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36 チェイス
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「なんだ? なんか聞こえないか?」
「あそこからか」
馬に跨っていた騎士達が、ソルドが上げる声に気が付き馬の歩みを緩める。商人たちはいきなり騒ぎ出した袋の中の猫に慌てふためいた。
しかし頭を下げていなければならない状態のため、猫を黙らせることができない。不興を買ってしまわないかと男たちは冷や汗をかいた。
「おい、そこのお前達。荷馬車の中になにを積んでいる」
「ね、猫でございます」
ソルドは大声で鳴きながら、ただの猫の鳴き声ではダメだと悟り、人間が喋るような鳴き声を上げ始めた。
鳴き声が変わったことに騎士の男は眉を潜める。こんなまるで人間のが上げる声のような叫び声を上げる猫などいるのだろうか。
「なんだこの変な鳴き声は」
「どうやら猫のようです、殿下」
「猫だって? こんな鳴き方する猫なんか知らないぞ。おい、それを連れてこい」
会話を聞いていた男たちはこれは高く売れるチャンスではないかと、頭を下げたままお互いを見やった。
騎士に促されソルドが入っている袋を持ち上げた男は、緊張した面持ちで豪華な馬車の横まで行く。すぐそばには眼光鋭い騎士が居て威圧感が凄い。
「これは王都で買い付けた猫にございます。漆黒の艶やかな長毛に、珍しい瞳の色をしています。高貴なお方にピッタリかと存じます」
「中を見せてみろ」
商人の男は引きつった笑みを浮かべ、いきなり飛び掛かってこないでくれよと祈りながら袋の口を固く縛って入り紐を解いた。
開けられた瞬間ソルドは素早く周りを確認し、馬車の窓が開いていることを確認すると、商人の男の手がソルドを掴むより早く飛び出した。
「あっこの!」
「殿下っ!」
飛び出した猫に騎士も商人も驚く。ソルドは目論見通り開いた窓から器用に馬車内に着地した。
突然の乱入に驚くチェイスを見て、ソルドは少しばかりの安堵を覚える。あったのは二年ぶりだが、やはり馬車に乗っていたのはチェイスで間違いなかった。
褐色の肌に長いウェーブのかかった紫の髪。ケインズとはタイプが全く違う、色男という言葉が相応しい第三王子だ。
ここでチェイスの興味を引き、王宮か王都まで連れて行ってもらえればいい。そうでないなら、商人たちに返される前に逃亡するしかない。
覚悟を決めたソルドは、驚くチェイスの足元からじっと見上げると羞恥心をかなぐり捨てた。
「にゃぁ~にゃぁ」
ジェスがケインズに構われている時を思い出しながら、ソルドは必死に高い声を出す。長い尻尾をゆっくりと動かし、体をチェイスの足に何度も擦り付けた。
「にゃうにゃうにゃう、にゃにゃぁ」
時折チェイスを見て声を掛けることも忘れない。チェイスは興味深そうにソルドの行動を見ている。
ソルドはあと一押しとばかりにチェイスの膝に飛び乗り、手に頭を擦り付けた。こんなことはやりたくない。だが王都にケインズの元に戻るためだと、ソルドは頑張ってアピールを続けた。
どこか必死さを見せる目の前の猫に、チェイスは面白いとばかりに観察していた。商人の男が言うように毛並みは良く、瞳は珍しい。
そんな猫に妙な既視感を覚え一体なんだろうかと考えれば、これから訪れる友人であるケインズの背後に常に控える護衛騎士に似ているのだと思い至った。
ケインズとは定期的に手紙のやり取りをする仲で、一番新しい手紙には最近は猫が気になっていると書いてあったことも一緒に思い出した。
これは良い土産になるのではないか? と考えたチェイスは、ソワソワと外から中を窺う騎士に買い取る旨を告げる。そうすれば猫はどこか安堵したような表情を見せた。
「ん? お前怪我をしてるな。このままだとケインズに土産にできない……おい、誰か手当てしてやってくれ」
チェイスについている侍従の男が馬車に乗り込んでくると、ソルドは丁寧に手当てを受け包帯を巻かれた。
「酷いですね、こんな綺麗な子を傷つけるとは」
「こいつは頭が良い。あそこで声を上げていなければもっと酷い扱いを受けていたかもな」
「この猫飼われるのですか?」
「いやケインズへの土産にする。最近猫が可愛いだとか言っていたが、飼っているとは手紙に書いてはいなかったからな。それにほら、あの護衛に似ているだろう? きっと気に入るぞ」
「確かに似ておりますね。では王都に着いたらすぐにこの子の身を整えましょう」
「そうしてくれ」
ソルドはそんなチェイス達の会話に泣きそうになっていた。王都に行ければ御の字だと思っていたが、まさか土産として差し出してくれようとは。
