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118 勇者同士の戦い
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結界が消えたと同時にガベルトゥスが城へと飛び去ったあと、魔王軍はまるで津波のように王都を囲む城壁へと押し寄せた。
激しく打ち鳴らされる太鼓の音が辺り全体に鳴り響く。城壁に張り付いていた無数のアンデッドや魔獣達が雪崩れるように城壁に攻撃を繰り出し、堅牢な城壁を次々に切り崩していく。
切り崩せない場所でもアンデット達が重なり合うようにして高さを出し、それを踏み台にして続々とアンデットや魔獣達が城壁を登っていくのだ。
安心材料であった結界の消失により、恐慌状態に陥った騎士や兵士達が持ち場に留まれるはずもなかった。
「あぁあぁっぁぁぁ!! 助けてくれ、勇者は……勇者は!?」
「来るな、来るなぁ!!」
剣をむやみやたらに振り回し、なんとかアンデッドにその刃を当てたとて、彼らが息絶えることはない。
既に死んでいるのだから当然だ。
しかし安全な王都から出たことのない彼らは、いくら切っても死なないそれらに恐れを抱く。
魔獣も王都周辺に出るような、小さく弱いもではない。まるで動く岩のようなも巨体もいれば、空を縦横無尽に飛び回り軽々と足で人を持ち上げ、空から落とし飛翔する怪鳥。
情けない騎士達の絶叫が木霊する城壁の周りの異様さは、すぐに王都中に伝播した。さざ波のように広がる恐怖で、王都の中はパニック状態にすぐに陥ってしまう。
逃げ惑う人々は我先にと安全な場所へ向かおうとするが、王都は既に何百万もの軍勢に囲まれているために逃げられる場所はどこにもない。
泣き叫ぶ子供を押しのけ、自力では逃げられない者を置き去りにし、王都の人々は右往左往と逃げ惑う。
だが城壁を乗り越えたアンデッド達は容赦なく人々を蹂躙していく。絶命したものはその端からガベルトゥスが流す魔力により手勢に加えられ、アンデッドとなり近くにいる人間に襲い掛かる。
魔獣と魔族はここぞとばかりに人間を狩り、その血肉を存分に食らい辺り一面を真っ赤に染めていった。
その様子を春輝は屋根の上を走りながら眺める。圧倒的なまでの魔王軍の強さに王都陥落は案外すぐなのではないかと期待が過った。
だがそれを裏切るように、教会から大勢の精霊族が武装して出てくる。同時に無数の羽音が聞こえてくれば、妖精が溢れ出すように飛び出してきたのだ。
緑色の平べったい塊がガサガサと地を這って行くさまは、遠目から見ても鳥肌ものだった。
妖精は次々に人に取り付き、克己を乗っ取ったように生きたまま人間を操り出す。逃げ惑っていた人々がぴたりと立ち止まり、急に進路を変え魔王の軍勢に次々に突進していくのだ。
ただの人間であれば恐怖から戦うことより逃げることを選ぶが、操られた人間はそれらを全て取り払われるようだ。
ある者は素手で、ある者は手近にある武器になりそうな物を持ちアンデッドや魔獣を相手にしていく。
教会にある無数の鐘が魔王軍の太鼓の音に対抗するようにけたたましくガランガラガンと耳耳障りなほど大きく鳴らされる。精霊族も鼓舞されたのかどんどんと魔王軍を押していく。
一気に屠ってしまいたい気持ちもあるが、目の前に迫りくる克己を倒さねば動けそうになかった。
大きく舌打ちをしながら、克己から放たれた雷撃を防御壁で躱す。すかさず春輝の足元に水が撒かれると、それが見る見るうちに氷を張っていった。
グリップが全くないつるつるとした靴底では当然踏ん張れるはずもなく、春輝の足はあっけなく滑ってしまう。
崩れた態勢を狙うように克己が剣を振り翳し、一撃を加えようとしてくるがそう容易く攻撃を受けるつもりはない。
倒れこむ途中の無理な体勢を更にわざと崩し、薄く張った氷の上を滑り避け、屋根の切れ目へスライドすると淵に手を引っかける。
手を強化して投げ出される体を引き留めると、足も強化し階下の窓を勢いのままぶち破った。転がるようにして城内に再び入り込めば、春輝は間髪入れずに走り出す。
同じ様にして春輝の後を追ってきた克己が背後から攻撃を再び繰り出してくるが、春輝はそのまま気にせずに長い廊下を走った。
広い回廊を走りながら絶えず後方へ向かって攻撃を続ける。壁には大穴がどんどんと開いていき、外の景色が丸見えだった。
飾られている絵画は無残にも落ち、カーテンや廊下に敷き詰められた絨毯は燃える。豪華絢爛だった城内は、春輝と克己の戦闘により煌びやかさをどんどんと失っていく。
装飾品の瓦礫と土埃が舞う中、先に開けた場所に出た春輝は素早くその身を柱の陰に潜ませると息を殺した。
駆けてくる克己の足音に集中しながら、感知される可能性を考え敢えて魔力は練らない。
広間に足を踏み入れ春輝の姿がないことに気が付いた克己が、ゆるりと頭を動かしながら春輝を探している。
全神経を集中させ、息を殺しながら忍び足で克己の背後を取った春輝は一気にその間合いを詰めると、瞬時に魔力を命一杯魔剣に纏わせ克己の背を切りつけた。
だが克己は寸前で春輝の攻撃を半身をずらすことで避ける。しかし程近くまで詰められた状態で完全に避けきれるわけもなく、逃げ遅れた克己の左腕が宙を舞うのだった。
*あけましておめでとうございます&お待たせしてしまい申し訳ないです!
