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12 驚愕の朝
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あれはソルドが幼いケインズの護衛騎士となってからしばらく経ってのことだった。剣の鍛錬をケインズと一緒に行い、へとへとに疲れた様子を見せるケインズに水を差しす。
「ソルドは凄いな、こんなに鍛錬をしても息が上がってないだなんて」
「殿下をお守りするためですから、常日頃鍛錬は怠りません。そのせいでしょう。殿下も十分凄いのですよ」
「それでもさ。僕のためにありがとう」
そういって伸ばされた小さな手は、膝をつき目線を合わせていたソルドの頭をゆっくりと撫でた。
びっくりして固まってしまったソルドに、年上に失礼だったと謝られてしまい、それ以降撫でられることは無かった。
それを、少し寂しく思っていたことをソルドは夢を見ながら思い出す。
大分昔の記憶をこうして夢に見てしまうくらいには、ケインズの意識がジェスに向けられてしまったことが寂しかったのだろうか。
夢から覚めても、気分は少しばかり落ち込んでしまっていた。昨日の出来事に加え、夢の内容から自身の感情に行きあたり、項垂れる。いい年をした大人が寂しいとは。
自嘲気味に笑いを漏らせば、自身の口から洩れたのは猫のような鳴き声だった。
「にゃ……? にゃー……にゃにゃにゃ……」
何度声を出しても出てくるのは猫の鳴き声ばかり。一体どうなっているのかと体を起こせば、いつもより視界が低すぎた。思わず体を見回せば、全身を毛が覆い、手は猫の手と同じようになっていた。
まさか、いやそんなわけが……と頭は混乱するばかり。行き着く考えは一つしかないのだが、ソルドの脳はそれを否定したいがために、気が付かないようにしていた。
ベッドから降りれば視界が床に近い。嫌な予感を感じつつも、姿見の前へと恐る恐る近づけば、そこに写っていたのはいたのは紛れもない猫だった。
「に゛ゃぁっぁああぁぁぁ!?」
「なんじゃ、なんじゃぁ!? なにごとにゃぁ!?」
とたたたと軽い足音と共に、ジェスがソルドの部屋へと駆け込んでくる。
「にゃぁぁぁ、うんにゃわわぅ、ににゃにゃーにゃにゃー!!」
「なんじゃ、坊よ。猫になってしもうたんか」
「にゃぁぁ!!」
「あぁこれこれ、そう興奮するでない。爪はしまえい、痛いじゃろうが!!」
よく見ればジェスを掴んでいる手からは、にょきりと鍵爪が姿を現していた。ますます猫と同じな有様に、よろよろとソルドはその場に崩れ落ちた。
「にゃあぁ……にゃっぁぁ」
「泣くでない、泣くでない。このジェス様がの、元の姿に直してやろう」
「ふにゃぁぁぁ」
「しかしなぜ猫の姿なんかになったんかの……うぅむ、のう坊や。もしや猫になりたいのうとか考えたりしなかったかの?」
ジェスに言われ、大混乱する頭で思考を掘り起こす。確か寝る前にそのようなことを考えていたかもしれない。
「そのせいじゃろうなぁ……元々坊にかけていた魔法の副作用みたいなものじゃ」
「にゃぁ?」
「あぁいやこちらの話じゃ。その姿じゃ仕事には行けんの」
「にゃにゃにゃにゃにゃ!!」
「あいあいわかっておるよ。元に戻してやるから大人しくせい!」
ジェスはどこからともなく取り出した杖を、指揮者のようにすいすいと動かし始める。途端にソルドの周りに細かい粒子が現れ、それに体はその光に包まれていく。
眩さに目を瞑ってしまえば、ジャスからもうよいぞと声を掛けられソルドは目を開けた。すかさず自身の手を見れば、慣れ親しんだ剣だこでごつごつとした手があった。
「戻った……はぁ、朝から心臓に悪い。まさか猫の姿になってしまうとは」
「愛らしかったのにのう……おぉん?」
「どうしたんだジェス」
「おかしいのう……なんでじゃぁ?」