ソルドは感謝の意味を込めて、チェイスにごつごつと頭を擦り付けた。
「あそこからか」
馬に跨っていた騎士達が、ソルドが上げる声に気が付き馬の歩みを緩める。商人たちはいきなり騒ぎ出した袋の中の猫に慌てふためいた。
しかし頭を下げていなければならない状態のため、猫を黙らせることができない。不興を買ってしまわないかと男たちは冷や汗をかいた。
「おい、そこのお前達。荷馬車の中になにを積んでいる」
「ね、猫でございます」
ソルドは大声で鳴きながら、ただの猫の鳴き声ではダメだと悟り、人間が喋るような鳴き声を上げ始めた。
鳴き声が変わったことに騎士の男は眉を潜める。こんなまるで人間のが上げる声のような叫び声を上げる猫などいるのだろうか。
「なんだこの変な鳴き声は」
「どうやら猫のようです、殿下」
「猫だって? こんな鳴き方する猫なんか知らないぞ。おい、それを連れてこい」
会話を聞いていた男たちはこれは高く売れるチャンスではないかと、頭を下げたままお互いを見やった。
騎士に促されソルドが入っている袋を持ち上げた男は、緊張した面持ちで豪華な馬車の横まで行く。すぐそばには眼光鋭い騎士が居て威圧感が凄い。
「これは王都で買い付けた猫にございます。漆黒の艶やかな長毛に、珍しい瞳の色をしています。高貴なお方にピッタリかと存じます」
「中を見せてみろ」
商人の男は引きつった笑みを浮かべ、いきなり飛び掛かってこないでくれよと祈りながら袋の口を固く縛って入り紐を解いた。
開けられた瞬間ソルドは素早く周りを確認し、馬車の窓が開いていることを確認すると、商人の男の手がソルドを掴むより早く飛び出した。
「あっこの!」
「殿下っ!」
飛び出した猫に騎士も商人も驚く。ソルドは目論見通り開いた窓から器用に馬車内に着地した。
突然の乱入に驚くチェイスを見て、ソルドは少しばかりの安堵を覚える。あったのは二年ぶりだが、やはり馬車に乗っていたのはチェイスで間違いなかった。
褐色の肌に長いウェーブのかかった紫の髪。ケインズとはタイプが全く違う、色男という言葉が相応しい第三王子だ。
ここでチェイスの興味を引き、王宮か王都まで連れて行ってもらえればいい。そうでないなら、商人たちに返される前に逃亡するしかない。
覚悟を決めたソルドは、驚くチェイスの足元からじっと見上げると羞恥心をかなぐり捨てた。
「にゃぁ~にゃぁ」
ジェスがケインズに構われている時を思い出しながら、ソルドは必死に高い声を出す。長い尻尾をゆっくりと動かし、体をチェイスの足に何度も擦り付けた。
「にゃうにゃうにゃう、にゃにゃぁ」
時折チェイスを見て声を掛けることも忘れない。チェイスは興味深そうにソルドの行動を見ている。
ソルドはあと一押しとばかりにチェイスの膝に飛び乗り、手に頭を擦り付けた。こんなことはやりたくない。だが王都にケインズの元に戻るためだと、ソルドは頑張ってアピールを続けた。
どこか必死さを見せる目の前の猫に、チェイスは面白いとばかりに観察していた。商人の男が言うように毛並みは良く、瞳は珍しい。
そんな猫に妙な既視感を覚え一体なんだろうかと考えれば、これから訪れる友人であるケインズの背後に常に控える護衛騎士に似ているのだと思い至った。
ケインズとは定期的に手紙のやり取りをする仲で、一番新しい手紙には最近は猫が気になっていると書いてあったことも一緒に思い出した。
これは良い土産になるのではないか? と考えたチェイスは、ソワソワと外から中を窺う騎士に買い取る旨を告げる。そうすれば猫はどこか安堵したような表情を見せた。
「ん? お前怪我をしてるな。このままだとケインズに土産にできない……おい、誰か手当てしてやってくれ」
チェイスについている侍従の男が馬車に乗り込んでくると、ソルドは丁寧に手当てを受け包帯を巻かれた。
「酷いですね、こんな綺麗な子を傷つけるとは」
「こいつは頭が良い。あそこで声を上げていなければもっと酷い扱いを受けていたかもな」
「この猫飼われるのですか?」
「いやケインズへの土産にする。最近猫が可愛いだとか言っていたが、飼っているとは手紙に書いてはいなかったからな。それにほら、あの護衛に似ているだろう? きっと気に入るぞ」
「確かに似ておりますね。では王都に着いたらすぐにこの子の身を整えましょう」
「そうしてくれ」
ソルドはそんなチェイス達の会話に泣きそうになっていた。王都に行ければ御の字だと思っていたが、まさか土産として差し出してくれようとは。
ソルドは感謝の意味を込めて、チェイスにごつごつと頭を擦り付けた。
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