32 / 44
32 八つ当たり
しおりを挟む
耳と尻尾が消え去った日、ソルドは胸を痛めたがこれでよかったのだと言い聞かせた。
実態が消え、鏡に映る自身の姿は以前と同じ。ケインズにもこのまま見えなくなればいいと言う願いが叶ったのか、ケインズにも耳と尻尾は見えなくなったのだが、それをソルドが知る由もなかった。
「魔法を解いて欲しいじゃと?」
山盛りの夕飯を頬張っていたジェスは、訝しげにソルドを見る。だがその顔は真顔のまま、どこか仮面を被っているようなそんな雰囲気をジェスは感じ取っていた。
「殿下は既に自ら休憩を取られる。睡眠も充分のようだし、癒しがなくてもいいと思ってな」
「それは坊が猫の姿にならなくなったことと関係があるのかの?」
核心を突くようにジェスが問えば、ソルドはさり気なく視線を逸らしてから再びジェスを見てきた。
よくわからないが拗れているなとジェスは内心溜息をつく。
「ケインズの匂いを纏わなくなったのにも理由があるのかの? 失恋でもしたか?」
「っ! いや、違う。殿下が飽きられたようだから、いつまでもこんなむさ苦しい男に、耳と尻尾が生えているのが見えるなんて気持ちが悪いだろう? だから……」
明らかに恋心を抱いているのになぜそれに蓋をするのかジェスには不思議でならない。だが意志の固い視線を受ければ、命の恩人の願いだ。聞きがないわけにはいかなかった。
たが目の前のソルドはどうやら思いすら伝えておらず、己に必死に言い訳をし恋情をなかったことにしたいようだった。
「なぁ坊よ、お主は素直になることを覚えるとよいぞ。人生は長いようで短い。特に人間なら尚更じゃ。気に入った雄や雌が見つかったらすぐに行動せねば、後悔したまま死ぬことになるんじゃぞ?」
「な、なにをわかった風な! 私がどれだけ悩んだか……! それに殿下は王族で、私はただの護衛騎士だ! 歳以前に身分も違う!」
「だからなんじゃ?」
「こんな魔法、なんでかけたんだ!!」
完全な八つ当たりだとわかっているが、いつも冷静なはずのソルドには色々な感情が綯交ぜになったが溢れ、押しとどめることができなかった。
初めて声を荒げたソルドに驚いたのか、ジェスは目をまん丸に開きスプーンを床に落とす。
カシャンと鳴った音に我に帰ったソルドは、くそっと悪態を吐いた。そしてこれ以上はこの場に居られないと、自宅から飛び出してしまう。
兎に角頭を冷やさなければならないと、無我夢中で夜の街を走った。
今はどうしてもジェスの側には居たくない。言われていることは理解できるが、それが実行に移せないから余計に悩んでいるのだ。
夜の王都は街灯がきらきらと眩く輝き、活気がある。傷心のソルドには些か辛い眩さだ。
人通りの多い場所には幸せそうな人々の姿が見え、
今の自分の有様が無様に思える。
気分に引かれるようにソルドは煌びやかな王通りから、路地に足を踏み入れ王都の外壁近くまで足を伸ばした。
どれだけ歩いたか、ふと足を止め周りを見ると知らない場所に居ることに気がつく。
王都に長く住むソルドだが、常にケインズと共にあったために、王都内であろうとも知らない場所の方が多いのだ。
勿論地図は万が一のために頭に入っては居るのだが、それはあくまで非常時の脱出ルートのみ。
ふらふらと道を歩きながら、着の身着のままで家を飛び出してしまったことをソルドは後悔した。
ジェスが居る家にはすぐに戻る気にはない。かと言って財布すらも家に置いてきてしまっては、宿屋に泊まることもできない。
同僚騎士達の家や、知り合いの家にでもと考えが過るが、事情を説明することはまず無理なことだ。
そうなると野宿すると言う選択肢しか残されては居なかった。
王族の護衛騎士が王都で野宿だなんて、見つかれば最高のゴシップになるだろう。
なんとかしなければと悩んでいれば、ふと美味しそうな匂いが漂ってきた。
途端にきゅぅと腹が鳴る。帰宅してすぐにジェスに話を持ちかけていたので、ソルドは夕飯を口にしてはいなかった。
ふらふらと匂いに吸い寄せられるように歩いていけば、レストランが一軒。どうやらそこから漂ってきているらしかった。
空腹には堪え兼ねる香りに、ソルドが踵を返そうと歩き出せば、途端に路地から出てきた複数の猫がレストランに集まりだす。
