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翌日、昼過ぎにゆっくりと起きた春輝は清々しい気分で目が覚めた。
自身の中に渦巻くドラゴンの魔力はすっかりと馴染み、精霊族の魔力のような不快感はどこにもなく、絶えず感じていた不調も綺麗さっぱりと消え去り体が驚くほど軽く感じる。
「ハルキ殿、お目覚めですか」
窺うようにして姿を現したトビアスに、春輝は万全であるとわからせるようにニンマリと深めた笑みを向けた。
先輩であるトビアスに力の制御などを聞きながら、身支度を整える。年甲斐もなく、ドラゴンと言う種族になったことに高揚感が沸き上がっていた。それは自身が勇者であると言われた時よりも正反対のものだ。
自らの力がどれ程の物なのか、姿は変えられるのかとアレコレと試したくてうずうずとしてしまうが、今この場では力を使うことができず、春輝は歯がゆさを感じていた。
まるで浮足立つような気分であった春輝だが、離宮の近くに近寄る気配を感じ取りその気分は一気に急降下した。
「あぁそうだった、新しい勇者と約束してたな」
面倒な状況に辟易していれば、克己の気配とは別にいちかの気配も感じ取り春輝は眉間に深い谷を作った。
「トビアス、いつものように外に用意してくれ。この中に異物を入れたくない」
どこか嬉しそうにしながら準備に向かったトビアスが部屋を出れば、部屋には春輝一人だけになる。
静まり返った部屋の中でふと、血で汚したであろう絨毯が綺麗にされていことに気が付いた。
春輝に気を失っている間に整えられたのだろう室内に感心しつつ、椅子の背に掛けられていたジャケットに袖を通す。
最後にベッドに置いたままになっていたうさぎのぬいぐるみを手に持った。その拍子にまるで気落ちする春輝を鼓舞するように、キラリとブローチが光る。
その赤い光に春輝は寂しさを覚えた。そっと触れた場所から僅かに感じる封じられたガベルトゥスの魔力が恋しさを募らせる。
あの日以来、当然ながら春輝はガベルトゥスの姿を見てはいないし、夢に渡ってくることすらなかった。
あの洗脳具合からしてそれも出来なかったのだろうとは思うが、これほどまでに寂しさを覚えてしまうのは、一緒に過ごし体を重ねた期間があった故だろう。
縋る物が一切消えてしまった今、春輝にはガベルトゥスしかいないのだ。その存在がすぐそばに居ないというのは、どうにも落ち着きはしなかった。
晴れ渡り心地の良い風が木々をさわさわと揺らす中、東屋に整えられたテーブルを春輝といちか、そして新たに召喚された勇者が取り囲んでいた。
いつもならば、いちかを膝の上かすぐ側に座らせるが、いちかに似た何かの近くに座ることは躊躇われた。
「お兄ちゃん凄いね、勇者が二人だなんて!」
きらきらとした可愛らしい笑顔を見せるいちかだが、今ではそれが悍ましい物に見えて仕方がない。だが洗脳が解けていないと気が付かせない為に、春輝は無理やり笑顔を作る。
「異世界転移なんて本当にあるんですね、でも俺一人じゃなくてよかった。だってほら、知らない世界に一人だなんて、流石に怖いじゃないですか!」
「いちかは怖くなかったよ?」
「そりゃ、いちかちゃんはお兄ちゃんの春輝さんと一緒だったからだろう?」
「んー? そうかも!」
「ところで春輝さん、魔王ってどんな感じなんですか?」
「……どんな?」
二人の話をあまり聞かないようにしていた春輝は、唐突に話を振られて意識を向ける。
「ほら、見た目とか! 強さとか! RPGとかアニメとかみたいな感じの、いかにも魔王です! って感じですか? 魔族も居るんですよね?」
僅かに身を乗り出し、嬉々として聞いてくる克己に春輝は内心辟易とした。どうやら目の前の新たな勇者は、人身の勇者と言う肩書を大層気に入っているようなのだ。
これは果たして核による洗脳の成果なのか、はたまた元々の気質なのか。もしくはその両方なのかもしれないが、克己の物言いに春輝は呆れるしかなかった。
きっと彼の中では、元の世界で見たようなおとぎ話が脳内で繰り広げられているのだろう。
現実と物語は全くの別物だと言うことを理解しているとはとても思えなかった。
「よかったら討伐の時のこと、聞かせてくださいよ! リアルな話を聞けて、それをこの先俺も体験するだなんてテンションが上がって寝られないです」
わくわくとした様子で見つめられれば、克己の隣に座るいちかからも似たような視線を向けられる。
だが春輝が討伐遠征で思い出せる出来事と言えば、騎士達に向けられる冷たい目線と、野蛮な騎士達と、ガベルトゥスとの死闘だけだ。
そのどれもが目の前の勇者に話したところで、全てただの美談に変換されるのだろう。そんなわかりきったことを話すつもりはなかった。
春輝が重い口を閉ざして居れば、遠くの方から嫌な気配がやってくるのに気が付いた。
「あら、素敵なお茶会ね。私もご一緒していいかしら?」
暫くして聞こえてきた妖艶な声音の先に視線を向ければ、そこにはサイモンや他の護衛を引き連れたサーシャリアが優雅に佇んでいた。
