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80 離宮にて
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建国の記念式典は小さな行事が二か月間行われ、最終日を盛大に祝うと言う物だ。その期間の前後は王都にある貴族街では様々な催しが贅を凝らして行われ、この国の社交期間でもあった。
今回の建国の記念式典は勇者が出席すると事前に知らされており、普段参加しないような地方の貴族達も王都へと足を運んでいる。
王都の街へと入れば街はお祭り気分一色と言った風で、どこもかしこも活気に溢れていた。
笑顔や笑い声が溢れかえる王都の中を馬車で進む中であっても、春輝もガベルトゥスも何も知らない人々を哀れに思うことはあれど、それ以外の感情はまるでない。
滞在用に与えられた離宮はやはりと言えばよいのか、敵だらけのようだった。トビアスは従者として連れているので問題なかったが、ガベルトゥスはこの離宮へ滞在することを侍従長に渋られはしたが、押し切った。
食事には相変わらず妖精の粉が混ぜられ、全て食べられているかどうかのチェックをされる。
清掃後に部屋に焚かれる香も、どうやら妖精の粉を燃やした物のようだった。
「あちらさんも最終仕上げに入った、と考えていいだろうな。そのための呼び出しか」
「はぁ……息が詰まる」
「私達の食事にも入れられていますね……我々もオーバンのようにするつもりなのでしょうか」
「そうだろうなぁ。最終日まではあちらさんも大きく動くことは無いとは思うが、ハルキの側に居る俺達は邪魔であろうよ」
いちかが殺されたように、ガベルトゥスやトビアスもまた敵側からすれば目障りでしかなく、排除対象になってしまうのも頷ける。
違いがあるとすればいちかには力がなく、ガベルトゥスとトビアスには力があると言うことだ。妖精の粉に気づかないままだったならば彼らもまた洗脳され殺されているし、春輝は疾うに精霊族を産まされていたかもしれない。
そんなことを考えながら、春輝が水差しから水を飲もうとグラスに注ごうとすれば、トビアスに制された。
「ハルキ殿、飲んではいけませんよ。確認してからでなければ」
トビアスは水差しの臭いを嗅ぐと眉根を寄せて首を振った。
「水もまともに飲めないのかよ……」
「少量でしょうが、僅かに妖精の粉の香りがします。ただ……」
考えるように言いよどんだトビアスに、部屋の中にいた全員の視線が集まる。
「粉ではなく、液体にしたものかもしれません」
「ほう? ここに来て新しい物を入れてくるとはな」
「領地で出されていた食事は量が増えたせいもあるのでしょうが、砂のように残っていました。水に溶かせるとは思いませんので」
「街で食べれば大丈夫か?」
「それは無理だろう。ハルキお前は勇者だぞ? 国民の英雄がおいそれと毎回街で食事なんて、不審がられるだけだろうが。たまになら良いだろうが、姿を上手く隠さないと取り囲まれるだろうよ」
「はぁ……自由は無いのか」
疲れたように春輝が言葉を零せば、ガベルトゥスは春輝の耳元に口を寄せてきた。
「夜にデートでもしてやろうか、勇者様」
「昼間よりましならそれでいい。でも寝てないのがバレたらマズいだろうが」
すっかりとそのことを忘れていたのだろうガベルトゥスは、むっと言葉を詰まらせ顎に手を当てる。
するとトゥーラが銀のトレーに乗せた手紙を持ってきた。それはこの王都にやってきてから、春輝宛に届けられた貴族からの茶会や夜会への招待状だった。
「これのどれかに参加するふりをして、途中で街に出かけては? 一、二回程度しかこの手は使えないでしょうけれど」
トゥーラの考えに賛同したガベルトゥスは、まるで遠足を喜ぶ子供のように嬉々とした表情を見せる。