「ほら今日の飯だぞ!」
店の従業員であろう男が、鍋を持って外に出れば猫たちの大合唱が始まり男を取り囲む。
なるほどあぁやって野良猫は生活しているのかとソルドは納得してしまった。
アレならばこんな時楽だろうに、とその光景をながめながら思っていれば一瞬視界が真っ白に染まり、恐る恐る目を開けば視界が下がっていた。
その視界の高さには身に覚えがありすぎる。近くの店のガラスに自信の姿を映せば案の定、ソルドは猫の姿になっていた。
実態が消え、鏡に映る自身の姿は以前と同じ。ケインズにもこのまま見えなくなればいいと言う願いが叶ったのか、ケインズにも耳と尻尾は見えなくなったのだが、それをソルドが知る由もなかった。
「魔法を解いて欲しいじゃと?」
山盛りの夕飯を頬張っていたジェスは、訝しげにソルドを見る。だがその顔は真顔のまま、どこか仮面を被っているようなそんな雰囲気をジェスは感じ取っていた。
「殿下は既に自ら休憩を取られる。睡眠も充分のようだし、癒しがなくてもいいと思ってな」
「それは坊が猫の姿にならなくなったことと関係があるのかの?」
核心を突くようにジェスが問えば、ソルドはさり気なく視線を逸らしてから再びジェスを見てきた。
よくわからないが拗れているなとジェスは内心溜息をつく。
「ケインズの匂いを纏わなくなったのにも理由があるのかの? 失恋でもしたか?」
「っ! いや、違う。殿下が飽きられたようだから、いつまでもこんなむさ苦しい男に、耳と尻尾が生えているのが見えるなんて気持ちが悪いだろう? だから……」
明らかに恋心を抱いているのになぜそれに蓋をするのかジェスには不思議でならない。だが意志の固い視線を受ければ、命の恩人の願いだ。聞きがないわけにはいかなかった。
たが目の前のソルドはどうやら思いすら伝えておらず、己に必死に言い訳をし恋情をなかったことにしたいようだった。
「なぁ坊よ、お主は素直になることを覚えるとよいぞ。人生は長いようで短い。特に人間なら尚更じゃ。気に入った雄や雌が見つかったらすぐに行動せねば、後悔したまま死ぬことになるんじゃぞ?」
「な、なにをわかった風な! 私がどれだけ悩んだか……! それに殿下は王族で、私はただの護衛騎士だ! 歳以前に身分も違う!」
「だからなんじゃ?」
「こんな魔法、なんでかけたんだ!!」
完全な八つ当たりだとわかっているが、いつも冷静なはずのソルドには色々な感情が綯交ぜになったが溢れ、押しとどめることができなかった。
初めて声を荒げたソルドに驚いたのか、ジェスは目をまん丸に開きスプーンを床に落とす。
カシャンと鳴った音に我に帰ったソルドは、くそっと悪態を吐いた。そしてこれ以上はこの場に居られないと、自宅から飛び出してしまう。
兎に角頭を冷やさなければならないと、無我夢中で夜の街を走った。
今はどうしてもジェスの側には居たくない。言われていることは理解できるが、それが実行に移せないから余計に悩んでいるのだ。
夜の王都は街灯がきらきらと眩く輝き、活気がある。傷心のソルドには些か辛い眩さだ。
人通りの多い場所には幸せそうな人々の姿が見え、
今の自分の有様が無様に思える。
気分に引かれるようにソルドは煌びやかな王通りから、路地に足を踏み入れ王都の外壁近くまで足を伸ばした。
どれだけ歩いたか、ふと足を止め周りを見ると知らない場所に居ることに気がつく。
王都に長く住むソルドだが、常にケインズと共にあったために、王都内であろうとも知らない場所の方が多いのだ。
勿論地図は万が一のために頭に入っては居るのだが、それはあくまで非常時の脱出ルートのみ。
ふらふらと道を歩きながら、着の身着のままで家を飛び出してしまったことをソルドは後悔した。
ジェスが居る家にはすぐに戻る気にはない。かと言って財布すらも家に置いてきてしまっては、宿屋に泊まることもできない。
同僚騎士達の家や、知り合いの家にでもと考えが過るが、事情を説明することはまず無理なことだ。
そうなると野宿すると言う選択肢しか残されては居なかった。
王族の護衛騎士が王都で野宿だなんて、見つかれば最高のゴシップになるだろう。
なんとかしなければと悩んでいれば、ふと美味しそうな匂いが漂ってきた。
