猫耳のおじさん護衛騎士

関鷹親

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09 迷い猫

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「あっちに行ったぞ! 早く捕まえろ!」

 王宮の庭に野太い声が幾多も響き、バタバタと沢山の人が走り回る音がケインズがいる執務室まで聞こえてきた。
 あまりにガヤガヤとしているので、流石に気になったケインズが窓から外を覗こうとすれば、警戒心を露わにしたソルドに制される。

「殿下、不審者かもしれません。確認しますので窓から離れてください」

 耳が伏せられ、イカ耳になっているソルドの猫耳をチラリと見たケインズは、ピリつく室内でカステルと共にソファに座る。
 緊張感が漂う中、ソルドは扉の外に待機している衛兵に事態の確認を急がせた。だが衛兵が持ち帰ってきた情報に、ソルドは一気に気が抜ける。

「どうやら猫が庭に侵入したようです。念のため騎士達が捕獲に動いているようですが、なかなか捕まらないとか」

 一気に緊迫感が解けた室内で、ケインズとカステルは顔を見合わせ、胸を撫で下ろした。

「猫ですか……あ! 殿下どうです? 休憩がてら見に行きませんか? 殿下は最近猫が気になっているようですし!」

 チラリとカステルが視線を向けた先には、図書館から持ち帰っている猫に関する本が積まれていた。だが、ケインズは別に猫自体に興味があるわけではない。ソルドの耳と尻尾に興味があるだけなのだ。
 しかしここでカステルの提案を断るのも違うような気がしたケインズは、散歩も兼ねて猫捜索の見物に繰り出すことにした。



 外に出れば日差しは強く、緑の匂いが強く香る。普段はできる限り表情で佇んでいる衛兵や、キリリとすました顔をしている騎士達が庭をまるで子供同士の追いかけっこのように走り回っていた。
 バタバタと大人数に走られる庭の芝生は所々土が捲り上がり、庭師の一団の肩があからさまに下がっていた。
 王宮勤めの文官やメイドや侍従があちらこちらの窓から顔を覗かせ、猫と騎士と衛兵の追いかけっこを楽しんでいる様子が伺える。よく見れば賭け事を始める者達もちらほらと見えた。
 黒い毛玉のような猫は、巧みに騎士達の足の間を抜けたり、走ってきた衛兵をジャンプ台にしたりと、なかなかに曲芸のような軽やかさで追ってから逃げていた。

「そこだっ!! あぁ、あの騎士め、動きが鈍すぎだろう!?」
「頑張って逃げろよ猫―! お前に大金掛けたんだから早く逃げろ!」
「ほら今よ、今!」

 気が付けば庭は観客達の声援で溢れかえり興奮は最高潮だ。ちらりとケインズがソルドを見れば、逃げ惑う猫の動きを追っているようだった。
 自身も走りたいのか、それともあの猫が気になるのか、そわそわと三角の耳と尻尾が忙しなく動いていた。

「ソルド、手伝ってあげたらどうだい?」

 猫耳と尻尾が生えたソルドが、本物の猫を追いかけたらどうなるのだろうかと提案すれば、ピンと尻尾が立つ。

「いやしかし、お側を離れるわけには……」
「少しなら平気だろう? ほら行っておいで」

 にこにこと楽しそうに笑っているケインズに言われ、ソルドは少し渋りながら猫に翻弄される騎士達の輪に加わろうとした。
すると急に方向転換し、バックステップで衛兵を避けた黒猫がソルドの方向へと全速力で走って来たのだ。
これはチャンスだなとばかりに構えれば、遠目に見ていた時よりも猫の毛並みがよくふわふわとしていることに既視感を覚えた。
 そんなまさか、と考えているうちにソルドに飛び掛かって来た猫の金に輝く目とバチリと視線が合わさった。

「ジェス……!?」
「ふぎゅにゃぁぁぁあぁあ!!」

 驚愕した声を咄嗟に飲み込んだソルドだったが、小さくも漏れ出たその声はソルドを見つけた安堵でいっぱいになったジェスの大きな泣き声にかき消された。
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