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103 歪なお茶会
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図々しくも席に着いたサーシャリアは、久しくその姿を見ていなかったが特段、変わりがあるようには思えなかった。
精霊族によって今や妖精を産み出す為の胚になっているはずだが、言動も何もかも普通に見えるのだ。
サイモンから聞いていた記憶では、妖精の粉を吸っていたようなのだが、オーバンのようにおかしなところはない。
違和感しか感じられない春輝を他所に、サーシャリアは引き連れてきていたメイド達に指示を出し、持って来た真新しい菓子類をテーブルに並べさせる。
それを横目にしながら、春輝は自然体に見えるようにけれども最大限の警戒をしていた。それは背後に控えるトビアスも同じだった。
春輝が反応をみせずとも、テーブルを囲む者達だけで会話は弾んでいく。
目の前の光景が歪んで見える。いちかを毛嫌いし排除しようとしていたサーシャリア。それに笑顔で、まるで懐いているかのように楽しげに会話をするいちか。
その様子に、やはり目の前の妹がいちかの紛い物であるのだと改めて実感し、怒りが湧き上がる。
全てを今この場で焼き払ってしまいたい衝動が奥底で燻るが、ぽんとトビアスに肩を叩かれ意識をそれから逸らした。
荒ぶるものを鎮めるように、深く、しかし気がつかれないように詰めていた息を吐き出す。うさぎのぬいぐるみを抱く腕に力を入れ、縋るかのように飾られたブローチを握りしめる。
ふわりと流れ込んだガベルトゥスの魔力に、幾分か落ち着きを取り戻した春輝は、目の前に不意に差し出された皿に意識を移した。
「お兄ちゃん、美味しいよ! 一緒に食べよう?」
にこにこと可愛らしさを振り撒く目の前の異物が、ザラリと心をヤスリで撫で上げたが春輝は更に強くブローチを握り込むことで耐えた。
サーシャリアが持ち込んだ物など何が入っているかわからない。そんな物を口に入れたくは無かったが、洗脳されている状態で、尚且つ妹からの誘いを断るなんて、あり得ない行動を取れるわけもなく――
「……あぁ、そうだな。ありがとう」
置かれた皿の上に乗せられた綺麗なケーキに、春輝はフォークを刺した。
爛々と期待に輝くいちかの目は、光に反射し一瞬赤から緑に色味を変る。
その色は妖精の色だ。それだけでどうして死んだはずのいちがが蘇ったのか嫌でも分かってしまう。
どのようにしていちかを操っているのか分からないが、緑に光るそれは見間違いようもなくあの妖精の色だった。
小さく切り取ったケーキを、一瞬躊躇った後に口に入れる。口内で広がる味は美味しいと錯覚しそうになるが、じゃりじゃりと砂を嚙むようなザラつきには覚えがありすぎた。
間違いなく、サーシャリアが持ち込んだ物には、妖精の粉が使われている。それもふんだんに。
「うわぁ、こんな美味しいもの元の世界でも食べたことないです! 流石に王族ってなると食べるものが違うんだなぁ」
「勇者のお兄ちゃん気に入ったの? じゃぁこれもどうぞ」
「えぇいいのかな?」
「いいんだよー!」
対面に座る克己は、いちかやサーシャリアに勧められるままにどんどんとその腹に食べ物を収めていく。
よくよく見ていれば、いちかもサーシャリアもテーブルに用意された物を一切口にしていない。
妖精の粉を自ら口に入れている行為に、吐き気を催すが春輝は必死に耐えた。既に体をドラゴンへと作り変えている春輝には、妖精の粉など細胞単位で拒否反応が出てしまうのだ。
冷や汗を背中にだらだらと流しながら、何とか小さな欠片を咀嚼し飲み下す。その様子はしっかりといちかとサーシャリアに見られていた。
何も警戒心を抱きもせず、へらへらと談笑する新たな勇者克己は、段々と瞳の輝きを鈍くしていくのがわかり、春輝は顔を僅かに顰めた。
「そうだ、これ見てくださいよ春輝さん! 俺の聖剣なんですけど」
徐に立ち上がり、腰に下げていた聖剣を鞘から抜いた克己は、その刀身を翳してうっとりとしたように見つめている。
