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85 教会での衝撃
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教会で行われる行事があったのはそれから数日たった頃だった。正装に身を包み、春輝達は朝早くから教会へと向かっていた。
気分は最悪以外の何物でもないが、春輝は菓子を食べながら気分を落ち着ける。あれからサイモンは度々春輝の元へ妖精と言う名の虫と、情報を持ってきていた。
今や瓶の中身は悍ましいほどの数の妖精が入っている。カサカサと不快な羽音を消すために、衣裳部屋の奥深くに分厚い毛布で包み置いていた。
どうやらサーシャリアはあれから何度も虫を産み、更には妖精の粉まで使い出したようだった。そしてサイモンが齎したもっともな情報は、この国の王であるアデラアールもまたサーシャリアと同じように妖精の粉を吸っていると言うことだった。
この国の頂点はこれで人間だったと言うことがわかった。精霊族であれば粉を摂取する必要性はどこにもないからだ。
そして夜な夜な忍び込む教会騎士達が、一体どこから王宮へと侵入してくるのかを突き止めたのもサイモンだった。
隠し通路はトゥーラが調べ、既に王宮から地下を通り教会へと繋がっていることがわかっている。そんなトゥーラは他の通路を調べている最中で今この場には居ない。
石畳の上をガタガタと馬車に揺られながら教会に到着すれば、すぐに教会騎士が春輝達の乗る馬車へと近寄って来た。
「領地にも来ていた騎士達です」
「やっぱり今日なにかあると思うか?」
「そう考えていいだろうな。ハルキ気を付けろよ」
教会騎士達に先導され向かった先は大きな聖堂だ。見上げる程高く吹き抜けた天井に、大きなステンドグラスがあちらこちらでキラキラと輝き、多彩な色で冷たい石の床を照らしていた。
神とされる石造が最奥に置かれ、集まった人々はそれに祈りを捧げていた。壮大な音を奏でる楽団がこの場の雰囲気を更に神聖なものであるような雰囲気を醸し出させている。
石造を見たトビアスがなにやら口元を抑えているのが気になった春輝は、案内されたボックス席に腰を下ろすとトビアスに視線を向ける。
「なにか楽しいことでもあるのか?」
春輝とガベルトゥスの後ろに控えたトビアスは、周囲に聞かれないように声を潜める。
「あの石造のことなのですが、あれは神ではありません。かつての精霊王です」
「へぇ、あれが?」
「で、お前はなんで笑ってたんだ?」
「宗教として少しずつ人間をそれとは知らずに精霊王を信仰の対象させているのは凄いと思うのですが……ふふ、その年月を思うと図分と精霊族は気長だなと思いまして」
数を大量に増やせない精霊族が果てしない時間をかけて少しずつ人間達の中に潜り込み、こうして地道に崇拝対象を自分達のかつての王にするとは。どうやらトビアスはその地道な努力がおかしいらしかった。
「確かにそう考えると難儀な種族だな?」
「姿かたちは虫だしな」
「だがそうだな……それを聞くとこの国だけにこの神が崇められているというのはわかりやすいな」
「そうですね、他国は別の神かそもそも無宗教の所もありますから」
ガベルトゥスはふむと顎に手を当てながら、石造に視線を向ける。この国で根深く信仰対象として根付いているこの神とされる精霊王が、もし今この場に現れたとしたら。
人々はそれこそ神の降臨と崇めるのではないだろうか。宗教は時として手ごわい。ただでさえこの国の人々は勇者に対して並々ならぬ思いがある。そこに神たる者が現れたらどうなるだろうか。
ガベルトゥスは痛むこめかみを指圧した。最終的には全てを破壊するつもりでその準備も整ってはいるが、へたな暴動など起きるのは面倒ごとが増えるだけだ。
ガベルトゥスが深く溜息を吐いていれば、演奏されていた曲が鳴り止み教皇ジェンツが現れた。
粛々と進む行事は興味が全くないガベルトゥス達にとっては退屈で仕方がない。春輝は日ごろ寝ている時間であるために、うつらうつらとし始めている。
きっちりと着込まれている春輝の服だが、頭を傾ければ男にしてみれば細い首が姿を見せる。その隙間からガベルトゥスが付けた所有印が覗くのだ。
そこに触れようと手を伸ばそうとしたその時、春輝が息を呑んだのがわかった。視線を辿った先に見えたのは、祭壇の前に立つジェンツの横に並ぶように立った小さな少女。
「ハルキ、あれは……」
ガベルトゥスの問に、春輝は微動だにしない。まるで縫い付けられたように、視線は祭壇の前の少女に注がれている。
