される。
被せられた布を取り払えば、中には金の籠に入った真っ黒な黒猫が、うるうるとした瞳でケインズを見つめていたのだった。
ふさふさの毛はお湯によってぺしゃりと一瞬で萎み、元の肉体からは考えられない貧相な体を露わにする。
風呂を出れば丁寧に乾かされ、いつの間に用意されたのか豪華な猫用のマントと、大きな宝石が付いた首輪が付けられた。
頭の後ろにある大きなリボンが鬱陶しく、足で掻こうとしてしまえば血相を変えた侍女や侍従達に止められる。
ハッとしたソルドは、猫の本能を精神鍛錬の一環と位置付け耐えに耐えた。爪は当然のように短く切られ、豪華な食事が与えられる。
チェイスと共に王宮へ来る間、猫用の生肉をソルドが嫌がったために、更にはきちんと焼かれ細かく切られた肉が乗っていた。
猫にしては豪華な食事に、過剰なまでの好待遇。王子への土産とされるので扱いは最上の物であるのだが、ソルドは大いに戸惑った。人間である時ですら受けたことがない待遇なのだから当然だ。
チェイスは使者らしく、早くに起き遅くまで帰ってこない。いつケインズの元へ連れて行ってくれるかと、ソルドは日々ソワソワとしながらチェイスの帰りを待っていた。
「なんだお前、まだ寝てないのか」
酒の匂いを大量に漂わせながら帰って来たチェイスに、ソルドは鼻筋に皺を寄せる。しかし次の瞬間には、チェイスに喋りかけるように鳴いた。
「にゃう、うにゃぁ? にゃにゃう」
「何を言っているかわからんが、可愛いな」
顔を寄せてくるチェイスを両手で必死に抑えた。それがお気に召したのか、チェイスは上機嫌だ。
「あぁケインズにやるのが勿体ない気もするな」
「ふにゃぁ!? にゃにゃにゃ、にゃあぁぁぁ」
「なんだ腹でも空いたか? 誰かこいつにミルクでもやってくれ」
「殿下、だめですよ。うちの城は動物禁止なんですから」
「わかっているさ。しかしこうも人懐っこくて面白い猫もそうそういないだろう?」
素早く用意されたミルクを仕方なしに飲みながら、ソルドはチェイス達の話に耳を傾ける。
どうやらチェイス自身が飼う言うことがなさそうでほっと息を吐いた。せっかくここまでたどり着いたのに、他国に連れていかれては堪ったものではない。
チェイスがケインズの元を訪れたのは、式典から四日が立っていた。ソルドはその間、毎日ソワソワと落ち着かない日々を過ごしたのは言うまでもない。近くにいるのに会えないことがこれほど辛いとは思わなかった。
その日は朝から更に飾り立てられ、大きな籠に入れられた。これは間違いなくケインズの元へ連れていかれるに違いないと、ソルドは胸を高鳴らせたのだった。
「ケインズ、お前更に顔色が酷くなってるんじゃないか?」
公務ではなく、私的な場として設けられた部屋に入ったチェイスは開口一番そう言った。毎夜ジェスから報告される捜索状況は思わしくない。突然消えてしまったように、どこにも痕跡がないのだと言うのだ。
そんな報告を毎日聞かされているケインズは、精神的に参ってしまっていた。公務はこなせるし、カステル以外にバレはしないのだが。
カステルにはソルドが療養で側に居ないため酷い恋煩いだと早々に思われていた。あながち間違っていないので軽く流していたが、日覆うごとに不安定さが滲み出るケインズをカステルは心配している。
「そんなに猫が居なくなったのが辛いのか?」
「あぁそうだね、とても辛いさ」
「ははは、じゃぁナイスタイミングだったわけだな。おい、アレを持ってきてくれ」
「アレとは?」
「言っただろう、土産があるんだよ」
新たに運ばれてきた小ぶりのテーブルと、布を被せられた何かを侍従達が運んできた。ケインズの前に置かれたそれを見ていれば、チェイスに早く開けろと促される。
被せられた布を取り払えば、中には金の籠に入った真っ黒な黒猫が、うるうるとした瞳でケインズを見つめていたのだった。
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