【完結】かつて勇者だった者

関鷹親

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79 王都へ

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 領地の屋敷にある繭と妖精を全て焼き尽くした春輝達は、怪しまれないようにトゥーラの配下を屋敷に置き、領地を後にした。

「やめろ、昼間だぞ」
「密室に二人きりだぞ? 少しくらい良いだろう」

 体を弄り服の下へと潜り込ませようとしてくる手を、春輝は叩き落とすとガベルトゥスと距離を取るように座席を反対側へと移動する。

「つれないなぁ」

 意地悪く笑うガベルトゥスの足を蹴った春輝は、窓から空を見た。日の光に目を細めれば、点にしか見えないかったものが、猛スピードで大きくなっていく。強大なドラゴンが姿を見せれば春輝は笑みを浮かべた。
 トビアスは領地から出る直前、ドラゴンの姿へと変わることができるようになったのだ。その姿は大きく、漆黒の鱗が煌めき背からは大きな翼が生えていて、おとぎ話に出てくる姿そのものだ。
 羽だけを残し滑空してきたトビアスは、馬車に急速に近づく。

「調子はどうだトビアス」
「良好です陛下。これなら心置きなく暴れられますよ」

 その頼もしい発言に、ガベルトゥスは鷹揚に頷くと、走る馬車の扉を開ける。並走していたトビアスは、羽を消すと器用に中へと入った。

「さて、王都に着いたらまずやらねばならないことはなんだ春輝」
「結界を壊すことだろう? でないと援軍が入れないからな」
「その通りだ。トビアス、あの結界の大元はわかるか?」

 春輝の隣に腰を下ろしたトビアスは、記憶を辿るように目を伏せる。

「王宮の地下深くでしょう。あの場所は元々精霊族の城があった場所ですから」
「教会じゃないのか?」

 精霊族は今のところジェンツの周りばかりだ。それに加えアルバロの部屋にあった手紙類にも王家が精霊族と言うような文言はどこにもなかった。
 そう言ったことから春輝は、結界の大元が精霊族の本境地であろう教会のどこかだとばかり思っていたのだ。

「あの結界は精霊族が滅んでから百八十年ほど経ってからできました。あれほどの物を生き残りだけで一から作り上げるのは無理です。であれば、元々の物が残っていたと考えた方が良い。そうなると、彼らの城がかつてあった場所にある、と考えるべきかと。上物は人間達が作り上げた物ですし、となれば残るは」
「地下ってことか、なるほどな。だけどそう簡単に地下へは行けないだろう? 入り口もわからないわけだし?」

 春輝の問に流石にそこまでの記憶は無いトビアスは、困った様に頷いた。ふむと手を口元に当て考え込むと、春輝はやはりこれしかないだろうと口を開く。

「俺が探りを入れた方が一番確実だと思うけど、どうだ?」
「力がないお前がか?」

 途端に不機嫌そうにガベルトゥスが言葉を投げてくるが、それ以外の方法があるなら教えて欲しいと春輝は思う。
 確かに力がない春輝には、何か起きた時の対処などできはしない。かと言って聖剣の力をあてにしているわけでもないのだ。

「なんだよ、俺を守りはしないのか?」

強力な力を持つ目の前の二人に春輝がそういえば、目を丸くしそのあとはすぐに顔を顰めた。

「それは当然のことだが、そう言うことじゃないことぐらいわかるだろう」
「なにかあってからでは遅いのですよ、ハルキ殿」

 まるで聞き分けの無い子供を窘めるような二人に、春輝は顔を顰める。一人だけお荷物になるのは嫌でしょうがない。
 下手に動くことが悪手であることは存分に理解しているが、過保護すぎるのだ。
領地での食事の中身に気が付いてからは、安全な物しか口にしていないため体は幾分か元に戻ったように思う。
 そしてガベルトゥスが常に側に居ることで、魔力の譲渡も滞ることもなくなった。核は少しずつ弱体化させることができているのだ。
 体力も戻りつつある。それになりよりも、ジェンツの狙いは紛れもなく春輝だ。
 胎を借りようとしている相手に近づくのは気持ちが悪いが、だからこそその懐に飛び込めるのは自分しかいないと春輝は自負している。
 それに魔王のガベルトゥスに加え、精霊族の天敵であるドラゴンのトビアスも居るのだ。どこに怖がる必要があると言うのか。
 話はどこまでも平行線を辿り、結局はトゥーラに探らせることで決着がついた。

 王都へ辿り着けば、すぐに王宮へと案内される。またこの場所に戻って来てしまったのかと春輝は気が重くなる。
 これでやっと彼らに復讐できるのかと思うと、幾分か心が軽くなる。それに今は一人ではない。心から頼れるガベルトゥスやトビアスが居るのだ。
 腹の奥に僅かに感じ始めた違和感も、悪夢に魘される夜も、これですべて終わるだろう。

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