105 / 123
105 教会へ
しおりを挟む
「カツキ様も、ハルキ様に負けず劣らずのお力ですから、討伐もお一人で熟してしまうやもしれませんね」
ゆったりと微笑を浮かべたジェンツの発言はどうやら克己のお気に召したらしく、鼻を膨らませて興奮したようにキラキラとした目を向ける。
「教皇様! 腰抜けた前勇者よりもこの俺が、この世界のお役に立って見せますよ! どーんとお任せください」
「ははは、本当に今回の勇者様は頼もしい限りです。しかし、そうですね。ハルキ様のお体は未だ万全とは言い難いですし、何よりも妹君と再び引き離すのはこちらとしても忍びないのです」
眉を下げ心底、心を痛めているかのように見せるジェンツが春輝に寄せた視線は、他の人たちからは見えないだろうが、そこには隠し切れない情欲の色が見て取れた。
その視線にぞわぞわと肌がこれでもかと言うほどに粟立つ。これと肌を重ねるなど絶対にあり得たくはない。
だがジェンツは虎視眈々と、春輝の腹には既にない胚に自身の種を残そうと狙っている。その前に精霊族を全て滅ぼさねばならない。
トビアスの持つドラゴンの記憶では、精霊族の王が子をなすには特別な期間が存在するのだと言う。その期間でなければより強い後継が生まれない。
幸いにもその期間はまだまだ先。それまでに春輝の胚を成長させ安定させる為に、いちかを使い更には妖精の粉を大量に使った食事をさせているのだろうと言うのは、トビアスがした推理だ。
その期間の前に極夜が訪れるのは、春輝達にとって幸運であった。
不愉快すぎるお茶会はジェンツの登場で呆気なく終わりを告げたがしかし、春輝の苦行はこれで終わりではなかった。
教会騎士に囲まれ、ジェンツに促されるままにジェンツが乗って来た馬車に乗せられる。トビアスはそのまま離宮に留め置かれ、動く馬車の中にはジェンツと春輝の二人きりという事態に陥っていた。
向かう先は教会であることから、何か探りを入れられはしないかと考える。だが一方で、先程感じた情欲の灯るジェンツの視線から、行った先で何が待ち構えているかなど考えたくもなかった。
そんな春輝の心情などお構いなしに馬車は城門を抜け、ほど近くにある教会の総本山へどんどんと進んでいく。
教会の裏手に馬車が停まると、まるでエスコートされるように内部へと入る。荘厳な雰囲気の教会は裏側も変わらぬ景色で、神聖な空気が漂っているように見える。
勿論春輝には敵地の中枢に足を踏み入れているうえ、精霊族の本拠地であることから神聖さなど微塵も感じてはいなかった。
白石造りで統一されている教会内部には赤い絨毯がひかれていて、足音が反響することは無い。どんどんと奥に案内されながら、サイモンに聞いていた情報を思い出す。
サーシャリアが教会騎士達とのまぐわいで妖精を産み落としてから、助けることを条件にサイモンにはサーシャリアに付き従ったまま、探りを入れさせていた。
その中でサイモンは決死の覚悟で教会騎士達の後をつけ、精霊族が集う場所であろう理口を見つけていた。
そこ連れていかれるのだろうかと考えていたがしかし、招き入れられた先はどうやら教皇執務室のようだった。
「どうぞハルキ様、お掛けになってください。体にご不調はありませんか?」
既に用意されていた茶器類に素早く部屋の隅に控えていた侍従が、春輝の前にティーカップを置く。
それに口をつければ妖精の粉の味が口の中に広がった。味覚が変わってから妖精の粉は春輝にとって少量でも苦みを感じてしまい顔を顰めそうになるがそれを耐える。
「特には。最近は寧ろ以前より体が軽いくらいだ」
核を破壊する前の状態を記憶から引きずり出し、ジェンツの問診とも言える質問に答えていけば、ジェンツの笑みはどんどんと深まっていく。洗脳の成果に満足しているのだろう。
「そうですか、それはようございました。では最後に――」
対面に座っていたジェンツが立ち上がり、春輝の目元に至近距離で手を翳す。視界が覆われる寸前に見たジェンツの瞳は、いつかの時のように虹色に輝いていた。
