猫耳のおじさん護衛騎士

関鷹親

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13 衝撃の朝2

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「なんだこれは!? ジェスっなんで耳と尻尾だけ残したんだ!?」
「いやいや、我はちゃんと戻したはずじゃぁ! 我は大魔法使いじゃぞ!」

 脇の下に手を入れられがくがくとソルドに揺らされるジェスは、必死にソルドに弁明をするのだが、実際にソルドの頭と尻には耳と尻尾が付いているままだ。

「のう、坊やっ! お主、猫だったらと強く願っておらんか!?」
「っ!? ま、まさかそんなこと」
「思いが強くなければ猫の特徴は残らんっ」

 思い当たる節があるソルドは、恥ずかしさと焦りが滲む。この姿のままでは仕事に行けるはずもないからだ。
 中年男に生える猫耳と尻尾など、気味が悪すぎる。娼館などで若い女性達がサービスとして猫耳などを用いることは知っている。それならば可愛らしいで済む。
 だがソルドは体格が良い騎士であるし、なによりも中年に足を踏み入れたばかりの男である。こんな気色の悪い状態で外などに出れば、一体どんな目で見られるか。
 なによりも、ケインズの側にこんな状態では居られない。護衛が下手なことをしていれば、それは全てケインズの評価になってしまう。
 自身のみっともない思いから引き起こされた事態のせいで、ケインズに恥をかかせるわけにはいかないのだ。

「な、なんとかならないのか?」
「思いが薄れれば自然と消えるじゃろ」
「そんな適当な……これでは仕事に行けないではないか」
「可愛らしいがのう……魔力も今日はもうあまり消費できんからのう、ううむ……」

 眉間に皺を寄せ考えを巡らせるジェスに、ソルドは祈るような気持ちで見つめる。暫くすると、なにかを閃いたらしいジェスが再び杖を軽やかに振った。
 これで仕事に行けると胸を撫でおろしたソルドだったのだが、光が収まり確認した姿に変わりはなかった。

「……なにも変わってないが?」
「軽い認識阻害の魔法をかけたんじゃよ。坊自身には見えたままじゃが、他の人間には見えんようになっておる。これなら問題ないじゃろう?」

 姿見に写る己の姿に壮絶な違和感しかないのだが、時計を見れば出勤時間まではすぐだった。

「本当に他人には見えないんだろうな?」
「大丈夫じゃて、心配性じゃのう」

 ここで言い合いをしていても仕方がないと、ソルドは着替えに取り掛かり始めた。だがそこで問題が発生する。
 尻から生えた尻尾のせいでズボンが上手く履けないのだ。尻尾は丈が短く足を出す部分が広めの下履きの中から出ていたために気が付かなかった。まさかそんなことで悩むとは思わず、ソルドはあぁ……と天を仰いだ。
 触ればしっかりと感触も質量もある尻尾は長い。ズボンをギリギリまで上げて押し込んでみたのだが、尻の部分がボコりと不格好に膨れ上がるし違和感が物凄かった。
 なによりも無意識にズボンの中で動く尻尾が不快でならない。ズボンに切り込みを入れて出せればいいのだが、他人から見えない尻尾のために穴をあければどうなるか。ズボンの尻の部分が裂けた物を履いているおかしな人間になってしまう。
 その姿を想像し、とんだ間抜けな己の姿にゲンナリしてしまう。どうすれば尻尾のおさまりが良いものかと一人で悶々と悩み、最終的にソルドは尻尾を足に沿わせて垂らすことで納得した。
 納得したといっても、不快感と違和感は物凄い。姿見で色んな角度から見てみるが、いつもはゆとりはあれど、ピシッとしているズボンの後ろ脚側が僅かに膨らんでいる。
認識阻害をかけられていると言うことは、尻尾で膨れている部分も見えないはずだろうとなんとか自分を納得させたソルドは、どうにもならない耳も諦め、祈るような気持ちで家を出たのだった。
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