途端にきゅぅと腹が鳴る。帰宅してすぐにジェスに話を持ちかけていたので、ソルドは夕飯を口にしてはいなかった。
ふらふらと匂いに吸い寄せられるように歩いていけば、レストランが一軒。どうやらそこから漂ってきているらしかった。
空腹には堪え兼ねる香りに、ソルドが踵を返そうと歩き出せば、途端に路地から出てきた複数の猫がレストランに集まりだす。
「ほら今日の飯だぞ!」
店の従業員であろう男が、鍋を持って外に出れば猫たちの大合唱が始まり男を取り囲む。
なるほどあぁやって野良猫は生活しているのかとソルドは納得してしまった。
アレならばこんな時楽だろうに、とその光景をながめながら思っていれば一瞬視界が真っ白に染まり、恐る恐る目を開けば視界が下がっていた。
その視界の高さには身に覚えがありすぎる。近くの店のガラスに自信の姿を映せば案の定、ソルドは猫の姿になっていた。
1
お気に入りに追加
163
あなたにおすすめの小説

あなたと過ごした五年間~欠陥オメガと強すぎるアルファが出会ったら~
華抹茶
BL
子供の時の流行り病の高熱でオメガ性を失ったエリオット。だがその時に前世の記憶が蘇り、自分が異性愛者だったことを思い出す。オメガ性を失ったことを喜び、ベータとして生きていくことに。
もうすぐ学園を卒業するという時に、とある公爵家の嫡男の家庭教師を探しているという話を耳にする。その仕事が出来たらいいと面接に行くと、とんでもなく美しいアルファの子供がいた。
だがそのアルファの子供は、質素な別館で一人でひっそりと生活する孤独なアルファだった。その理由がこの子供のアルファ性が強すぎて誰も近寄れないからというのだ。
だがエリオットだけはそのフェロモンの影響を受けなかった。家庭教師の仕事も決まり、アルファの子供と接するうちに心に抱えた傷を知る。
子供はエリオットに心を開き、懐き、甘えてくれるようになった。だが子供が成長するにつれ少しずつ二人の関係に変化が訪れる。
アルファ性が強すぎて愛情を与えられなかった孤独なアルファ×オメガ性を失いベータと偽っていた欠陥オメガ
●オメガバースの話になります。かなり独自の設定を盛り込んでいます。
●最終話まで執筆済み(全47話)。完結保障。毎日更新。
●Rシーンには※つけてます。
男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。
カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。
今年のメインイベントは受験、
あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。
だがそんな彼は飛行機が苦手だった。
電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?!
あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな?
急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。
さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?!
変なレアスキルや神具、
八百万(やおよろず)の神の加護。
レアチート盛りだくさん?!
半ばあたりシリアス
後半ざまぁ。
訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前
お腹がすいた時に食べたい食べ物など
思いついた名前とかをもじり、
なんとか、名前決めてます。
***
お名前使用してもいいよ💕っていう
心優しい方、教えて下さい🥺
悪役には使わないようにします、たぶん。
ちょっとオネェだったり、
アレ…だったりする程度です😁
すでに、使用オッケーしてくださった心優しい
皆様ありがとうございます😘
読んでくださる方や応援してくださる全てに
めっちゃ感謝を込めて💕
ありがとうございます💞

王道学園の冷徹生徒会長、裏の顔がバレて総受けルート突入しちゃいました!え?逃げ場無しですか?
