猫耳のおじさん護衛騎士

関鷹親

文字の大きさ
上 下
28 / 44

28 その感情の名は2

しおりを挟む
「だから、本当に僕とソルドはそんな関係ではないんだよ……」

 カステルに懇切丁寧に説明をしながら何度となくそう言うケインズに、カステルは本当に恋人同士ではないのか? と疑問に思い始めた。

「本当に、恋人同士じゃない……?」
「だから何度も、そう言っているじゃないか……」

 心底疲れたようにぐったりと座るケインズに、カステルは驚愕の表情を向けた。最近のケインズとソルドは、王子とその護衛騎士という範疇を超えているような親密さがあるのだ。
 それこそ図書館でカステルが目撃してしまったキスシーンが見間違いであったとしても、それを納得させるだけの材料が沢山ある。

 例えばそれは、二人が時には長く見つめ合っていたり、かと思えばソルドが顔を少し赤らめケインズから視線を逸らしたり。
 最近ではカステルを部屋から追い出し、朝に昼にはたまた夜までも二人きりになる時間を作っている。あのどんなに言っても仕事の手を休めなかったケインズがだ。
 なによりも、部屋から出て来たソルドはケインズと同じ香りを纏っている。それは香りが移るほど近くそして長く側に居ると言うことだ。
 これで恋人ではないと言うのはいかがなものか。まさかケインズとソルドが爛れた関係であるなどとは二人の性格上考えにくい。
 それらをケインズに指摘すれば、ぽかんと呆けた顔をしたあと、ケインズは顔を真っ赤に染め上げた。

「香りは、その、ソルドが最近年だなんだと言うから、身ぎれいにしたらどうかと……それで私が使っている香油で髪を整えたりしているからで……ほら王族専用のものだから、市販のより良いものだし」

 まさかそんなところを言われるとは思っていなかったケインズは、しどろもどろになりながらなんとか言い訳を捻りだす。
 ソルドの耳と尻尾の話をできるわけもなく、苦し紛れの言い訳でそれがカステルに通じはしないことは明白であったが、それ以外に上手く言葉が出てこなかった。

「では最近よくソルドさんを見ているのは?」
「いや、それは……僕の護衛は格好いいなと……」
「今更ですか? 何年一緒にいると思ってるんですか」
「そうなんだけどね、ははは」

 見つめているのはあくまで耳と尻尾だ。確かにソルドが自身の体に生えた物を認識してからその反応が可愛く思えて、ついつい今までより余計に見てしまっていた。
 自身の幻覚だと勘違いしていた時はあれほど周りに悟られないように注意していたと言うのに、それすらも忘れてしまうほど、周りに気が付かれてしまうほどソルドを見ていたとは。
 ソルドが顔を赤らめ背けるのは、耳と尻尾を見られていることへの羞恥からだ。ケインズがいくら可愛いだの素晴らしく素敵な物だのと賛辞を述口にしても、年がいった男には不釣り合いすぎるのだと、いつまでたっても慣れた様子にはならない。
 それがまた可愛いのだがとケインズが物思いに耽っていれば、カステルが難しい顔をしてぽつりと言葉を漏らした。

「もしや……無自覚? それで無意識に香油でマーキングして……?」
「なんだって?」
「ごほんっ。殿下、ソルドさんを見て最近よく思うことはなんですか? 嘘偽りなく、正直に答えてください」
「いきなりだね? えぇっと……格好いいと、可愛いかな?」
「そう思う時に、心がポカポカしませんか?」
「凄いねキャス、当たってる」
「ではソルドさんが突然お休みした時にはどう感じましたか? 寂しくなかったですか?」
「そうだね、いつもいる人がいないと言うのは寂しいものだね。それになんだか落ち着かんかったかな」
「ソルドさんがご実家に帰られている間は、そんなことありませんでしたよね? 寂しさはあったかとは思いますが、殿下は普段通りでしたし。ですが今回はどうです? 最初はよかったですけど、時間と日が経つにつれてずっとピリピリしてたじゃないですか」