自身の中に渦巻くドラゴンの魔力はすっかりと馴染み、精霊族の魔力のような不快感はどこにもなく、絶えず感じていた不調も綺麗さっぱりと消え去り体が驚くほど軽く感じる。
「ハルキ殿、お目覚めですか」
窺うようにして姿を現したトビアスに、春輝は万全であるとわからせるようにニンマリと深めた笑みを向けた。
先輩であるトビアスに力の制御などを聞きながら、身支度を整える。年甲斐もなく、ドラゴンと言う種族になったことに高揚感が沸き上がっていた。それは自身が勇者であると言われた時よりも正反対のものだ。
自らの力がどれ程の物なのか、姿は変えられるのかとアレコレと試したくてうずうずとしてしまうが、今この場では力を使うことができず、春輝は歯がゆさを感じていた。
まるで浮足立つような気分であった春輝だが、離宮の近くに近寄る気配を感じ取りその気分は一気に急降下した。
「あぁそうだった、新しい勇者と約束してたな」
面倒な状況に辟易していれば、克己の気配とは別にいちかの気配も感じ取り春輝は眉間に深い谷を作った。
「トビアス、いつものように外に用意してくれ。この中に異物を入れたくない」
どこか嬉しそうにしながら準備に向かったトビアスが部屋を出れば、部屋には春輝一人だけになる。
静まり返った部屋の中でふと、血で汚したであろう絨毯が綺麗にされていことに気が付いた。
春輝に気を失っている間に整えられたのだろう室内に感心しつつ、椅子の背に掛けられていたジャケットに袖を通す。
最後にベッドに置いたままになっていたうさぎのぬいぐるみを手に持った。その拍子にまるで気落ちする春輝を鼓舞するように、キラリとブローチが光る。
その赤い光に春輝は寂しさを覚えた。そっと触れた場所から僅かに感じる封じられたガベルトゥスの魔力が恋しさを募らせる。
あの日以来、当然ながら春輝はガベルトゥスの姿を見てはいないし、夢に渡ってくることすらなかった。
あの洗脳具合からしてそれも出来なかったのだろうとは思うが、これほどまでに寂しさを覚えてしまうのは、一緒に過ごし体を重ねた期間があった故だろう。
縋る物が一切消えてしまった今、春輝にはガベルトゥスしかいないのだ。その存在がすぐそばに居ないというのは、どうにも落ち着きはしなかった。
晴れ渡り心地の良い風が木々をさわさわと揺らす中、東屋に整えられたテーブルを春輝といちか、そして新たに召喚された勇者が取り囲んでいた。
いつもならば、いちかを膝の上かすぐ側に座らせるが、いちかに似た何かの近くに座ることは躊躇われた。
「お兄ちゃん凄いね、勇者が二人だなんて!」
きらきらとした可愛らしい笑顔を見せるいちかだが、今ではそれが悍ましい物に見えて仕方がない。だが洗脳が解けていないと気が付かせない為に、春輝は無理やり笑顔を作る。
「異世界転移なんて本当にあるんですね、でも俺一人じゃなくてよかった。だってほら、知らない世界に一人だなんて、流石に怖いじゃないですか!」
「いちかは怖くなかったよ?」
「そりゃ、いちかちゃんはお兄ちゃんの春輝さんと一緒だったからだろう?」
「んー? そうかも!」
「ところで春輝さん、魔王ってどんな感じなんですか?」
「……どんな?」
二人の話をあまり聞かないようにしていた春輝は、唐突に話を振られて意識を向ける。
「ほら、見た目とか! 強さとか! RPGとかアニメとかみたいな感じの、いかにも魔王です! って感じですか? 魔族も居るんですよね?」
僅かに身を乗り出し、嬉々として聞いてくる克己に春輝は内心辟易とした。どうやら目の前の新たな勇者は、人身の勇者と言う肩書を大層気に入っているようなのだ。
これは果たして核による洗脳の成果なのか、はたまた元々の気質なのか。もしくはその両方なのかもしれないが、克己の物言いに春輝は呆れるしかなかった。
きっと彼の中では、元の世界で見たようなおとぎ話が脳内で繰り広げられているのだろう。
現実と物語は全くの別物だと言うことを理解しているとはとても思えなかった。
「よかったら討伐の時のこと、聞かせてくださいよ! リアルな話を聞けて、それをこの先俺も体験するだなんてテンションが上がって寝られないです」
わくわくとした様子で見つめられれば、克己の隣に座るいちかからも似たような視線を向けられる。
だが春輝が討伐遠征で思い出せる出来事と言えば、騎士達に向けられる冷たい目線と、野蛮な騎士達と、ガベルトゥスとの死闘だけだ。
そのどれもが目の前の勇者に話したところで、全てただの美談に変換されるのだろう。そんなわかりきったことを話すつもりはなかった。
春輝が重い口を閉ざして居れば、遠くの方から嫌な気配がやってくるのに気が付いた。
「あら、素敵なお茶会ね。私もご一緒していいかしら?」
暫くして聞こえてきた妖艶な声音の先に視線を向ければ、そこにはサイモンや他の護衛を引き連れたサーシャリアが優雅に佇んでいた。
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