名無しのナナ氏
BL
王道学園に入学して1ヶ月でトップに君臨した冷徹生徒会長、有栖川 誠(ありすがわ まこと)。常に冷静で無表情、そして無言の誠を生徒達からは尊敬の眼差しで見られていた。
そんな彼のもう1つの姿は… どの企業にも属さないにも関わらず、VTuber界で人気を博した個人VTuber〈〈 アイリス 〉〉!? 本性は寂しがり屋の泣き虫。色々あって周りから誤解されまくってしまった結果アイリスとして素を出していた。そんなある日、生徒会の仕事を1人で黙々とやっている内に疲れてしまい__________
※
・非王道気味
・固定カプ予定は無い
・悲しい過去🐜のたまにシリアス
・話の流れが遅い

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます
まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。
貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。
そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。
☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。
☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

兄たちが弟を可愛がりすぎです
クロユキ
BL
俺が風邪で寝ていた目が覚めたら異世界!?
メイド、王子って、俺も王子!?
おっと、俺の自己紹介忘れてた!俺の、名前は坂田春人高校二年、別世界にウィル王子の身体に入っていたんだ!兄王子に振り回されて、俺大丈夫か?!
涙脆く可愛い系に弱い春人の兄王子達に振り回され護衛騎士に迫って慌てていっもハラハラドキドキたまにはバカな事を言ったりとしている主人公春人の話を楽しんでくれたら嬉しいです。
1日の話しが長い物語です。
誤字脱字には気をつけてはいますが、余り気にしないよ~と言う方がいましたら嬉しいです。
猫を拾ったら聖獣で犬を拾ったら神獣で最強すぎて困る
マーラッシュ
ファンタジー
旧題:狙って勇者パーティーを追放されて猫を拾ったら聖獣で犬を拾ったら神獣だった。そして人間を拾ったら・・・
何かを拾う度にトラブルに巻き込まれるけど、結果成り上がってしまう。
異世界転生者のユートは、バルトフェル帝国の山奥に一人で住んでいた。
ある日、盗賊に襲われている公爵令嬢を助けたことによって、勇者パーティーに推薦されることになる。
断ると角が立つと思い仕方なしに引き受けるが、このパーティーが最悪だった。
勇者ギアベルは皇帝の息子でやりたい放題。活躍すれば咎められ、上手く行かなければユートのせいにされ、パーティーに入った初日から後悔するのだった。そして他の仲間達は全て女性で、ギアベルに絶対服従していたため、味方は誰もいない。
ユートはすぐにでもパーティーを抜けるため、情報屋に金を払い噂を流すことにした。
勇者パーティーはユートがいなければ何も出来ない集団だという内容でだ。
プライドが高いギアベルは、噂を聞いてすぐに「貴様のような役立たずは勇者パーティーには必要ない!」と公衆の面前で追放してくれた。
しかし晴れて自由の身になったが、一つだけ誤算があった。
それはギアベルの怒りを買いすぎたせいで、帝国を追放されてしまったのだ。
そしてユートは荷物を取りに行くため自宅に戻ると、そこには腹をすかした猫が、道端には怪我をした犬が、さらに船の中には女の子が倒れていたが、それぞれの正体はとんでもないものであった。
これは自重できない異世界転生者が色々なものを拾った結果、トラブルに巻き込まれ解決していき成り上がり、幸せな異世界ライフを満喫する物語である。
幽閉王子は最強皇子に包まれる
皇洵璃音
BL
魔法使いであるせいで幼少期に幽閉された第三王子のアレクセイ。それから年数が経過し、ある日祖国は滅ぼされてしまう。毛布に包まっていたら、敵の帝国第二皇子のレイナードにより連行されてしまう。処刑場にて皇帝から二つの選択肢を提示されたのだが、二つ目の内容は「レイナードの花嫁になること」だった。初めて人から求められたこともあり、花嫁になることを承諾する。素直で元気いっぱいなド直球第二皇子×愛されることに慣れていない治癒魔法使いの第三王子の恋愛物語。
表紙担当者:白す(しらす)様に描いて頂きました。
病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない
月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。
人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。
2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事)
。
誰も俺に気付いてはくれない。そう。
2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。
もう、全部どうでもよく感じた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる