猫耳のおじさん護衛騎士

関鷹親

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19 魔法猫とケインズ

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 ケインズにこれでもかと耳を撫でまわされたソルドは、ふわふわと浮ついた気分で自宅へと戻ると、ジェスを問いただすことも忘れ、すぐに夢へと旅だった。
 大きくなった掌も、そこから伝わる体温も、愛しむようなように蕩けた表情と甘い声音も。全てがソルドだけに向けられ、気分は天にも昇るように心地よかった。
 耳と尻尾が生えているのもいいかもしれないと夢現で考えてしまったせいだろうか。起きたソルドは再び猫の姿になってしまっていた。
 ジェスにはそのまま猫になってしまえと言われたが、断固として断りを入れ人間に戻してもらう。だが相変わらず耳と尻尾はそのままだった。

 時間を見ればまたもや遅刻ギリギリだ。連日の遅刻は外聞が悪すぎる。ジェスには完結にケインズの元へと連れていくと伝え、人払いが終わりソルドが許可するまで猫の振りを続けろとよくよく言い含めた。



 王宮の中を、ジェスを腕に抱きながら歩けば好機の目に晒された。
先日の騎士達とジェスの鬼ごっこは王宮ではちょっとした噂になっており、ソルドが抱えているジェスがその猫だとわかると苦々しい顔をしたり、手持ちの食べ物をや菓子を渡して来たりと反応は様々だった。
 お陰でギリギリ間に合うと言う時間であったにも関わらず、道行く先々で足止めを食らい、結局ソルドは遅刻をしてしまったのだった。

「おはようソルド。随分と沢山貰ったんだね」

 片腕にジェスを抱え、もう片方の手には大量の食べ物が入った袋を提げるソルドは困ったような表情でケインズを見ていた。カステルがソルドから袋を受け取れば、少し安心したような表情を見せる。
ケインズはすぐにはカステルを下がらせず、一緒に猫の状態のジェスと触れ合った。一通り戯れ、時間を確認したケインズはそろそろ頃合いだろうとカステルを下がらせることにする。
 ジェスと離れがたそうにしているカステルに、多少は嫌がられるかと思ったが、なにやら訳知り顔でにやけたカステルは素直にケインズの言葉に従った。
 一体何だろうかと疑問に思うケインズだったが、それよりも今は目の前の猫に集中するべきだと頭を切り替えた。

「ソルド、紹介してくれるかな?」
「ジェス、もういいぞ」

 まるで本物の猫のように、自身の背中を毛づくろいしていたジェスはピタリと動きを止めると、ゆっくりと後ろ足で立ち上がると器用に杖を取り出し、ふわりと光を自身の周りに纏わせる。
光がジェスを包み込みその光がやがて見えなくなれば、そこに居たのは豪華な白と金の刺繍に飾られたローブと衣服を纏ったジェスの姿だった。

「ご尊顔を拝し恐悦至極に存じ奉ります。我が名はジェス・ラヴィニア。異界シュレッツェ帝国にて、大魔法使いの地位を賜っております魔法猫にございます」
「ケインズ・フォン・デュエラーだ。この場は私的な場であるから、畏まらないでほしい」
「ではそのように」

 にこやかに会話をするジェスとケインズにソルドはあっけに取られていた。優雅にケインズに礼を取ったジェスがとことことソルドが座るソファの前まで来ると不思議そうに見上げてきた。

「なんじゃどうしたんじゃ坊よ」
「あぁいや、お前そんな丁寧な言葉遣いが出来たんだな? それにその服はどうしたんだ。いつも家では着ていないだろうに」
「心外じゃのう。我は大魔法使いじゃぞ? 我とて王族と会う時の礼儀ぐらい心得ておるわ。この服は元の世界で大魔術師だけが着ることを許されている服で正装じゃ。どうだ凄いじゃろう? 皇帝陛下から直々に賜ったものぞ!」

 ひらりと一回転し、ふふんと胸を張ってドヤ顔を決めたジェスに、ケインズは堪え切れずに笑い出してしまう。
 先ほどまでは随分と位が高いとわかる位の態度と言葉遣いだったというのに、本来の喋り方とのギャップが凄まじい。
 何よりもソルドとの気の置けない会話は、ケインズを笑わせるのには充分だった。
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