 確かにカステルの言う通りなのだが、それには訳がちゃんとある。しかしこれもカステルには言えない事柄で、ケインズはなんとも歯がゆい思いをする。
 全てを包み隠さずカステルに言えるならば、こんな誤解はすぐに解けると言うのに。

「以上のことを含めて申し上げます。ケインズ殿下、殿下はソルドさんのことが好きなんですよ!!」
「え? うんそうだね、ソルドのことは好きだよ?」
「あぁもう! 違いますよ殿下! 僕が言っているのは、恋愛感情として! ソルドさんのことが殿下は好きなんだって言ってるんです!」
「いや、それは……」
「嫌もなにもありませんよ!? ご自身の気持ちがわからないんですか!? いいですか、明日から、殿下は明日からソルドさんのことをちゃんと意識して見てみてください! 必ずですよ、必ず! それでご自身の気持ちがわかるはずです!」

 いつの間にか両肩を掴まれ、真顔で鬼気迫るように念を押してくるカステルの圧に、ケインズはこくこくと頷くしかなかった。









*明日はお昼と夜の二回更新予定です。
しおりを挟む
感想 11

あなたにおすすめの小説

あなたと過ごした五年間~欠陥オメガと強すぎるアルファが出会ったら~

華抹茶
BL
子供の時の流行り病の高熱でオメガ性を失ったエリオット。だがその時に前世の記憶が蘇り、自分が異性愛者だったことを思い出す。オメガ性を失ったことを喜び、ベータとして生きていくことに。 もうすぐ学園を卒業するという時に、とある公爵家の嫡男の家庭教師を探しているという話を耳にする。その仕事が出来たらいいと面接に行くと、とんでもなく美しいアルファの子供がいた。 だがそのアルファの子供は、質素な別館で一人でひっそりと生活する孤独なアルファだった。その理由がこの子供のアルファ性が強すぎて誰も近寄れないからというのだ。 だがエリオットだけはそのフェロモンの影響を受けなかった。家庭教師の仕事も決まり、アルファの子供と接するうちに心に抱えた傷を知る。 子供はエリオットに心を開き、懐き、甘えてくれるようになった。だが子供が成長するにつれ少しずつ二人の関係に変化が訪れる。 アルファ性が強すぎて愛情を与えられなかった孤独なアルファ×オメガ性を失いベータと偽っていた欠陥オメガ ●オメガバースの話になります。かなり独自の設定を盛り込んでいます。 ●最終話まで執筆済み(全47話)。完結保障。毎日更新。 ●Rシーンには※つけてます。

男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。

カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。 今年のメインイベントは受験、 あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。 だがそんな彼は飛行機が苦手だった。 電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?! あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな? 急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。 さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?! 変なレアスキルや神具、 八百万(やおよろず)の神の加護。 レアチート盛りだくさん?! 半ばあたりシリアス 後半ざまぁ。 訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前 お腹がすいた時に食べたい食べ物など 思いついた名前とかをもじり、 なんとか、名前決めてます。     *** お名前使用してもいいよ💕っていう 心優しい方、教えて下さい🥺 悪役には使わないようにします、たぶん。 ちょっとオネェだったり、 アレ…だったりする程度です😁 すでに、使用オッケーしてくださった心優しい 皆様ありがとうございます😘 読んでくださる方や応援してくださる全てに めっちゃ感謝を込めて💕 ありがとうございます💞

王道学園の冷徹生徒会長、裏の顔がバレて総受けルート突入しちゃいました!え?逃げ場無しですか?