刀身を見る目は更に濁るように色を深めていて、洗脳が着実に進んでいるのが明らかだった。
精霊族によって今や妖精を産み出す為の胚になっているはずだが、言動も何もかも普通に見えるのだ。
サイモンから聞いていた記憶では、妖精の粉を吸っていたようなのだが、オーバンのようにおかしなところはない。
違和感しか感じられない春輝を他所に、サーシャリアは引き連れてきていたメイド達に指示を出し、持って来た真新しい菓子類をテーブルに並べさせる。
それを横目にしながら、春輝は自然体に見えるようにけれども最大限の警戒をしていた。それは背後に控えるトビアスも同じだった。
春輝が反応をみせずとも、テーブルを囲む者達だけで会話は弾んでいく。
目の前の光景が歪んで見える。いちかを毛嫌いし排除しようとしていたサーシャリア。それに笑顔で、まるで懐いているかのように楽しげに会話をするいちか。
その様子に、やはり目の前の妹がいちかの紛い物であるのだと改めて実感し、怒りが湧き上がる。
全てを今この場で焼き払ってしまいたい衝動が奥底で燻るが、ぽんとトビアスに肩を叩かれ意識をそれから逸らした。
荒ぶるものを鎮めるように、深く、しかし気がつかれないように詰めていた息を吐き出す。うさぎのぬいぐるみを抱く腕に力を入れ、縋るかのように飾られたブローチを握りしめる。
ふわりと流れ込んだガベルトゥスの魔力に、幾分か落ち着きを取り戻した春輝は、目の前に不意に差し出された皿に意識を移した。
「お兄ちゃん、美味しいよ! 一緒に食べよう?」
にこにこと可愛らしさを振り撒く目の前の異物が、ザラリと心をヤスリで撫で上げたが春輝は更に強くブローチを握り込むことで耐えた。
サーシャリアが持ち込んだ物など何が入っているかわからない。そんな物を口に入れたくは無かったが、洗脳されている状態で、尚且つ妹からの誘いを断るなんて、あり得ない行動を取れるわけもなく――
「……あぁ、そうだな。ありがとう」
置かれた皿の上に乗せられた綺麗なケーキに、春輝はフォークを刺した。
爛々と期待に輝くいちかの目は、光に反射し一瞬赤から緑に色味を変る。
その色は妖精の色だ。それだけでどうして死んだはずのいちがが蘇ったのか嫌でも分かってしまう。
どのようにしていちかを操っているのか分からないが、緑に光るそれは見間違いようもなくあの妖精の色だった。
小さく切り取ったケーキを、一瞬躊躇った後に口に入れる。口内で広がる味は美味しいと錯覚しそうになるが、じゃりじゃりと砂を嚙むようなザラつきには覚えがありすぎた。
間違いなく、サーシャリアが持ち込んだ物には、妖精の粉が使われている。それもふんだんに。
「うわぁ、こんな美味しいもの元の世界でも食べたことないです! 流石に王族ってなると食べるものが違うんだなぁ」
「勇者のお兄ちゃん気に入ったの? じゃぁこれもどうぞ」
「えぇいいのかな?」
「いいんだよー!」
対面に座る克己は、いちかやサーシャリアに勧められるままにどんどんとその腹に食べ物を収めていく。
よくよく見ていれば、いちかもサーシャリアもテーブルに用意された物を一切口にしていない。
妖精の粉を自ら口に入れている行為に、吐き気を催すが春輝は必死に耐えた。既に体をドラゴンへと作り変えている春輝には、妖精の粉など細胞単位で拒否反応が出てしまうのだ。
冷や汗を背中にだらだらと流しながら、何とか小さな欠片を咀嚼し飲み下す。その様子はしっかりといちかとサーシャリアに見られていた。
何も警戒心を抱きもせず、へらへらと談笑する新たな勇者克己は、段々と瞳の輝きを鈍くしていくのがわかり、春輝は顔を僅かに顰めた。
「そうだ、これ見てくださいよ春輝さん! 俺の聖剣なんですけど」
徐に立ち上がり、腰に下げていた聖剣を鞘から抜いた克己は、その刀身を翳してうっとりとしたように見つめている。
刀身を見る目は更に濁るように色を深めていて、洗脳が着実に進んでいるのが明らかだった。
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