「だからそうしたんだ」
「鏡をみてみぃ」
そう促されて鏡を見れば、自身の頭に似合いもしない三角の耳に、尻からは驚きで膨れ上がった尻尾が揺れていた。
「ソルドは凄いな、こんなに鍛錬をしても息が上がってないだなんて」
「殿下をお守りするためですから、常日頃鍛錬は怠りません。そのせいでしょう。殿下も十分凄いのですよ」
「それでもさ。僕のためにありがとう」
そういって伸ばされた小さな手は、膝をつき目線を合わせていたソルドの頭をゆっくりと撫でた。
びっくりして固まってしまったソルドに、年上に失礼だったと謝られてしまい、それ以降撫でられることは無かった。
それを、少し寂しく思っていたことをソルドは夢を見ながら思い出す。
大分昔の記憶をこうして夢に見てしまうくらいには、ケインズの意識がジェスに向けられてしまったことが寂しかったのだろうか。
夢から覚めても、気分は少しばかり落ち込んでしまっていた。昨日の出来事に加え、夢の内容から自身の感情に行きあたり、項垂れる。いい年をした大人が寂しいとは。
自嘲気味に笑いを漏らせば、自身の口から洩れたのは猫のような鳴き声だった。
「にゃ……? にゃー……にゃにゃにゃ……」
何度声を出しても出てくるのは猫の鳴き声ばかり。一体どうなっているのかと体を起こせば、いつもより視界が低すぎた。思わず体を見回せば、全身を毛が覆い、手は猫の手と同じようになっていた。
まさか、いやそんなわけが……と頭は混乱するばかり。行き着く考えは一つしかないのだが、ソルドの脳はそれを否定したいがために、気が付かないようにしていた。
ベッドから降りれば視界が床に近い。嫌な予感を感じつつも、姿見の前へと恐る恐る近づけば、そこに写っていたのはいたのは紛れもない猫だった。
「に゛ゃぁっぁああぁぁぁ!?」
「なんじゃ、なんじゃぁ!? なにごとにゃぁ!?」
とたたたと軽い足音と共に、ジェスがソルドの部屋へと駆け込んでくる。
「にゃぁぁぁ、うんにゃわわぅ、ににゃにゃーにゃにゃー!!」
「なんじゃ、坊よ。猫になってしもうたんか」
「にゃぁぁ!!」
「あぁこれこれ、そう興奮するでない。爪はしまえい、痛いじゃろうが!!」
よく見ればジェスを掴んでいる手からは、にょきりと鍵爪が姿を現していた。ますます猫と同じな有様に、よろよろとソルドはその場に崩れ落ちた。
「にゃあぁ……にゃっぁぁ」
「泣くでない、泣くでない。このジェス様がの、元の姿に直してやろう」
「ふにゃぁぁぁ」
「しかしなぜ猫の姿なんかになったんかの……うぅむ、のう坊や。もしや猫になりたいのうとか考えたりしなかったかの?」
ジェスに言われ、大混乱する頭で思考を掘り起こす。確か寝る前にそのようなことを考えていたかもしれない。
「そのせいじゃろうなぁ……元々坊にかけていた魔法の副作用みたいなものじゃ」
「にゃぁ?」
「あぁいやこちらの話じゃ。その姿じゃ仕事には行けんの」
「にゃにゃにゃにゃにゃ!!」
「あいあいわかっておるよ。元に戻してやるから大人しくせい!」
ジェスはどこからともなく取り出した杖を、指揮者のようにすいすいと動かし始める。途端にソルドの周りに細かい粒子が現れ、それに体はその光に包まれていく。
眩さに目を瞑ってしまえば、ジャスからもうよいぞと声を掛けられソルドは目を開けた。すかさず自身の手を見れば、慣れ親しんだ剣だこでごつごつとした手があった。
「戻った……はぁ、朝から心臓に悪い。まさか猫の姿になってしまうとは」
「愛らしかったのにのう……おぉん?」
「どうしたんだジェス」
「おかしいのう……なんでじゃぁ?」
「だからそうしたんだ」
「鏡をみてみぃ」
そう促されて鏡を見れば、自身の頭に似合いもしない三角の耳に、尻からは驚きで膨れ上がった尻尾が揺れていた。
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