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24 発情期の終わり
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「坊よ、そろそろ起きてくれんかのう……坊が起きないと困るんじゃが……」
ゆさゆさと体を揺すられ、ソルドの意識は随分と久しぶりにハッキリと浮上した。
「……ジェスか?」
「坊~!」
涙声でガバリと抱き着いてきたジェスを受け止める。だがいつものようなふさふさの毛ではないことと、あまりのサイズ感の違いにソルドはハッキリと目を覚ました。
「……誰だ?」
「大魔法使いのジェスじゃよ~! 今は魔法で人間の姿になっておるんじゃ」
「そう、なのか? しかしなんでそんな姿に」
「坊を迎えに来たからに決まっておろう?」
「迎え?」
ソルドが当たりを見回せば、そこは己の部屋ではなかった。何人もが一度に横になれそうなほどに広いベッドに、甘ったるさが鼻の奥までこびりつきそうなキツイ香が焚かれる室内。
どう考えても娼館以外の何物でもない場所に、ソルドは冷や汗が止まらない。一体いつこんな場所に来てしまったのか、全く身に覚えがないのだ。
「どこまで覚えてある?」
「どこまで……家に帰って来たところまでしか……」
ジェスはあぁ……と顔に手を当て天を仰いだあと、一から説明をしてくれた。
ジェスの掛けた魔法の副作用で猫の姿に毎朝変わってしまっていたために、猫の本能が呼び起されてしまい、ソルドは発情期を迎えてしまったこと。欲の発散をするためにソルドが娼館に向かってから、すでに一週間たってしまっていること。
ジェスがケインズに連絡して、上手く休みをもぎ取っているいて無断欠勤にはなっていないこと。そしてソルドが娼館に籠る間、ジェスが様子を見るために一緒にいたと言うのだ。
あまりの事態にソルドは一気に血の気が引き、気が遠くなりそうだった。娼館に籠っている間は猫の姿になることはなかったらしい。
それは欲の発散が目的だったため、猫になりたいという欲が薄れていたのだろうとジェスが語っているが、ソルドはそれどころではい。
一週間も休んでしまった理由が発情期で、しかもその間娼館に入り浸るなど、今までのソルドからは考えられない事態だ。
「殿下に合わせる顔がない……」
犯してしまった失態に項垂れるソルドに、ジェスは気まずそうに口を開く。
「それは無理じゃよ坊。発情期が終わったらすぐに連れて来いと、ケインズからキツく言われておるんじゃ」
泊まり込んでいた部屋から出れば、数多の娼婦達から凄かっただのまた相手をしてほしいだのと纏わりつかれ、外に出るのも一苦労だった。
纏わりついた臭いが不快で、そのまま王宮まで行こうとするジェスをなんとか引き止め、一旦家へと向かう。
これでもかと体を何度も丹念に洗い、着ていた衣服はごみ袋の中へと放り投げた。
姿見を見れば耳と尻尾は相も変わらずそのままで、重たい溜息を吐き綺麗に衣服を整えれば、そわそわと落ち着かない人間姿のままのジェスに引っ張られるようにして王宮へと向かう。
「ソルドさん、酷い風邪だったとか、大丈夫でしたか?」
「あ、あぁもうなんともない。迷惑をかけたな」
「いえいえ、たまには休んでくださらないと。殿下もですけどソルドさんも働きすぎですから」
「ははは、年だからな。気を付けよう」
行く先々でソルドは文官や衛兵、同僚の騎士達から気遣うような声を沢山掛けられる。そのことに誰も本当の欠勤理由を知らないとわかり、ソルドは内心胸を撫でおろした。
周りがこうだと言うことは、ジェスはきっとケインズに上手く欠勤理由を誤魔化しておいてくれたのだろう。
「ありがとうな、ジェス」
「にゃ、にゃははは……はは」
なんともぎこちないジェスの笑いに首を傾げたソルドだが、気が付けばケインズの執務室の前だった。
休んでしまった理由に落ち込みはするが、久しぶりであるケインズの元へ行けると言うこと自体には高揚してしまうのだ。
ピシりと姿勢を正し、カステルによって開けられた執務室の扉を潜る。慣れ親しんだ執務室の香りはソルドを安堵させた。
「お休みを頂いてしまい申し訳ありません、殿下」
スッと腰を折り頭を下げたソルドだったが、いつまでたってもケインズから声が掛けられない。
恐る恐る顔を上げれば、ケインズはソルドを見もせずカリカリとペンを走らせていた。
――とんでもなく怒っておられる……
緊張感を孕む執務室は居心地が悪いのか、護衛の騎士はひたすら一点を見つめているし、カステルすらも視線を床に落としている。
ジェスはと言うと、こちらもいつもの陽気さが鳴りを潜め、ソルドの大きな体を盾にし、こっそりとケインズの様子を窺っていた。
カチコチと鳴る時計の音だけが嫌に響く室内。ケインズは一言も発さず、ソルドに視線を向けもせず、夜までひたすら政務を続けたのだった。
ゆさゆさと体を揺すられ、ソルドの意識は随分と久しぶりにハッキリと浮上した。
「……ジェスか?」
「坊~!」
涙声でガバリと抱き着いてきたジェスを受け止める。だがいつものようなふさふさの毛ではないことと、あまりのサイズ感の違いにソルドはハッキリと目を覚ました。
「……誰だ?」
「大魔法使いのジェスじゃよ~! 今は魔法で人間の姿になっておるんじゃ」
「そう、なのか? しかしなんでそんな姿に」
「坊を迎えに来たからに決まっておろう?」
「迎え?」
ソルドが当たりを見回せば、そこは己の部屋ではなかった。何人もが一度に横になれそうなほどに広いベッドに、甘ったるさが鼻の奥までこびりつきそうなキツイ香が焚かれる室内。
どう考えても娼館以外の何物でもない場所に、ソルドは冷や汗が止まらない。一体いつこんな場所に来てしまったのか、全く身に覚えがないのだ。
「どこまで覚えてある?」
「どこまで……家に帰って来たところまでしか……」
ジェスはあぁ……と顔に手を当て天を仰いだあと、一から説明をしてくれた。
ジェスの掛けた魔法の副作用で猫の姿に毎朝変わってしまっていたために、猫の本能が呼び起されてしまい、ソルドは発情期を迎えてしまったこと。欲の発散をするためにソルドが娼館に向かってから、すでに一週間たってしまっていること。
ジェスがケインズに連絡して、上手く休みをもぎ取っているいて無断欠勤にはなっていないこと。そしてソルドが娼館に籠る間、ジェスが様子を見るために一緒にいたと言うのだ。
あまりの事態にソルドは一気に血の気が引き、気が遠くなりそうだった。娼館に籠っている間は猫の姿になることはなかったらしい。
それは欲の発散が目的だったため、猫になりたいという欲が薄れていたのだろうとジェスが語っているが、ソルドはそれどころではい。
一週間も休んでしまった理由が発情期で、しかもその間娼館に入り浸るなど、今までのソルドからは考えられない事態だ。
「殿下に合わせる顔がない……」
犯してしまった失態に項垂れるソルドに、ジェスは気まずそうに口を開く。
「それは無理じゃよ坊。発情期が終わったらすぐに連れて来いと、ケインズからキツく言われておるんじゃ」
泊まり込んでいた部屋から出れば、数多の娼婦達から凄かっただのまた相手をしてほしいだのと纏わりつかれ、外に出るのも一苦労だった。
纏わりついた臭いが不快で、そのまま王宮まで行こうとするジェスをなんとか引き止め、一旦家へと向かう。
これでもかと体を何度も丹念に洗い、着ていた衣服はごみ袋の中へと放り投げた。
姿見を見れば耳と尻尾は相も変わらずそのままで、重たい溜息を吐き綺麗に衣服を整えれば、そわそわと落ち着かない人間姿のままのジェスに引っ張られるようにして王宮へと向かう。
「ソルドさん、酷い風邪だったとか、大丈夫でしたか?」
「あ、あぁもうなんともない。迷惑をかけたな」
「いえいえ、たまには休んでくださらないと。殿下もですけどソルドさんも働きすぎですから」
「ははは、年だからな。気を付けよう」
行く先々でソルドは文官や衛兵、同僚の騎士達から気遣うような声を沢山掛けられる。そのことに誰も本当の欠勤理由を知らないとわかり、ソルドは内心胸を撫でおろした。
周りがこうだと言うことは、ジェスはきっとケインズに上手く欠勤理由を誤魔化しておいてくれたのだろう。
「ありがとうな、ジェス」
「にゃ、にゃははは……はは」
なんともぎこちないジェスの笑いに首を傾げたソルドだが、気が付けばケインズの執務室の前だった。
休んでしまった理由に落ち込みはするが、久しぶりであるケインズの元へ行けると言うこと自体には高揚してしまうのだ。
ピシりと姿勢を正し、カステルによって開けられた執務室の扉を潜る。慣れ親しんだ執務室の香りはソルドを安堵させた。
「お休みを頂いてしまい申し訳ありません、殿下」
スッと腰を折り頭を下げたソルドだったが、いつまでたってもケインズから声が掛けられない。
恐る恐る顔を上げれば、ケインズはソルドを見もせずカリカリとペンを走らせていた。
――とんでもなく怒っておられる……
緊張感を孕む執務室は居心地が悪いのか、護衛の騎士はひたすら一点を見つめているし、カステルすらも視線を床に落としている。
ジェスはと言うと、こちらもいつもの陽気さが鳴りを潜め、ソルドの大きな体を盾にし、こっそりとケインズの様子を窺っていた。
カチコチと鳴る時計の音だけが嫌に響く室内。ケインズは一言も発さず、ソルドに視線を向けもせず、夜までひたすら政務を続けたのだった。
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