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06 気になる
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短い療養から政務に復帰したケインズは、十分な休息を取ったことにより、体も頭もすっきりとした気分だった。
相当疲れていたのだなと思うと同時に、しかし退屈でしかなく逆にストレスのあった休息だったように思う。
そしてもう一つ。いくら医師からのお墨付きを貰って回復したと言っても、ソルドの頭と尻に生えた猫耳と尻尾は消えはしなかったのが悩みの種であった。
毎朝起きるたびに、今日は消えているだろうか? とそっとソルドの頭と尻を確認するのが療養期間の間ですっかりと癖になってしまっていた。
ソルドはケインズの筆頭護衛騎士であるので常に側にいる。視界の端で揺らめく尻尾は気が散るし、ぴこぴこ動く三角の耳も気になって仕方がない。
いつも執務室の椅子に座れば気持ちが引き締まり、鬼のような集中力を発揮できるはずであるのに、扉の前で警戒しながら立つソルドの様子に気がそぞろになり、何度も紙の上を滑るペンが止まってしまうのだ。
「あの、殿下。私に何か御用でしょうか?」
無意識に見つめすぎていたのだろう、猫耳をぺしょりとさせたソルドが困惑気味に問いかけてきた。
「あぁ、いやすまない。少しぼうっとしてしまっただけだよ」
ケインズ自身はソルドの猫耳や尻尾を見ているつもりなのだが、それが見えない周りからすればソルドを見つめているように見えてしまうことに気が付き、ケインズは慌てて資料を引き寄せた。
「殿下、少し休憩されてはいかがですか? まだ復帰されて日が浅いのですから、無理はするなと医師からは言われておりますし」
「あぁ、そうだね……どうも集中力が続かなくて困っていたんだ」
控えていたカステルがすかさずアフタヌーンティーの準備をすれば、ケインズは驚いた顔を向ける。
「殿下が自ら休憩を取られるなんて、感激いたしました! どうぞこれからもちゃんと休んでくださいね! 殿下が倒れて僕がどれだけ肝が冷えたことか!」
滾々と説教をするカステルに、どうも倒れてからというもの保護者のようになってしまったなと、少しばかり年が下の侍従に苦笑で返す。
そんな日々がひと月も過ぎれば、ケインズはすっかりとソルドの猫耳と尻尾に慣れてしまっていた。
いつまでたっても消えないそれを、もう仕方がないことだと諦めたのだ。
依然ケインズにしか見えないそれらだが、今ではそれが面白くなっていた。
普段は寡黙で、表情をあまり変えないソルドに対し“何を考えているかわからない”と恐れる者は少なくない。
ケインズは長年共にしてきた間柄であるため、ソルドの感情の機微には聡い方だ。しかし猫の耳と尻尾は、無表情のソルドからは考えつかないほどの感情を表してくる。
何かに警戒する時はびっと立った尻尾がぼんぼんに膨れ上がり、ケインズが休憩を取らなければ、口調は優しいが耳は伏せ尻尾は不機嫌だとばかりに揺れる。
一度その状態のソルドを受け入れてしまえば、今度は耳や尻尾がどんな時に動くのか詳しく知りたくなってきてしまう。
ケインズは早速図書室に赴き、普段は見ることのない猫の飼育本などを数冊自室へと持ち帰った。
普段興味を示さない類の本をケインズが手に取ったことで、カステルやソルドを驚かせる。
「珍しいですね、殿下が……猫にご興味が?」
「そうだね、キャス。最近とても惹かれてしまうから気になってしまったんだよ」
「なるほど、商人を呼びましょうか?」
「いや、それはいいよ……既に飼っているようなものだしね」
ケインズは最後の言葉を口の中だけで押しとどめた。本当に良いのだろうかと顔を見合わせるソルドとカステルを横目に、ケインズは猫に関しての本を読み込んでいった。
相当疲れていたのだなと思うと同時に、しかし退屈でしかなく逆にストレスのあった休息だったように思う。
そしてもう一つ。いくら医師からのお墨付きを貰って回復したと言っても、ソルドの頭と尻に生えた猫耳と尻尾は消えはしなかったのが悩みの種であった。
毎朝起きるたびに、今日は消えているだろうか? とそっとソルドの頭と尻を確認するのが療養期間の間ですっかりと癖になってしまっていた。
ソルドはケインズの筆頭護衛騎士であるので常に側にいる。視界の端で揺らめく尻尾は気が散るし、ぴこぴこ動く三角の耳も気になって仕方がない。
いつも執務室の椅子に座れば気持ちが引き締まり、鬼のような集中力を発揮できるはずであるのに、扉の前で警戒しながら立つソルドの様子に気がそぞろになり、何度も紙の上を滑るペンが止まってしまうのだ。
「あの、殿下。私に何か御用でしょうか?」
無意識に見つめすぎていたのだろう、猫耳をぺしょりとさせたソルドが困惑気味に問いかけてきた。
「あぁ、いやすまない。少しぼうっとしてしまっただけだよ」
ケインズ自身はソルドの猫耳や尻尾を見ているつもりなのだが、それが見えない周りからすればソルドを見つめているように見えてしまうことに気が付き、ケインズは慌てて資料を引き寄せた。
「殿下、少し休憩されてはいかがですか? まだ復帰されて日が浅いのですから、無理はするなと医師からは言われておりますし」
「あぁ、そうだね……どうも集中力が続かなくて困っていたんだ」
控えていたカステルがすかさずアフタヌーンティーの準備をすれば、ケインズは驚いた顔を向ける。
「殿下が自ら休憩を取られるなんて、感激いたしました! どうぞこれからもちゃんと休んでくださいね! 殿下が倒れて僕がどれだけ肝が冷えたことか!」
滾々と説教をするカステルに、どうも倒れてからというもの保護者のようになってしまったなと、少しばかり年が下の侍従に苦笑で返す。
そんな日々がひと月も過ぎれば、ケインズはすっかりとソルドの猫耳と尻尾に慣れてしまっていた。
いつまでたっても消えないそれを、もう仕方がないことだと諦めたのだ。
依然ケインズにしか見えないそれらだが、今ではそれが面白くなっていた。
普段は寡黙で、表情をあまり変えないソルドに対し“何を考えているかわからない”と恐れる者は少なくない。
ケインズは長年共にしてきた間柄であるため、ソルドの感情の機微には聡い方だ。しかし猫の耳と尻尾は、無表情のソルドからは考えつかないほどの感情を表してくる。
何かに警戒する時はびっと立った尻尾がぼんぼんに膨れ上がり、ケインズが休憩を取らなければ、口調は優しいが耳は伏せ尻尾は不機嫌だとばかりに揺れる。
一度その状態のソルドを受け入れてしまえば、今度は耳や尻尾がどんな時に動くのか詳しく知りたくなってきてしまう。
ケインズは早速図書室に赴き、普段は見ることのない猫の飼育本などを数冊自室へと持ち帰った。
普段興味を示さない類の本をケインズが手に取ったことで、カステルやソルドを驚かせる。
「珍しいですね、殿下が……猫にご興味が?」
「そうだね、キャス。最近とても惹かれてしまうから気になってしまったんだよ」
「なるほど、商人を呼びましょうか?」
「いや、それはいいよ……既に飼っているようなものだしね」
ケインズは最後の言葉を口の中だけで押しとどめた。本当に良いのだろうかと顔を見合わせるソルドとカステルを横目に、ケインズは猫に関しての本を読み込んでいった。
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