ゆったりと微笑を浮かべたジェンツの発言はどうやら克己のお気に召したらしく、鼻を膨らませて興奮したようにキラキラとした目を向ける。
「教皇様! 腰抜けた前勇者よりもこの俺が、この世界のお役に立って見せますよ! どーんとお任せください」
「ははは、本当に今回の勇者様は頼もしい限りです。しかし、そうですね。ハルキ様のお体は未だ万全とは言い難いですし、何よりも妹君と再び引き離すのはこちらとしても忍びないのです」
眉を下げ心底、心を痛めているかのように見せるジェンツが春輝に寄せた視線は、他の人たちからは見えないだろうが、そこには隠し切れない情欲の色が見て取れた。
その視線にぞわぞわと肌がこれでもかと言うほどに粟立つ。これと肌を重ねるなど絶対にあり得たくはない。
だがジェンツは虎視眈々と、春輝の腹には既にない胚に自身の種を残そうと狙っている。その前に精霊族を全て滅ぼさねばならない。
トビアスの持つドラゴンの記憶では、精霊族の王が子をなすには特別な期間が存在するのだと言う。その期間でなければより強い後継が生まれない。
幸いにもその期間はまだまだ先。それまでに春輝の胚を成長させ安定させる為に、いちかを使い更には妖精の粉を大量に使った食事をさせているのだろうと言うのは、トビアスがした推理だ。
その期間の前に極夜が訪れるのは、春輝達にとって幸運であった。
不愉快すぎるお茶会はジェンツの登場で呆気なく終わりを告げたがしかし、春輝の苦行はこれで終わりではなかった。
教会騎士に囲まれ、ジェンツに促されるままにジェンツが乗って来た馬車に乗せられる。トビアスはそのまま離宮に留め置かれ、動く馬車の中にはジェンツと春輝の二人きりという事態に陥っていた。
向かう先は教会であることから、何か探りを入れられはしないかと考える。だが一方で、先程感じた情欲の灯るジェンツの視線から、行った先で何が待ち構えているかなど考えたくもなかった。
そんな春輝の心情などお構いなしに馬車は城門を抜け、ほど近くにある教会の総本山へどんどんと進んでいく。
教会の裏手に馬車が停まると、まるでエスコートされるように内部へと入る。荘厳な雰囲気の教会は裏側も変わらぬ景色で、神聖な空気が漂っているように見える。
勿論春輝には敵地の中枢に足を踏み入れているうえ、精霊族の本拠地であることから神聖さなど微塵も感じてはいなかった。
白石造りで統一されている教会内部には赤い絨毯がひかれていて、足音が反響することは無い。どんどんと奥に案内されながら、サイモンに聞いていた情報を思い出す。
サーシャリアが教会騎士達とのまぐわいで妖精を産み落としてから、助けることを条件にサイモンにはサーシャリアに付き従ったまま、探りを入れさせていた。
その中でサイモンは決死の覚悟で教会騎士達の後をつけ、精霊族が集う場所であろう理口を見つけていた。
そこ連れていかれるのだろうかと考えていたがしかし、招き入れられた先はどうやら教皇執務室のようだった。
「どうぞハルキ様、お掛けになってください。体にご不調はありませんか?」
既に用意されていた茶器類に素早く部屋の隅に控えていた侍従が、春輝の前にティーカップを置く。
それに口をつければ妖精の粉の味が口の中に広がった。味覚が変わってから妖精の粉は春輝にとって少量でも苦みを感じてしまい顔を顰めそうになるがそれを耐える。
「特には。最近は寧ろ以前より体が軽いくらいだ」
核を破壊する前の状態を記憶から引きずり出し、ジェンツの問診とも言える質問に答えていけば、ジェンツの笑みはどんどんと深まっていく。洗脳の成果に満足しているのだろう。
「そうですか、それはようございました。では最後に――」
対面に座っていたジェンツが立ち上がり、春輝の目元に至近距離で手を翳す。視界が覆われる寸前に見たジェンツの瞳は、いつかの時のように虹色に輝いていた。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
346
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる