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117 戦いの火ぶた
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「そう言われて返すと思うか?」
ガベルトゥスが目を細めながら挑発するように言えば、ジェンツの蟀谷に血管が浮き上がる。
ぶわりと広がるジェンツの魔力が床に散らばる砕けた石と共鳴し、キンと鼓膜を突くような超音波を発してきた。
慌てて防御壁を張るが、脳の奥まで届いたような音が不快でしょうがなく、軽い脳震盪を起こしたような感覚が春輝を襲う。
グラつく不快さを感じながらガベルトゥスを見ると、彼は既に戦闘態勢を取っていた。軽く頭を振った春輝も魔剣を握る手に力を込める。
狭い塔の部屋の中にブワリと広がったガベルトゥスの威圧とジェンツの威圧がぶつかり、生き残っていた人間の騎士は泡を吹いてバタバタと倒れ昏倒してしまう。
その輪の中にトビアスも加われば、精霊族達も顔面を蒼白にさせながらも対抗するように魔力を全身に纏わせた。
睨みを互いに利かせ合ったまま誰も動かない。静まり返った部屋の中に聞こえるのは、外から聞こえる魔王軍が王都を蹂躙する音と、それから逃げ惑う人々の阿鼻叫喚。
沈黙が下りる中、砂利を踏む小さな足音が場違いなほど大きく聞こえてきた。春輝はその瞬間凍り付いたように一点に視線を向け、ジェンツはどこか勝ち誇ったように笑みを深めたのだ。
「お兄ちゃん、そっちはダメだよ。いちかと一緒にいなくちゃ」
「い、いちかっ」
頭の中にまるで注ぎ込まれるようにいちかの声が春輝の脳内で反響する。途端に溢れ出す大量の冷や汗と、激しい動悸に眩暈がしそうだった。
不意に足を進めそうになるのを、ガベルトゥスが春輝の腰に回す手に力を込めて引き留める。
そうでなかったならば、一目散にいちかの元へと走り出していたに違いない。取り戻したはずの自我が再び塗りつぶされそうだった。
まるで核が埋まっていた時のような感覚に、春輝はまた全てを忘れて敵の手に堕ちてしまいそうで、体をぶるりと震わせる。
「おかしいですね……核は完全に根を張っていたはず……」
「ハッ! そんなもの、とっくに壊したが?」
ガベルトゥスが挑発的に言葉を投げれば、それを嘲笑うかのようにジェンツが声を上げて笑い声を上げた。
「核を、そうですか。ですが完全には、取り除生けてはいないでしょう? 破壊しただけでは、その効力は何度だって使えるというのに」
ニヤリと悍ましい笑みを浮かべたジェンツが、再び周りが共鳴するように魔力を溢れさせる。
「ぐぁっ!」
「ハルキッ」
頭に電気ショックを受けたような衝撃が走り、思わず春輝はその場でたたらを踏む。ガベルトゥスが支えていなければ、その場に倒れ込んでいただろうほどの痛みは、春輝を恐怖に陥れた。
ドラゴンになったことで完全に安全を手にしたと思っていたものがそうではなかった。足元から急激に血の気が引いていく。
早くアレを殺さなければ自身の平穏は訪れないのだと、脳内でけたたましいほどに警告音が鳴り響く。
体内で拮抗するかの如く荒れ狂う魔力の高ぶりに合わせて、呼吸も激しくなり目の色が金へと変わっていった。
「っ!! 待て、ハルキ!!」
ガベルトゥスの静止を振り切った春輝は、目の前のジェンツめがけて切り込んだ。
そんな春輝の行動に舌打ちをしたガベルトゥスが、瞬時に臨戦態勢をトビアスと共に取る。
激しい金属音と共に春輝の前に飛び出したのは、目を真っ赤に染め上げた克己だった。強化した力は互角。
ギリギリと拮抗する力のせいで身動きが取れない。克己の背後にいるジェンツを殺さねばと思うのに、春輝は動けなかった。
「この野郎っ」
震えだした腕に舌打ちした春輝は、そのまま腹の奥底に魔力を溜め瞬時にブレスを吐き出す。
魔剣が離れたことで一瞬体勢を崩した克己だったが、前のめりに傾く体を無理やりに捻りブレスの炎を軽やかに避けた。
それが合図だったかのように、部屋に居る者達が一斉に動き出し乱戦になる。
「トビアスっ王都の破壊は任せたぞっ!」
「承りました陛下!」
崩れた窓辺から勢いよく宙へと躊躇いなく体を投げたトビアスは、すぐさま巨大なドラゴンに姿を変える。
「あのドラゴンを抑えなさいっ!!」
叫ぶように精霊族の面々に指示を飛ばしたジェンツに、ガベルトゥスが素早く襲い掛かる。
春輝は克己から繰り出される連撃を疾走しながら躱す。走る先をお互いに先読みし繰り出されていく魔法攻撃にを避けるべく、春輝は狭い室内から外へと飛び出した。
重力を無視するように体を回転させ、猫のように反対側にある屋根に飛び移る。すぐに後を追ってくる克己の後ろ、塔の部屋の中にはいちかの姿が見え、できるだけ視界に入らない場所に急いで移動しようと春輝は不安定な屋根の上を懸命に走った。
