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23 ジェス、王宮へ行く
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ソルドが帰ってくるのを今か今かと待ち続け、気が付けばジェスは朝を迎えてしまっていた。
毛艶は落ち、いつもは自信満々に髭をピンと伸ばしているジェスだったが、今朝はその面影がないほどしおしおにやつれている。
寝不足でしぱしぱする目を擦りならが時計を見れば、既にソルドが出勤する時間になっていた。無断欠勤となればどれだけ落ち込み、真面目なソルドは自身を責めるだろう。
命の恩人を助けるどころか落ち込ませていては良くないと、ジェスは冷水で顔を洗うと杖を取り出し魔法を使う。
すると見る見るうちにジェスは猫の姿から、人間のまだ少年のあどけなさを残した青年の姿へと変わる。服も魔法で出すと、ジェスは久しぶりの人型を姿見で確認した。
すらりと伸びた手足に、薄く筋肉が付く。髪は黒、瞳は金色に輝き、その姿はどこからどう見ても貴族の令息である。勿論猫の耳と尻尾は完全に隠されている。
その姿のままジェスは王宮へ向かい、ケインズに直接ソルドのお休みを伝えようとしたのだが、やはり王族であるケインズには早々に会えるはずもなかった。
仕方がないと一度王宮から離れたジェスは人型から猫の姿へと戻り、再び王宮の近くまで行く。以前は衛兵に見つかり、追いかけっこへと発展してしまったが、今回は失敗は許されない。魔力は未だ全回復しているわけではなく、できる限り温存しなければならないからだ。
慎重に庭を抜け、文官達が行き交う場所まで来ると、回廊の柱の陰に隠れ再び人型へと戻る。
その姿のまま、まるで貴族の令息のように振舞って歩けば誰もジェスを不法侵入者だとは思わなかった。
これはジェスが元居た世界で、皇帝を訪ねる時によく使っていた手だった。その手が異世界でも通じることに感謝しつつ、ジェスはケインズが居る執務室を目指した。
「ソルドさん遅いですね」
執務室ではカステルが不安そうな顔をし、ソルドが姿を現さないことを不振がっていた。休みの連絡も入ってはおらず、しかし政務の時間は当然のようにやってくるため、ケインズは変わりの護衛騎士を伴い執務室にやってきていた。
ケインズはつい癖でソルドがいつも立つ場所を見てしまうが、そこには当然別の騎士が立っている。何度目かわからない溜息を吐いていれば、コンコンと扉が叩かれはっと顔を上げた。
「……殿下、ジェス・ラヴィニア様と言う方が訪ねていておりますが、どういたしますか? 予定ではどなたも来られないはずですが……」
「ジェス・ラヴィニア?」
瞬時にジェスの姿を思い浮かべたケインズだったが、魔法猫であると言うことはケインズとソルドだけが知りえる秘密であるはずだ。
まさか猫の姿で来るわけがないだろうに、一体どうやって? と頭を悩ませながら、ケインズはキャスにジェスを通すように言うと、そのまま人払いをさせた。
もしソルドが来ないことと関係しているのだとしたら、ジェスが話す内容はカステルには聞かせられないからだ。
「ケインズ!」
執務室へと入って来たジェスの姿に、ケインズは大いに驚いた。一体どうやって来たのかと思えば、まさか人型になれるとは。
「君は、本当にあのジェスなのかい?」
「大魔法使いのジェスじゃよ! お主の知り合いに他にジェスと言う名前が居るのか?」
「いや、いないけれど……しかし人間になれるとは……」
「猫の姿は省エネモードなんじゃよ。元の世界じゃとこれで生活しておるでの」
「その姿でその口調だと違和感が凄いね……それで、わざわざここまで来たのはなぜだろうか? ソルドが来ないことと関係しているのかな?」
「そうじゃった。そのソルドじゃが、酷い風邪に掛かってしもうての、暫く仕事を休ませてやってほしいんじゃ」
「そうなのかい? 最近遅くまで引き留めてしまったせいだろうか……」
しゅんと肩を落としたケインズに、ジェスは慌てて元気付けようと、風邪はすぐに収まると言った。
だがその言葉にケインズは内心首を傾げる。治るではなく、収まる……そこに違和感を感じたケインズが、ジッとジェスを見つめていれば、そっと視線を逸らされた。
「ねぇジェス、僕たちは友達だろう? 本当のことを言って欲しいな」