春輝自身のための物のはずだが、当の春輝より楽しそうなのはなぜなのか。呆れるような視線をガベルトゥスに向けながらも、春輝自身もつかの間の息抜きができそうでほっとしたのだった。
今回の建国の記念式典は勇者が出席すると事前に知らされており、普段参加しないような地方の貴族達も王都へと足を運んでいる。
王都の街へと入れば街はお祭り気分一色と言った風で、どこもかしこも活気に溢れていた。
笑顔や笑い声が溢れかえる王都の中を馬車で進む中であっても、春輝もガベルトゥスも何も知らない人々を哀れに思うことはあれど、それ以外の感情はまるでない。
滞在用に与えられた離宮はやはりと言えばよいのか、敵だらけのようだった。トビアスは従者として連れているので問題なかったが、ガベルトゥスはこの離宮へ滞在することを侍従長に渋られはしたが、押し切った。
食事には相変わらず妖精の粉が混ぜられ、全て食べられているかどうかのチェックをされる。
清掃後に部屋に焚かれる香も、どうやら妖精の粉を燃やした物のようだった。
「あちらさんも最終仕上げに入った、と考えていいだろうな。そのための呼び出しか」
「はぁ……息が詰まる」
「私達の食事にも入れられていますね……我々もオーバンのようにするつもりなのでしょうか」
「そうだろうなぁ。最終日まではあちらさんも大きく動くことは無いとは思うが、ハルキの側に居る俺達は邪魔であろうよ」
いちかが殺されたように、ガベルトゥスやトビアスもまた敵側からすれば目障りでしかなく、排除対象になってしまうのも頷ける。
違いがあるとすればいちかには力がなく、ガベルトゥスとトビアスには力があると言うことだ。妖精の粉に気づかないままだったならば彼らもまた洗脳され殺されているし、春輝は疾うに精霊族を産まされていたかもしれない。
そんなことを考えながら、春輝が水差しから水を飲もうとグラスに注ごうとすれば、トビアスに制された。
「ハルキ殿、飲んではいけませんよ。確認してからでなければ」
トビアスは水差しの臭いを嗅ぐと眉根を寄せて首を振った。
「水もまともに飲めないのかよ……」
「少量でしょうが、僅かに妖精の粉の香りがします。ただ……」
考えるように言いよどんだトビアスに、部屋の中にいた全員の視線が集まる。
「粉ではなく、液体にしたものかもしれません」
「ほう? ここに来て新しい物を入れてくるとはな」
「領地で出されていた食事は量が増えたせいもあるのでしょうが、砂のように残っていました。水に溶かせるとは思いませんので」
「街で食べれば大丈夫か?」
「それは無理だろう。ハルキお前は勇者だぞ? 国民の英雄がおいそれと毎回街で食事なんて、不審がられるだけだろうが。たまになら良いだろうが、姿を上手く隠さないと取り囲まれるだろうよ」
「はぁ……自由は無いのか」
疲れたように春輝が言葉を零せば、ガベルトゥスは春輝の耳元に口を寄せてきた。
「夜にデートでもしてやろうか、勇者様」
「昼間よりましならそれでいい。でも寝てないのがバレたらマズいだろうが」
すっかりとそのことを忘れていたのだろうガベルトゥスは、むっと言葉を詰まらせ顎に手を当てる。
するとトゥーラが銀のトレーに乗せた手紙を持ってきた。それはこの王都にやってきてから、春輝宛に届けられた貴族からの茶会や夜会への招待状だった。
「これのどれかに参加するふりをして、途中で街に出かけては? 一、二回程度しかこの手は使えないでしょうけれど」
トゥーラの考えに賛同したガベルトゥスは、まるで遠足を喜ぶ子供のように嬉々とした表情を見せる。
春輝自身のための物のはずだが、当の春輝より楽しそうなのはなぜなのか。呆れるような視線をガベルトゥスに向けながらも、春輝自身もつかの間の息抜きができそうでほっとしたのだった。
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