「いちか……」
春輝はそのままガベルトゥスが掴もうとした手をすり抜け、祭壇の前へと走り出した。
気分は最悪以外の何物でもないが、春輝は菓子を食べながら気分を落ち着ける。あれからサイモンは度々春輝の元へ妖精と言う名の虫と、情報を持ってきていた。
今や瓶の中身は悍ましいほどの数の妖精が入っている。カサカサと不快な羽音を消すために、衣裳部屋の奥深くに分厚い毛布で包み置いていた。
どうやらサーシャリアはあれから何度も虫を産み、更には妖精の粉まで使い出したようだった。そしてサイモンが齎したもっともな情報は、この国の王であるアデラアールもまたサーシャリアと同じように妖精の粉を吸っていると言うことだった。
この国の頂点はこれで人間だったと言うことがわかった。精霊族であれば粉を摂取する必要性はどこにもないからだ。
そして夜な夜な忍び込む教会騎士達が、一体どこから王宮へと侵入してくるのかを突き止めたのもサイモンだった。
隠し通路はトゥーラが調べ、既に王宮から地下を通り教会へと繋がっていることがわかっている。そんなトゥーラは他の通路を調べている最中で今この場には居ない。
石畳の上をガタガタと馬車に揺られながら教会に到着すれば、すぐに教会騎士が春輝達の乗る馬車へと近寄って来た。
「領地にも来ていた騎士達です」
「やっぱり今日なにかあると思うか?」
「そう考えていいだろうな。ハルキ気を付けろよ」
教会騎士達に先導され向かった先は大きな聖堂だ。見上げる程高く吹き抜けた天井に、大きなステンドグラスがあちらこちらでキラキラと輝き、多彩な色で冷たい石の床を照らしていた。
神とされる石造が最奥に置かれ、集まった人々はそれに祈りを捧げていた。壮大な音を奏でる楽団がこの場の雰囲気を更に神聖なものであるような雰囲気を醸し出させている。
石造を見たトビアスがなにやら口元を抑えているのが気になった春輝は、案内されたボックス席に腰を下ろすとトビアスに視線を向ける。
「なにか楽しいことでもあるのか?」
春輝とガベルトゥスの後ろに控えたトビアスは、周囲に聞かれないように声を潜める。
「あの石造のことなのですが、あれは神ではありません。かつての精霊王です」
「へぇ、あれが?」
「で、お前はなんで笑ってたんだ?」
「宗教として少しずつ人間をそれとは知らずに精霊王を信仰の対象させているのは凄いと思うのですが……ふふ、その年月を思うと図分と精霊族は気長だなと思いまして」
数を大量に増やせない精霊族が果てしない時間をかけて少しずつ人間達の中に潜り込み、こうして地道に崇拝対象を自分達のかつての王にするとは。どうやらトビアスはその地道な努力がおかしいらしかった。
「確かにそう考えると難儀な種族だな?」
「姿かたちは虫だしな」
「だがそうだな……それを聞くとこの国だけにこの神が崇められているというのはわかりやすいな」
「そうですね、他国は別の神かそもそも無宗教の所もありますから」
ガベルトゥスはふむと顎に手を当てながら、石造に視線を向ける。この国で根深く信仰対象として根付いているこの神とされる精霊王が、もし今この場に現れたとしたら。
人々はそれこそ神の降臨と崇めるのではないだろうか。宗教は時として手ごわい。ただでさえこの国の人々は勇者に対して並々ならぬ思いがある。そこに神たる者が現れたらどうなるだろうか。
ガベルトゥスは痛むこめかみを指圧した。最終的には全てを破壊するつもりでその準備も整ってはいるが、へたな暴動など起きるのは面倒ごとが増えるだけだ。
ガベルトゥスが深く溜息を吐いていれば、演奏されていた曲が鳴り止み教皇ジェンツが現れた。
粛々と進む行事は興味が全くないガベルトゥス達にとっては退屈で仕方がない。春輝は日ごろ寝ている時間であるために、うつらうつらとし始めている。
きっちりと着込まれている春輝の服だが、頭を傾ければ男にしてみれば細い首が姿を見せる。その隙間からガベルトゥスが付けた所有印が覗くのだ。
そこに触れようと手を伸ばそうとしたその時、春輝が息を呑んだのがわかった。視線を辿った先に見えたのは、祭壇の前に立つジェンツの横に並ぶように立った小さな少女。
「ハルキ、あれは……」
ガベルトゥスの問に、春輝は微動だにしない。まるで縫い付けられたように、視線は祭壇の前の少女に注がれている。
「いちか……」
春輝はそのままガベルトゥスが掴もうとした手をすり抜け、祭壇の前へと走り出した。
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