猫耳のおじさん護衛騎士

関鷹親

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32 八つ当たり

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 耳と尻尾が消え去った日、ソルドは胸を痛めたがこれでよかったのだと言い聞かせた。
 実態が消え、鏡に映る自身の姿は以前と同じ。ケインズにもこのまま見えなくなればいいと言う願いが叶ったのか、ケインズにも耳と尻尾は見えなくなったのだが、それをソルドが知る由もなかった。

「魔法を解いて欲しいじゃと?」

 山盛りの夕飯を頬張っていたジェスは、訝しげにソルドを見る。だがその顔は真顔のまま、どこか仮面を被っているようなそんな雰囲気をジェスは感じ取っていた。

「殿下は既に自ら休憩を取られる。睡眠も充分のようだし、癒しがなくてもいいと思ってな」
「それは坊が猫の姿にならなくなったことと関係があるのかの?」

 核心を突くようにジェスが問えば、ソルドはさり気なく視線を逸らしてから再びジェスを見てきた。
 よくわからないが拗れているなとジェスは内心溜息をつく。

「ケインズの匂いを纏わなくなったのにも理由があるのかの? 失恋でもしたか?」
「っ! いや、違う。殿下が飽きられたようだから、いつまでもこんなむさ苦しい男に、耳と尻尾が生えているのが見えるなんて気持ちが悪いだろう? だから……」

 明らかに恋心を抱いているのになぜそれに蓋をするのかジェスには不思議でならない。だが意志の固い視線を受ければ、命の恩人の願いだ。聞きがないわけにはいかなかった。
 たが目の前のソルドはどうやら思いすら伝えておらず、己に必死に言い訳をし恋情をなかったことにしたいようだった。

「なぁ坊よ、お主は素直になることを覚えるとよいぞ。人生は長いようで短い。特に人間なら尚更じゃ。気に入った雄や雌が見つかったらすぐに行動せねば、後悔したまま死ぬことになるんじゃぞ?」
「な、なにをわかった風な! 私がどれだけ悩んだか……! それに殿下は王族で、私はただの護衛騎士だ! 歳以前に身分も違う!」
「だからなんじゃ?」
「こんな魔法、なんでかけたんだ!!」

 完全な八つ当たりだとわかっているが、いつも冷静なはずのソルドには色々な感情が綯交ぜになったが溢れ、押しとどめることができなかった。
 初めて声を荒げたソルドに驚いたのか、ジェスは目をまん丸に開きスプーンを床に落とす。
 カシャンと鳴った音に我に帰ったソルドは、くそっと悪態を吐いた。そしてこれ以上はこの場に居られないと、自宅から飛び出してしまう。
 兎に角頭を冷やさなければならないと、無我夢中で夜の街を走った。
 今はどうしてもジェスの側には居たくない。言われていることは理解できるが、それが実行に移せないから余計に悩んでいるのだ。

 夜の王都は街灯がきらきらと眩く輝き、活気がある。傷心のソルドには些か辛い眩さだ。
 人通りの多い場所には幸せそうな人々の姿が見え、
今の自分の有様が無様に思える。
 気分に引かれるようにソルドは煌びやかな王通りから、路地に足を踏み入れ王都の外壁近くまで足を伸ばした。
 どれだけ歩いたか、ふと足を止め周りを見ると知らない場所に居ることに気がつく。
 王都に長く住むソルドだが、常にケインズと共にあったために、王都内であろうとも知らない場所の方が多いのだ。
 勿論地図は万が一のために頭に入っては居るのだが、それはあくまで非常時の脱出ルートのみ。

 ふらふらと道を歩きながら、着の身着のままで家を飛び出してしまったことをソルドは後悔した。
 ジェスが居る家にはすぐに戻る気にはない。かと言って財布すらも家に置いてきてしまっては、宿屋に泊まることもできない。
 同僚騎士達の家や、知り合いの家にでもと考えが過るが、事情を説明することはまず無理なことだ。
 そうなると野宿すると言う選択肢しか残されては居なかった。

 王族の護衛騎士が王都で野宿だなんて、見つかれば最高のゴシップになるだろう。
 なんとかしなければと悩んでいれば、ふと美味しそうな匂いが漂ってきた。
 途端にきゅぅと腹が鳴る。帰宅してすぐにジェスに話を持ちかけていたので、ソルドは夕飯を口にしてはいなかった。

 ふらふらと匂いに吸い寄せられるように歩いていけば、レストランが一軒。どうやらそこから漂ってきているらしかった。
 空腹には堪え兼ねる香りに、ソルドが踵を返そうと歩き出せば、途端に路地から出てきた複数の猫がレストランに集まりだす。

「ほら今日の飯だぞ!」

 店の従業員であろう男が、鍋を持って外に出れば猫たちの大合唱が始まり男を取り囲む。
 なるほどあぁやって野良猫は生活しているのかとソルドは納得してしまった。
 アレならばこんな時楽だろうに、とその光景をながめながら思っていれば一瞬視界が真っ白に染まり、恐る恐る目を開けば視界が下がっていた。

 その視界の高さには身に覚えがありすぎる。近くの店のガラスに自信の姿を映せば案の定、ソルドは猫の姿になっていた。
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