にっこりと笑みを浮かべているが、言い逃れは許さないとばかりに圧が込められている表情に、ジェスはあっさりと白旗をあげたのだった。
毛艶は落ち、いつもは自信満々に髭をピンと伸ばしているジェスだったが、今朝はその面影がないほどしおしおにやつれている。
寝不足でしぱしぱする目を擦りならが時計を見れば、既にソルドが出勤する時間になっていた。無断欠勤となればどれだけ落ち込み、真面目なソルドは自身を責めるだろう。
命の恩人を助けるどころか落ち込ませていては良くないと、ジェスは冷水で顔を洗うと杖を取り出し魔法を使う。
すると見る見るうちにジェスは猫の姿から、人間のまだ少年のあどけなさを残した青年の姿へと変わる。服も魔法で出すと、ジェスは久しぶりの人型を姿見で確認した。
すらりと伸びた手足に、薄く筋肉が付く。髪は黒、瞳は金色に輝き、その姿はどこからどう見ても貴族の令息である。勿論猫の耳と尻尾は完全に隠されている。
その姿のままジェスは王宮へ向かい、ケインズに直接ソルドのお休みを伝えようとしたのだが、やはり王族であるケインズには早々に会えるはずもなかった。
仕方がないと一度王宮から離れたジェスは人型から猫の姿へと戻り、再び王宮の近くまで行く。以前は衛兵に見つかり、追いかけっこへと発展してしまったが、今回は失敗は許されない。魔力は未だ全回復しているわけではなく、できる限り温存しなければならないからだ。
慎重に庭を抜け、文官達が行き交う場所まで来ると、回廊の柱の陰に隠れ再び人型へと戻る。
その姿のまま、まるで貴族の令息のように振舞って歩けば誰もジェスを不法侵入者だとは思わなかった。
これはジェスが元居た世界で、皇帝を訪ねる時によく使っていた手だった。その手が異世界でも通じることに感謝しつつ、ジェスはケインズが居る執務室を目指した。
「ソルドさん遅いですね」
執務室ではカステルが不安そうな顔をし、ソルドが姿を現さないことを不振がっていた。休みの連絡も入ってはおらず、しかし政務の時間は当然のようにやってくるため、ケインズは変わりの護衛騎士を伴い執務室にやってきていた。
ケインズはつい癖でソルドがいつも立つ場所を見てしまうが、そこには当然別の騎士が立っている。何度目かわからない溜息を吐いていれば、コンコンと扉が叩かれはっと顔を上げた。
「……殿下、ジェス・ラヴィニア様と言う方が訪ねていておりますが、どういたしますか? 予定ではどなたも来られないはずですが……」
「ジェス・ラヴィニア?」
瞬時にジェスの姿を思い浮かべたケインズだったが、魔法猫であると言うことはケインズとソルドだけが知りえる秘密であるはずだ。
まさか猫の姿で来るわけがないだろうに、一体どうやって? と頭を悩ませながら、ケインズはキャスにジェスを通すように言うと、そのまま人払いをさせた。
もしソルドが来ないことと関係しているのだとしたら、ジェスが話す内容はカステルには聞かせられないからだ。
「ケインズ!」
執務室へと入って来たジェスの姿に、ケインズは大いに驚いた。一体どうやって来たのかと思えば、まさか人型になれるとは。
「君は、本当にあのジェスなのかい?」
「大魔法使いのジェスじゃよ! お主の知り合いに他にジェスと言う名前が居るのか?」
「いや、いないけれど……しかし人間になれるとは……」
「猫の姿は省エネモードなんじゃよ。元の世界じゃとこれで生活しておるでの」
「その姿でその口調だと違和感が凄いね……それで、わざわざここまで来たのはなぜだろうか? ソルドが来ないことと関係しているのかな?」
「そうじゃった。そのソルドじゃが、酷い風邪に掛かってしもうての、暫く仕事を休ませてやってほしいんじゃ」
「そうなのかい? 最近遅くまで引き留めてしまったせいだろうか……」
しゅんと肩を落としたケインズに、ジェスは慌てて元気付けようと、風邪はすぐに収まると言った。
だがその言葉にケインズは内心首を傾げる。治るではなく、収まる……そこに違和感を感じたケインズが、ジッとジェスを見つめていれば、そっと視線を逸らされた。
「ねぇジェス、僕たちは友達だろう? 本当のことを言って欲しいな」
にっこりと笑みを浮かべているが、言い逃れは許さないとばかりに圧が込められている表情に、ジェスはあっさりと白旗をあげたのだった。
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