猫耳のおじさん護衛騎士

関鷹親

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07 気になる2

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 ソルドは数日前から変わった変化に戸惑いを覚えていた。護衛で側にいる間、ちらちらとケインズから向けられる視線の多さに気が付かないわけではない。
 なにかあるのだろうかと問いかけても、ケインズはハッとし、何でもないとすぐに書類と向かいあってしまう。
 けれども暫くすればまたケインズの視線がソルドに向けられているのだ。今までこんなことはなかった。
 訝しむような、怪訝そうな、だが気になって仕方がないという類の視線だ。僅かに眉間に皺が寄る目で見られてしまうことに、戸惑いを覚えるのも無理はなかった。
 身だしなみがおかしかったのか、はたまた顔に何かついていたのか、様々なことを考えた。
 ソルドは毎朝入念に身だしなみを整え、夜には念のため風呂で入念に体を洗った。
 歳を取ると加齢臭というものが香るらしいと、大きな娘がいる同僚の話を思い出したからだ。
 その同僚の話では、成長した娘に“臭いから近寄らないで”と強く拒絶されたのだとか。
 主であるケインズの近くで、ソルドは護衛として常に控えなければならない。もしかすれば、言い出せずに気がつけと言わんばかりに見られているのではないかと、そう考えてしまったのだ。

 勤務後にどれがいいかわからず、手あたり次第のケア用品を買い込み帰宅すれば、ジェスにはにやにやしたよくわからない笑みを向けられた。
 そしていつの間にか服に着いていたジェスの毛に気が付き、もしやこれもケインズの不可解な視線の理由では? と行き着き、家の中を大掃除したのだった。

 暫くすればソルドの努力が実を結んだのか、ケインズから不可解な視線を向けられることはなくなった。
 だがほっとしたのも少しの間だった。
 向けられる視線が変化したのだ。それには明らかな慈愛のようなものが込められていた。
 そして今までとは違い、目が合うとふわりと微笑まれることが増えたのだ。
 一体この変化は何なのだろうかと戸惑うと同時に、心の奥がそわそわと落ち着き所在なさげになってしまう。
 見目麗しいケインズは男女問わず人気がある。そんなケインズに見つめられ、目があえば微笑まれるのだ。
 幼少時より傍に侍り慣れていると言っても、妙にドキドキとしてしまうのも仕方がなかった。



「坊もしっかりと雄なのじゃなぁ。あぁ、変な意味ではないぞ? 雌の影がこれっぽっちもないからの、心配しておったのじゃ。坊ぐらいの歳だと子供がいてもおかしくないじゃろうて」

 近頃のケインズの変化への戸惑いをジェスに話せば、あらぬ方向に話が飛んでいた。

「殿下を守る仕事が最優先だ。他に割く時間はない。なによりそんな相手ができても俺はほったらかしにしてしまうからな。先は目に見えてる」
「ほほぅ、一度はそういう痛い経験があったのじゃなぁ。まぁ坊ほどの雄なら周りがほおっておかんじゃろうしな」

 若い頃はそれなりに遊びはしたし、恋人がいたこともあったソルドだが、結局は仕事を優先しすぎたためにどれも長続きはせず、次第に恋人を作らなくなっていた。
 そうすることで更なる時間をケインズへと使うことができた。ソルドは仕事人間であると同時に、類まれなる主馬鹿でもあったのだ。

「飼い主の視線が気になってドキドキしてしまうんじゃろ? それは紛れもなく、ラブじゃ!! そう、坊の主と恋仲になればいいではないか!」

 とんでもないことを言い出すジェスに、ソルドは口に含んでいたコーヒーを盛大に噴き出した。僅かに気管に入り込んだものでゴホゴホと盛大に咽る。

「きったないのぅ、なにやっとるんじゃ」
「ジェスが、とんでもないことを言い出すからだろう!」
「とんでもないかのぅ? いやいや、我は脈ありだと思うがの。普通はたかだかいち護衛をそんな慈愛が籠ったような表情で見りゃせんじゃろうて」
「いやしかし……私は男でしかもこの年だぞ? それに殿下に仕える護衛だ」
「だから何なのじゃ? 年なんか関係なかろうて。愛に年齢は関係ないのじゃ、そんなことも知らんのか?」

 確かにケインズには浮いた話が一つもない。要らぬ争いを生まないために、兄である王の子が育つまではと婚約者すら置いてはいない。
 だが今更、ジェスが言うようにソルドに恋愛感情など抱く事などあるのだろうか。
 麗しい美女でもなく、儚い容姿の青年でもなく、ソルドは背も高くがっしりとした体形で、いかにも騎士といった風貌の歳のいった男である。
 幼少から近くで成長を見てきたわけだが、ケインズの対象が男だと言うわけでもない。そんなケインズが? とジェスに言われた言葉をソルドは真面目に考えてしまう。

 真剣に思考に浸るソルドの横で、ラブイズハッピーじゃ~! と頭上高く肉球を上げ笑いながら言うジェスであったが、ソルドに魔法をかけ、猫耳と尻尾が見えるようになっていることを当の本人はすっかりと忘れ去っていた。
 その結果、猫耳と尻尾に癒されているだけというケインズの状況に全く気が付くこともなく、勘違いまっしぐらの考えを爆走させていたのであった。
 なんともはた迷惑な魔法猫である。
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