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116 飛来
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結界が消え去った王都に轟く咆哮は人々の動きを止めさせた。唖然とする人々の頭上に忽然と現れたのは、深紅の鱗を身に纏う巨大なドラゴンだ。
大きな翼をゆっくりと、まるで恐怖を助長させるように羽ばたかせながら、一直線に城へと向かって行く。
黒々とした雲の下で飛ぶその巨大な姿は雄々しく、見る者全てを圧倒し一瞬にして恐怖に陥れるさまはまさに強者であり、絶望を齎すものだ。
塔の窓から身を乗り出した春輝はその姿を認めると瞳を輝かし、飛んでくるドラゴンに向けて思わず手を伸ばす。
「ガイルっ」
ドラゴンの姿に変わっているガベルトゥスは金に輝く目を細めると、速度を上げ城まで飛んだ。春輝のいる塔の窓辺をすれすれで通り過ぎたあと春輝に念話を飛ばしてくる。
『頭上に気をつけろ』
ガベルトゥスの声を聞き即座に防御壁を自身に張る。それを確認したガベルトゥスが、鋭い爪を生やした太い足で器用に塔の先端を取り払った。
軽く積み木を崩すように簡単に壊された先端のお陰で、部屋の中からは不穏に黒めく空がハッキリ見える。バラバラと落ちていく石材は、大きな音を立てて地上へと落下していった。
ばさりと春輝の頭上で一度大きく羽を動かしたガベルトゥスは、元の姿に戻ると春輝の目の前に優雅に降り立ったと同時に、春輝に向けて両手を広げてみせた。
「待たせたなぁ、ハルキ」
「遅いっ」
思わずガベルトゥスはの胸へと飛び込んだ春輝は、不安を溶かすようにその逞しい体を力強く抱きしめた。鼻孔に届く香りは慣れ親しんだ安心できるもので、その温もりも春輝の心を瞬時に軽くさせる。
克己が驚愕に目を見開いているのが見えるが、うっそりと笑みを深めたガベルトゥスが春輝の腰に腕を回ししっかりと抱え込んで深く口づけてくる。
再会を待ち望んでいたのは己だけではないという事実に、春輝は愉悦笑みを浮かべた。大きな手が春輝の背を撫でてくれるのも酷く心地が良い。
だが感動的な再会も、克己が我に返ったことで終わりを告げる。突如として魔力を存分に纏わせた聖剣で克己が切りかかって来たのだ。すぐ側で控えていたトビアスが、大きく降りかぶられた剣を素早く止めた。
防御壁と共に、トビアスの剣で受け止められた克己の突進を不快であると言わんばかりの表情で春輝達は眺めるていれば克己が吠えた。
「なんで魔王が、春輝さんとっ!!」
「それは当然だろう? こいつは俺のだぞ?」
「違う、違う……はるっ春輝さんは……」
体をぶるぶると震わせ、髪を振り乱す克己の視線は左右を彷徨い視線が定まらない。異常をきたしているのが嫌でも分かる。
その時、どこからともなくカサカサと耳障りな音が聞こえてきたかと思えば、錯乱状態のような克己の周りを無数の妖精が取り囲み始めた。
トビアスが慌てて克己から距離を取ると、妖精達は躊躇いなく克己の鎧の中に入り込んでいき、更には口や耳の穴にもその気持ちの悪い体を侵入させていく。
余りの悍ましい光景に、春輝は全身に鳥肌を立て身を守るようにうさぎのぬいぐるみを胸元で抱きしめていた。
「生きたまま操るか……」
春輝を守るように体を引き寄せたガベルトゥスが、嫌悪感を存分に含んだ顔を見せる。春輝自身も同じような表情になっているだろう。
「哀れだな」
「俺達も気が付かなければあぁなってた」
「ハルキはすれすれだっただろう?」
「思い出させるなよ。ギリギリで耐えただろ」
嫌なことを思い出した春輝はむすっとした表情をし眉間に皺を寄せるが、するりとガベルトゥスに指の背で頬を撫でられ視線を向ける。
「無茶をしすぎだ。死んだらそうするつもりだったんだ。俺をここに一人にするつもりか?」
「死ななかったからいいだろう」
春輝の言い分に苦笑しながらも、どこか嬉しそうな表情のガベルトゥスに何だろうとかと内心首を傾げれば、触られた部分にぴりつく痛みが走った。
「紫か」
知らぬ間に血が流れていたようで、その色にガベルトゥスが喜色を浮かべる。この世界では二人しかいない血の色は、やはりガベルトゥスのお気に召したようだった。
「まぁこの色は僥倖だが?」
「そうだろ?」
くすくすと笑いあっていれば、妖精に体を蝕まれた克己が絶叫を上げる。喉が切れんばかりのその声に現実へと引き戻された二人は、体を揺らめかせる克己を見た。
口から止めどなく溢れる鮮血が真新しい鎧を汚していく。だらだらと血と唾液を垂れ流していた克己は、目を剥きながら肩を上下させる克己の姿は鬼気迫るものがある。
「春輝さん……は、きょ、教皇様の、ものだっ!!」
「その通り。ソレは私の大事な胚です、返してもらいましょうか」
