猫耳のおじさん護衛騎士

関鷹親

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31 恋は人を弱くする

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 ケインズが悶々と一人格闘している間に、羞恥心から自ら減らした戯れはいつの間にか無くなっていた。
 だが触れ合いは無くてもソルドは常に側にいて、離れることはない。
 このままではいけないとは思いつつも、ケインズは自身の心に折り合いをつけるまで時間が掛かってしまった。
 しかしそうこうしている間に、ソルドの態度が気がつけば元のように戻ってしまっていたのだ。

 男を、それも長年兄のように、最も信頼が置ける臣として側にいた者に、まさか恋愛感情を持ってしまったなど、ケインズの中では大事件である。
 当然想いを伝えようとも考えたが、年下の主からの恋情など困ってしまうのではないかと尻込みしてしまった結果、ヘタレてしまったのは仕方のないことだった。
 ソルドの態度に心が揺れ、更にはどうすればいいかもわからなくなってしまったケインズは、表面上元のように接せるしかできなくなってしまう。
 異変がおこったのは、そうした生活が二週間ほど続いてからだった。

「どうしましたか、殿下」

 ぽかんとしたままペンを手から落としたケインズに、ソルドは心配そうに眉を寄せた。
 ペンが転がったお陰で、机の上の書類はインク染みが広がる。
 口をぱくぱくとさせ、なにかを言おうとするケインズだが、視線を周りに素早く走らせると自身の口元を押さえながら、なんでもないと首を振る。
 ソルドはそんなケインズの反応にツキリと心が痛んだが、それを見て見ぬ振りをした。

 ケインズはその後の執務も結局身が入らず、何度も書類を書き損じてしまい、遂にはカステルから寝室に強引に押し戻されてしまった。
 また過労で倒れられてはならないと王宮医が呼ばれ、三日の休養を言い渡されてしまう。
 ソルドと話がしたかったケインズだが、その内容はあの耳と尻尾のことだ。
 常に部屋に誰かが控える間は話ができるはずがない。人払いも当然できるはずもなく、ケインズは三日間違った悩みを抱え込むことになった。

 カステルや他の侍従が部屋の扉から出入りする度に、開けられた扉の隙間からケインズは外に控えるソルドを見ては、ため息をつく。
 なぜならソルドの頭と尻にあるはずの耳と尻尾が全く見えなくなっていたからだ。
 なぜ、と疑問が湧き上がる。今すぐにソルドを問い詰めたかったがそれができない環境は酷く落ち着かない。
 ジェスに魔法を解除してもらったのか、だとしたらなぜだろうかと、ケインズは有り余る時間で考えた。
 そこでジェスが言っていたソルドに猫耳と尻尾が生えた理由を思い出し、ハッとする。
 ソルドはケインズを癒したいとあの魔法をジェスに掛けられていたのではないか。
 それが見えないということは、ソルドがケインズのことを癒さなくても良いと判断したのではないだろうか。

「なんでそんな……いや、でもそうと決まったわけでもない。ソルドに直接聞くしか……あぁでもソルドには耳と尻尾だけが目的だとは思われたくない……あぁどうしたら」

 一人ぶつぶつと情けなく呟くケインズに、控える従者は平静を装いつつもそっと王宮医を呼び、ケインズの安静期間が伸びてしまうのだった。
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