ガベルトゥスが目を細めながら挑発するように言えば、ジェンツの蟀谷に血管が浮き上がる。
ぶわりと広がるジェンツの魔力が床に散らばる砕けた石と共鳴し、キンと鼓膜を突くような超音波を発してきた。
慌てて防御壁を張るが、脳の奥まで届いたような音が不快でしょうがなく、軽い脳震盪を起こしたような感覚が春輝を襲う。
グラつく不快さを感じながらガベルトゥスを見ると、彼は既に戦闘態勢を取っていた。軽く頭を振った春輝も魔剣を握る手に力を込める。
狭い塔の部屋の中にブワリと広がったガベルトゥスの威圧とジェンツの威圧がぶつかり、生き残っていた人間の騎士は泡を吹いてバタバタと倒れ昏倒してしまう。
その輪の中にトビアスも加われば、精霊族達も顔面を蒼白にさせながらも対抗するように魔力を全身に纏わせた。
睨みを互いに利かせ合ったまま誰も動かない。静まり返った部屋の中に聞こえるのは、外から聞こえる魔王軍が王都を蹂躙する音と、それから逃げ惑う人々の阿鼻叫喚。
沈黙が下りる中、砂利を踏む小さな足音が場違いなほど大きく聞こえてきた。春輝はその瞬間凍り付いたように一点に視線を向け、ジェンツはどこか勝ち誇ったように笑みを深めたのだ。
「お兄ちゃん、そっちはダメだよ。いちかと一緒にいなくちゃ」
「い、いちかっ」
頭の中にまるで注ぎ込まれるようにいちかの声が春輝の脳内で反響する。途端に溢れ出す大量の冷や汗と、激しい動悸に眩暈がしそうだった。
不意に足を進めそうになるのを、ガベルトゥスが春輝の腰に回す手に力を込めて引き留める。
そうでなかったならば、一目散にいちかの元へと走り出していたに違いない。取り戻したはずの自我が再び塗りつぶされそうだった。
まるで核が埋まっていた時のような感覚に、春輝はまた全てを忘れて敵の手に堕ちてしまいそうで、体をぶるりと震わせる。
「おかしいですね……核は完全に根を張っていたはず……」
「ハッ! そんなもの、とっくに壊したが?」
ガベルトゥスが挑発的に言葉を投げれば、それを嘲笑うかのようにジェンツが声を上げて笑い声を上げた。
「核を、そうですか。ですが完全には、取り除生けてはいないでしょう? 破壊しただけでは、その効力は何度だって使えるというのに」
ニヤリと悍ましい笑みを浮かべたジェンツが、再び周りが共鳴するように魔力を溢れさせる。
「ぐぁっ!」
「ハルキッ」
頭に電気ショックを受けたような衝撃が走り、思わず春輝はその場でたたらを踏む。ガベルトゥスが支えていなければ、その場に倒れ込んでいただろうほどの痛みは、春輝を恐怖に陥れた。
ドラゴンになったことで完全に安全を手にしたと思っていたものがそうではなかった。足元から急激に血の気が引いていく。
早くアレを殺さなければ自身の平穏は訪れないのだと、脳内でけたたましいほどに警告音が鳴り響く。
体内で拮抗するかの如く荒れ狂う魔力の高ぶりに合わせて、呼吸も激しくなり目の色が金へと変わっていった。
「っ!! 待て、ハルキ!!」
ガベルトゥスの静止を振り切った春輝は、目の前のジェンツめがけて切り込んだ。
そんな春輝の行動に舌打ちをしたガベルトゥスが、瞬時に臨戦態勢をトビアスと共に取る。
激しい金属音と共に春輝の前に飛び出したのは、目を真っ赤に染め上げた克己だった。強化した力は互角。
ギリギリと拮抗する力のせいで身動きが取れない。克己の背後にいるジェンツを殺さねばと思うのに、春輝は動けなかった。
「この野郎っ」
震えだした腕に舌打ちした春輝は、そのまま腹の奥底に魔力を溜め瞬時にブレスを吐き出す。
魔剣が離れたことで一瞬体勢を崩した克己だったが、前のめりに傾く体を無理やりに捻りブレスの炎を軽やかに避けた。
それが合図だったかのように、部屋に居る者達が一斉に動き出し乱戦になる。
「トビアスっ王都の破壊は任せたぞっ!」
「承りました陛下!」
崩れた窓辺から勢いよく宙へと躊躇いなく体を投げたトビアスは、すぐさま巨大なドラゴンに姿を変える。
「あのドラゴンを抑えなさいっ!!」
叫ぶように精霊族の面々に指示を飛ばしたジェンツに、ガベルトゥスが素早く襲い掛かる。
春輝は克己から繰り出される連撃を疾走しながら躱す。走る先をお互いに先読みし繰り出されていく魔法攻撃にを避けるべく、春輝は狭い室内から外へと飛び出した。
重力を無視するように体を回転させ、猫のように反対側にある屋根に飛び移る。すぐに後を追ってくる克己の後ろ、塔の部屋の中にはいちかの姿が見え、できるだけ視界に入らない場所に急いで移動しようと春輝は不安定な屋根の上を懸命に走った。
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