猫耳のおじさん護衛騎士

関鷹親

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34 夜の街

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 ソルドは冷えた体をぶるぶると震わせながら路地裏を歩く。勿論姿は猫のままだ。
 突如として猫の体に変身してしまったソルドは当然慌てふためいた。しかしこれはこれでいいのかもしれないと思い至り、暫く猫の姿でもいいかとそう考えてしまったのだ。
 眼前で美味しそうにレストランの主人から出された食事を食べる野良猫に近づいて行ったソルドは臭いを嗅ぎ、腹を鳴らす。
 すると野良猫達は一斉にソルドを睨みつけ、臨戦態勢を取ったのだ。たかが猫だと侮っていたソルドは例え数多の野良猫に襲い掛かられようとも、たいしたことはないと思った。
 しかし猫としての歴が浅いソルドは、本物の猫に勝てるはずもなかったのだ。巧みな連携で襲い来る野良猫達に、ソルドは全く歯が立たなかった。
 剣があれば、人であれば。苦も無く立ち回れただろうにとソルドは思いながら、不慣れな体に四苦八苦し、なんとか野良猫達から逃げ出す。

 気が付けば体のあちこちから血が流れていた。猫の爪は恐ろしい。かぎ爪で深く抉られた箇所も少なくなかった。
 ふらふらと歩いていれば、今度は別の場所の野良猫達に遭遇しまたもや追い掛け回される。
 縄張りと言う言葉が頭の中を過った。見つからないように身を潜め歩いていても、猫たちはどこからともなく現れ、ソルドを見つけると睨みをきかせてくる。体を縮こませながら、無害であるように見せなソルドは街中を彷徨い歩いた。
 地面がいつもより近いせいで、いろんなものが目につきその度にソルドの不快感は増していく。
 ごみの周りに集る気持ち悪く蠢く虫や、排水溝や側溝から目を光らせるネズミ。全てが悍ましく見えた。こんなところから早く立ち去りたいのだが、いつ姿が戻るかわからないソルドは目立つ場所には居られない。
 猫の姿になってから随分と時間がたっても、ソルドの体は人間の姿には戻らない。そのうち朝日が昇り始め、とうとう王都の教会の鐘が鳴る。その鐘はソルドの起床時間でもあった。

 家に帰り、ジェスに謝るべきだろう。らしくないことをしている自覚はしっかりとあった。夜の間、猫として行動して頭はすっかり冷えている。しかし今まで誰かとこういった口論をしたことがないソルドは気まずい気持ちでいっぱいだった。
 恋愛事情を誰かに話したことなどない。相談する相手も今まではいなかった。仕事が優先で、それ以外のことは二の次三の次だ。
 しかしケインズに触れられてから、仕事のことが二の次になってしまっている。どんどんと浸食されていく知らない感情は高揚感をもたらしてはくれるが、それと同時に恐怖も運んでくる。
 人に恋焦がれることがこれほど辛いものだとは考えもしなかった。ある程度の恋愛はしてきていると思っていたソルドだったが、そのどれとも違いそのどれよりも感情を強く揺さぶられてしまうのだ。では一体今までの恋愛はなんだったのであろうか。
 それを誰かに相談することはできないし、するつもりもそんな考えもソルドにはなかった。だがジェスに全てを知られているように諭され、大人気もなくカッとなってしまったのだ。
 これではまるで幼い学生のようだ。自信を制御できないなど、騎士として失格以外の何物でもない。
 ジェスに会うにも、ケインズと顔を合わせるのも気まずいが、そうは言ってられない。あと二回鐘が鳴れば、ケインズの部屋前にいる時間になってしまうのだ。どんなに自身が気まずかろうとも仕事に行かない、と言う選択肢はソルドの中にはない。
 ソルドがなんとか慣れ始めた体で走っていれば、背後から黒い影が忍び寄り、ソルドが反応するよりも早く視界が暗闇に覆われた。
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