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02 魔法猫
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ゆっくりと二本足で立ちあがった黒猫は、ふらつく足取りでソルドの元までくると、腰に手を当て胸を反らしにんまりと三日月のように目を細めた。
「よくぞ我を助けてくれた! 礼を言おう異界の者よ!」
突如人間の言葉を発した黒猫に、ソルドは目を丸くし固まってしまう。それが不思議なのか、黒猫は更にソルドの側によって来ると、ソルドの周りをくるくると回ったり、目の前で手を振ってきたりする。
「どうしたのかの、まさか我の言葉が通じぬのか? おかしいのう、術は完璧なはずなんじゃがのぅ」
一体どうしてじゃ? と可愛らしく首を傾げる黒猫に、漸くソルドの止まってしまった脳みそが動き出す。
「猫が、喋った……?」
「んん? それは喋るぞ? 我は大天才魔法猫じゃからな、これぐらい朝飯前よ! にゃはははは!」
ふんぞり返り、尊大に笑った黒猫はその勢いのまま後ろにバタンと倒れてしまい、ソルドは慌てて黒猫を助け起こした。
「す、すまぬな異界の者よ、ちぃとばかし血を流し過ぎたようじゃぁ……」
ぐったりする黒猫に手持ちの治療道具を鞄から取り出すと黒い毛で見えづらい中、狼にやられたらしき爪痕を水で綺麗にしてから縫合していく。
牙を剥き出しにして痛みに耐える黒猫を時折励ましながら、何とか縫合を終えると薬を塗って包帯を丁寧に巻いた。
「かたじけないのう……魔力が底を付いていなければ、こんな傷ちょちょいのちょいなんじゃがのう……」
「お前はどこから来たんだ? そもそもこの世界にしゃべる猫なんて聞いたことがないし、魔法なんてものも存在しないんだがな」
「我はこことは別の世界から魔法を使ってやって来たんじゃよ。だが、予想外に遠くに来てしまってのう……魔力が枯渇してしもうたんじゃ。そうしたら運悪くあの狼の群れに気づかれての、必死に逃げてたんじゃ。助けてくれてほんに感謝するぞ異界の者よ」
ぽふんぽふんと腕を叩かれ、ソルドの気が抜ける。本来であればこのようなよくわからない未知の物は警戒すべきなのだが、その喋り方と猫の可愛らしい見た目、そして妙に人間じみた動きが気が抜けてしまう原因と言えた。
「治療はしたからもう大丈夫だとは思うが、このあとはどうするんだ」
「どのみち魔力が回復しないことには元の場所にも帰れんしのう……暫くはこの世界にいるしかないんじゃが。あぁそうじゃ、お主には多大な恩があるからの、お主の望みを一つだけ聞いてやるぞ?」
望みと聞かれ、真っ先に浮かんだのは自分のことではなく、主であるケインズのことだった。そのことに内心自嘲しながらも、ソルドは黒猫に望みはないと言う。
「なにかないのかのう? なんでもいいんじゃよ。地位か名誉、金に雌か?」
「これと言って望みはないな。それに地位は今のままで十分だし、名誉は要らん。金にも困ってはいないし、雌……女のことか? それなら断ってきたところだ」
「なんと無欲な……んんむ、では我が回復するまでお主と行動を共にしても良いかのう? そうすればお主の願いができたらすぐに我が叶えてやれる! それにお主は強い! 魔法が使えず無力な我を守って欲しい。報酬は弾むし、どうかのう?」
大きな目をうるうるとさせ、小首を傾げる黒猫は破壊力があった。こんな目で見られては断れない。なにより黒猫の怪我は、ちょっとやそっとで治るものではないほど深かった。
普通であれば死んでいてもおかしくないのだが、それでも生きているのはやはりこの猫がこの世界の者ではないからなのだろう。
「回復するまで世話をするのは吝かではないが……守って欲しいことがある」
「なんじゃ? 言ってみよ!」
「まずこの世界には魔法がない。おとぎ話の中でしか聞かないものだ。それに猫は二足歩行しない。私といるなら普通の猫と同じようにふるまってもらうことになるが、それでもいいか?」
むむむと眉間に皺を寄せ、考え込む素振りを見せた黒猫だが、すぐさま大きな目を開けると宜しく頼むと小さな手を差し出してきた。
「我の名前はジェス・ラヴィニアじゃ、よろしくの異界の者よ!」
「あぁ私はソルド・リエングだ。よろしくジェス」
ジェスの手を優しく握り返したソルドは、そのままジェスを抱き上げると愛馬であるトーラに跨る。
「おぉぉう、いきなり何をするんじゃ! びっくりするじゃろうて!」
「すまんな、私は早く王都に戻らなければならないんだ。ジェスを助けて大分時間を食ってしまった。少しばかり急ぐから、鞄に入っててくれ」
ソルドは片肩掛けの鞄にジェスを入れると、ぶわわと毛を逆立たせたままのジェスを無視し、トーラの腹を思い切り蹴る。