この場に相応しくないほど真っ白で豪華な法衣を纏ったジェンツが、口元にだけ笑みを浮かべて克己の背後から姿を現した。
大きな翼をゆっくりと、まるで恐怖を助長させるように羽ばたかせながら、一直線に城へと向かって行く。
黒々とした雲の下で飛ぶその巨大な姿は雄々しく、見る者全てを圧倒し一瞬にして恐怖に陥れるさまはまさに強者であり、絶望を齎すものだ。
塔の窓から身を乗り出した春輝はその姿を認めると瞳を輝かし、飛んでくるドラゴンに向けて思わず手を伸ばす。
「ガイルっ」
ドラゴンの姿に変わっているガベルトゥスは金に輝く目を細めると、速度を上げ城まで飛んだ。春輝のいる塔の窓辺をすれすれで通り過ぎたあと春輝に念話を飛ばしてくる。
『頭上に気をつけろ』
ガベルトゥスの声を聞き即座に防御壁を自身に張る。それを確認したガベルトゥスが、鋭い爪を生やした太い足で器用に塔の先端を取り払った。
軽く積み木を崩すように簡単に壊された先端のお陰で、部屋の中からは不穏に黒めく空がハッキリ見える。バラバラと落ちていく石材は、大きな音を立てて地上へと落下していった。
ばさりと春輝の頭上で一度大きく羽を動かしたガベルトゥスは、元の姿に戻ると春輝の目の前に優雅に降り立ったと同時に、春輝に向けて両手を広げてみせた。
「待たせたなぁ、ハルキ」
「遅いっ」
思わずガベルトゥスはの胸へと飛び込んだ春輝は、不安を溶かすようにその逞しい体を力強く抱きしめた。鼻孔に届く香りは慣れ親しんだ安心できるもので、その温もりも春輝の心を瞬時に軽くさせる。
克己が驚愕に目を見開いているのが見えるが、うっそりと笑みを深めたガベルトゥスが春輝の腰に腕を回ししっかりと抱え込んで深く口づけてくる。
再会を待ち望んでいたのは己だけではないという事実に、春輝は愉悦笑みを浮かべた。大きな手が春輝の背を撫でてくれるのも酷く心地が良い。
だが感動的な再会も、克己が我に返ったことで終わりを告げる。突如として魔力を存分に纏わせた聖剣で克己が切りかかって来たのだ。すぐ側で控えていたトビアスが、大きく降りかぶられた剣を素早く止めた。
防御壁と共に、トビアスの剣で受け止められた克己の突進を不快であると言わんばかりの表情で春輝達は眺めるていれば克己が吠えた。
「なんで魔王が、春輝さんとっ!!」
「それは当然だろう? こいつは俺のだぞ?」
「違う、違う……はるっ春輝さんは……」
体をぶるぶると震わせ、髪を振り乱す克己の視線は左右を彷徨い視線が定まらない。異常をきたしているのが嫌でも分かる。
その時、どこからともなくカサカサと耳障りな音が聞こえてきたかと思えば、錯乱状態のような克己の周りを無数の妖精が取り囲み始めた。
トビアスが慌てて克己から距離を取ると、妖精達は躊躇いなく克己の鎧の中に入り込んでいき、更には口や耳の穴にもその気持ちの悪い体を侵入させていく。
余りの悍ましい光景に、春輝は全身に鳥肌を立て身を守るようにうさぎのぬいぐるみを胸元で抱きしめていた。
「生きたまま操るか……」
春輝を守るように体を引き寄せたガベルトゥスが、嫌悪感を存分に含んだ顔を見せる。春輝自身も同じような表情になっているだろう。
「哀れだな」
「俺達も気が付かなければあぁなってた」
「ハルキはすれすれだっただろう?」
「思い出させるなよ。ギリギリで耐えただろ」
嫌なことを思い出した春輝はむすっとした表情をし眉間に皺を寄せるが、するりとガベルトゥスに指の背で頬を撫でられ視線を向ける。
「無茶をしすぎだ。死んだらそうするつもりだったんだ。俺をここに一人にするつもりか?」
「死ななかったからいいだろう」
春輝の言い分に苦笑しながらも、どこか嬉しそうな表情のガベルトゥスに何だろうとかと内心首を傾げれば、触られた部分にぴりつく痛みが走った。
「紫か」
知らぬ間に血が流れていたようで、その色にガベルトゥスが喜色を浮かべる。この世界では二人しかいない血の色は、やはりガベルトゥスのお気に召したようだった。
「まぁこの色は僥倖だが?」
「そうだろ?」
くすくすと笑いあっていれば、妖精に体を蝕まれた克己が絶叫を上げる。喉が切れんばかりのその声に現実へと引き戻された二人は、体を揺らめかせる克己を見た。
口から止めどなく溢れる鮮血が真新しい鎧を汚していく。だらだらと血と唾液を垂れ流していた克己は、目を剥きながら肩を上下させる克己の姿は鬼気迫るものがある。
「春輝さん……は、きょ、教皇様の、ものだっ!!」
「その通り。ソレは私の大事な胚です、返してもらいましょうか」
この場に相応しくないほど真っ白で豪華な法衣を纏ったジェンツが、口元にだけ笑みを浮かべて克己の背後から姿を現した。
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