あと少しなので、最後までお付き合いいただけるとありがたいです。
激しく打ち鳴らされる太鼓の音が辺り全体に鳴り響く。城壁に張り付いていた無数のアンデッドや魔獣達が雪崩れるように城壁に攻撃を繰り出し、堅牢な城壁を次々に切り崩していく。
切り崩せない場所でもアンデット達が重なり合うようにして高さを出し、それを踏み台にして続々とアンデットや魔獣達が城壁を登っていくのだ。
安心材料であった結界の消失により、恐慌状態に陥った騎士や兵士達が持ち場に留まれるはずもなかった。
「あぁあぁっぁぁぁ!! 助けてくれ、勇者は……勇者は!?」
「来るな、来るなぁ!!」
剣をむやみやたらに振り回し、なんとかアンデッドにその刃を当てたとて、彼らが息絶えることはない。
既に死んでいるのだから当然だ。
しかし安全な王都から出たことのない彼らは、いくら切っても死なないそれらに恐れを抱く。
魔獣も王都周辺に出るような、小さく弱いもではない。まるで動く岩のようなも巨体もいれば、空を縦横無尽に飛び回り軽々と足で人を持ち上げ、空から落とし飛翔する怪鳥。
情けない騎士達の絶叫が木霊する城壁の周りの異様さは、すぐに王都中に伝播した。さざ波のように広がる恐怖で、王都の中はパニック状態にすぐに陥ってしまう。
逃げ惑う人々は我先にと安全な場所へ向かおうとするが、王都は既に何百万もの軍勢に囲まれているために逃げられる場所はどこにもない。
泣き叫ぶ子供を押しのけ、自力では逃げられない者を置き去りにし、王都の人々は右往左往と逃げ惑う。
だが城壁を乗り越えたアンデッド達は容赦なく人々を蹂躙していく。絶命したものはその端からガベルトゥスが流す魔力により手勢に加えられ、アンデッドとなり近くにいる人間に襲い掛かる。
魔獣と魔族はここぞとばかりに人間を狩り、その血肉を存分に食らい辺り一面を真っ赤に染めていった。
その様子を春輝は屋根の上を走りながら眺める。圧倒的なまでの魔王軍の強さに王都陥落は案外すぐなのではないかと期待が過った。
だがそれを裏切るように、教会から大勢の精霊族が武装して出てくる。同時に無数の羽音が聞こえてくれば、妖精が溢れ出すように飛び出してきたのだ。
緑色の平べったい塊がガサガサと地を這って行くさまは、遠目から見ても鳥肌ものだった。
妖精は次々に人に取り付き、克己を乗っ取ったように生きたまま人間を操り出す。逃げ惑っていた人々がぴたりと立ち止まり、急に進路を変え魔王の軍勢に次々に突進していくのだ。
ただの人間であれば恐怖から戦うことより逃げることを選ぶが、操られた人間はそれらを全て取り払われるようだ。
ある者は素手で、ある者は手近にある武器になりそうな物を持ちアンデッドや魔獣を相手にしていく。
教会にある無数の鐘が魔王軍の太鼓の音に対抗するようにけたたましくガランガラガンと耳耳障りなほど大きく鳴らされる。精霊族も鼓舞されたのかどんどんと魔王軍を押していく。
一気に屠ってしまいたい気持ちもあるが、目の前に迫りくる克己を倒さねば動けそうになかった。
大きく舌打ちをしながら、克己から放たれた雷撃を防御壁で躱す。すかさず春輝の足元に水が撒かれると、それが見る見るうちに氷を張っていった。
グリップが全くないつるつるとした靴底では当然踏ん張れるはずもなく、春輝の足はあっけなく滑ってしまう。
崩れた態勢を狙うように克己が剣を振り翳し、一撃を加えようとしてくるがそう容易く攻撃を受けるつもりはない。
倒れこむ途中の無理な体勢を更にわざと崩し、薄く張った氷の上を滑り避け、屋根の切れ目へスライドすると淵に手を引っかける。
手を強化して投げ出される体を引き留めると、足も強化し階下の窓を勢いのままぶち破った。転がるようにして城内に再び入り込めば、春輝は間髪入れずに走り出す。
同じ様にして春輝の後を追ってきた克己が背後から攻撃を再び繰り出してくるが、春輝はそのまま気にせずに長い廊下を走った。
広い回廊を走りながら絶えず後方へ向かって攻撃を続ける。壁には大穴がどんどんと開いていき、外の景色が丸見えだった。
飾られている絵画は無残にも落ち、カーテンや廊下に敷き詰められた絨毯は燃える。豪華絢爛だった城内は、春輝と克己の戦闘により煌びやかさをどんどんと失っていく。
装飾品の瓦礫と土埃が舞う中、先に開けた場所に出た春輝は素早くその身を柱の陰に潜ませると息を殺した。
駆けてくる克己の足音に集中しながら、感知される可能性を考え敢えて魔力は練らない。
広間に足を踏み入れ春輝の姿がないことに気が付いた克己が、ゆるりと頭を動かしながら春輝を探している。
全神経を集中させ、息を殺しながら忍び足で克己の背後を取った春輝は一気にその間合いを詰めると、瞬時に魔力を命一杯魔剣に纏わせ克己の背を切りつけた。
だが克己は寸前で春輝の攻撃を半身をずらすことで避ける。しかし程近くまで詰められた状態で完全に避けきれるわけもなく、逃げ遅れた克己の左腕が宙を舞うのだった。
*あけましておめでとうございます&お待たせしてしまい申し訳ないです!
あと少しなので、最後までお付き合いいただけるとありがたいです。
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