任せろとばかりに嘶いたトーラは、それまでよりも強い蹴りで王都へ向けて走り出した。
「よくぞ我を助けてくれた! 礼を言おう異界の者よ!」
突如人間の言葉を発した黒猫に、ソルドは目を丸くし固まってしまう。それが不思議なのか、黒猫は更にソルドの側によって来ると、ソルドの周りをくるくると回ったり、目の前で手を振ってきたりする。
「どうしたのかの、まさか我の言葉が通じぬのか? おかしいのう、術は完璧なはずなんじゃがのぅ」
一体どうしてじゃ? と可愛らしく首を傾げる黒猫に、漸くソルドの止まってしまった脳みそが動き出す。
「猫が、喋った……?」
「んん? それは喋るぞ? 我は大天才魔法猫じゃからな、これぐらい朝飯前よ! にゃはははは!」
ふんぞり返り、尊大に笑った黒猫はその勢いのまま後ろにバタンと倒れてしまい、ソルドは慌てて黒猫を助け起こした。
「す、すまぬな異界の者よ、ちぃとばかし血を流し過ぎたようじゃぁ……」
ぐったりする黒猫に手持ちの治療道具を鞄から取り出すと黒い毛で見えづらい中、狼にやられたらしき爪痕を水で綺麗にしてから縫合していく。
牙を剥き出しにして痛みに耐える黒猫を時折励ましながら、何とか縫合を終えると薬を塗って包帯を丁寧に巻いた。
「かたじけないのう……魔力が底を付いていなければ、こんな傷ちょちょいのちょいなんじゃがのう……」
「お前はどこから来たんだ? そもそもこの世界にしゃべる猫なんて聞いたことがないし、魔法なんてものも存在しないんだがな」
「我はこことは別の世界から魔法を使ってやって来たんじゃよ。だが、予想外に遠くに来てしまってのう……魔力が枯渇してしもうたんじゃ。そうしたら運悪くあの狼の群れに気づかれての、必死に逃げてたんじゃ。助けてくれてほんに感謝するぞ異界の者よ」
ぽふんぽふんと腕を叩かれ、ソルドの気が抜ける。本来であればこのようなよくわからない未知の物は警戒すべきなのだが、その喋り方と猫の可愛らしい見た目、そして妙に人間じみた動きが気が抜けてしまう原因と言えた。
「治療はしたからもう大丈夫だとは思うが、このあとはどうするんだ」
「どのみち魔力が回復しないことには元の場所にも帰れんしのう……暫くはこの世界にいるしかないんじゃが。あぁそうじゃ、お主には多大な恩があるからの、お主の望みを一つだけ聞いてやるぞ?」
望みと聞かれ、真っ先に浮かんだのは自分のことではなく、主であるケインズのことだった。そのことに内心自嘲しながらも、ソルドは黒猫に望みはないと言う。
「なにかないのかのう? なんでもいいんじゃよ。地位か名誉、金に雌か?」
「これと言って望みはないな。それに地位は今のままで十分だし、名誉は要らん。金にも困ってはいないし、雌……女のことか? それなら断ってきたところだ」
「なんと無欲な……んんむ、では我が回復するまでお主と行動を共にしても良いかのう? そうすればお主の願いができたらすぐに我が叶えてやれる! それにお主は強い! 魔法が使えず無力な我を守って欲しい。報酬は弾むし、どうかのう?」
大きな目をうるうるとさせ、小首を傾げる黒猫は破壊力があった。こんな目で見られては断れない。なにより黒猫の怪我は、ちょっとやそっとで治るものではないほど深かった。
普通であれば死んでいてもおかしくないのだが、それでも生きているのはやはりこの猫がこの世界の者ではないからなのだろう。
「回復するまで世話をするのは吝かではないが……守って欲しいことがある」
「なんじゃ? 言ってみよ!」
「まずこの世界には魔法がない。おとぎ話の中でしか聞かないものだ。それに猫は二足歩行しない。私といるなら普通の猫と同じようにふるまってもらうことになるが、それでもいいか?」
むむむと眉間に皺を寄せ、考え込む素振りを見せた黒猫だが、すぐさま大きな目を開けると宜しく頼むと小さな手を差し出してきた。
「我の名前はジェス・ラヴィニアじゃ、よろしくの異界の者よ!」
「あぁ私はソルド・リエングだ。よろしくジェス」
ジェスの手を優しく握り返したソルドは、そのままジェスを抱き上げると愛馬であるトーラに跨る。
「おぉぉう、いきなり何をするんじゃ! びっくりするじゃろうて!」
「すまんな、私は早く王都に戻らなければならないんだ。ジェスを助けて大分時間を食ってしまった。少しばかり急ぐから、鞄に入っててくれ」
ソルドは片肩掛けの鞄にジェスを入れると、ぶわわと毛を逆立たせたままのジェスを無視し、トーラの腹を思い切り蹴る。
任せろとばかりに嘶いたトーラは、それまでよりも強い蹴りで王都へ向けて走り出した。
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