名無しのナナ氏
BL
王道学園に入学して1ヶ月でトップに君臨した冷徹生徒会長、有栖川 誠(ありすがわ まこと)。常に冷静で無表情、そして無言の誠を生徒達からは尊敬の眼差しで見られていた。 そんな彼のもう1つの姿は… どの企業にも属さないにも関わらず、VTuber界で人気を博した個人VTuber〈〈 アイリス 〉〉!? 本性は寂しがり屋の泣き虫。色々あって周りから誤解されまくってしまった結果アイリスとして素を出していた。そんなある日、生徒会の仕事を1人で黙々とやっている内に疲れてしまい__________ ※ ・非王道気味 ・固定カプ予定は無い ・悲しい過去🐜のたまにシリアス ・話の流れが遅い

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます

まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。 貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。 そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。 ☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。 ☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

兄たちが弟を可愛がりすぎです

クロユキ
BL
俺が風邪で寝ていた目が覚めたら異世界!? メイド、王子って、俺も王子!? おっと、俺の自己紹介忘れてた!俺の、名前は坂田春人高校二年、別世界にウィル王子の身体に入っていたんだ!兄王子に振り回されて、俺大丈夫か?! 涙脆く可愛い系に弱い春人の兄王子達に振り回され護衛騎士に迫って慌てていっもハラハラドキドキたまにはバカな事を言ったりとしている主人公春人の話を楽しんでくれたら嬉しいです。 1日の話しが長い物語です。 誤字脱字には気をつけてはいますが、余り気にしないよ~と言う方がいましたら嬉しいです。

猫を拾ったら聖獣で犬を拾ったら神獣で最強すぎて困る

マーラッシュ
ファンタジー
旧題:狙って勇者パーティーを追放されて猫を拾ったら聖獣で犬を拾ったら神獣だった。そして人間を拾ったら・・・ 何かを拾う度にトラブルに巻き込まれるけど、結果成り上がってしまう。 異世界転生者のユートは、バルトフェル帝国の山奥に一人で住んでいた。  ある日、盗賊に襲われている公爵令嬢を助けたことによって、勇者パーティーに推薦されることになる。  断ると角が立つと思い仕方なしに引き受けるが、このパーティーが最悪だった。  勇者ギアベルは皇帝の息子でやりたい放題。活躍すれば咎められ、上手く行かなければユートのせいにされ、パーティーに入った初日から後悔するのだった。そして他の仲間達は全て女性で、ギアベルに絶対服従していたため、味方は誰もいない。  ユートはすぐにでもパーティーを抜けるため、情報屋に金を払い噂を流すことにした。  勇者パーティーはユートがいなければ何も出来ない集団だという内容でだ。  プライドが高いギアベルは、噂を聞いてすぐに「貴様のような役立たずは勇者パーティーには必要ない!」と公衆の面前で追放してくれた。  しかし晴れて自由の身になったが、一つだけ誤算があった。  それはギアベルの怒りを買いすぎたせいで、帝国を追放されてしまったのだ。  そしてユートは荷物を取りに行くため自宅に戻ると、そこには腹をすかした猫が、道端には怪我をした犬が、さらに船の中には女の子が倒れていたが、それぞれの正体はとんでもないものであった。  これは自重できない異世界転生者が色々なものを拾った結果、トラブルに巻き込まれ解決していき成り上がり、幸せな異世界ライフを満喫する物語である。

幽閉王子は最強皇子に包まれる

皇洵璃音
BL
魔法使いであるせいで幼少期に幽閉された第三王子のアレクセイ。それから年数が経過し、ある日祖国は滅ぼされてしまう。毛布に包まっていたら、敵の帝国第二皇子のレイナードにより連行されてしまう。処刑場にて皇帝から二つの選択肢を提示されたのだが、二つ目の内容は「レイナードの花嫁になること」だった。初めて人から求められたこともあり、花嫁になることを承諾する。素直で元気いっぱいなド直球第二皇子×愛されることに慣れていない治癒魔法使いの第三王子の恋愛物語。 表紙担当者:白す(しらす)様に描いて頂きました。

病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。 人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。 2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事) 。 誰も俺に気付いてはくれない。そう。 2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。 もう、全部どうでもよく感じた。

処理中です...