79 / 123
79 王都へ
しおりを挟む 領地の屋敷にある繭と妖精を全て焼き尽くした春輝達は、怪しまれないようにトゥーラの配下を屋敷に置き、領地を後にした。
「やめろ、昼間だぞ」
「密室に二人きりだぞ? 少しくらい良いだろう」
体を弄り服の下へと潜り込ませようとしてくる手を、春輝は叩き落とすとガベルトゥスと距離を取るように座席を反対側へと移動する。
「つれないなぁ」
意地悪く笑うガベルトゥスの足を蹴った春輝は、窓から空を見た。日の光に目を細めれば、点にしか見えないかったものが、猛スピードで大きくなっていく。強大なドラゴンが姿を見せれば春輝は笑みを浮かべた。
トビアスは領地から出る直前、ドラゴンの姿へと変わることができるようになったのだ。その姿は大きく、漆黒の鱗が煌めき背からは大きな翼が生えていて、おとぎ話に出てくる姿そのものだ。
羽だけを残し滑空してきたトビアスは、馬車に急速に近づく。
「調子はどうだトビアス」
「良好です陛下。これなら心置きなく暴れられますよ」
その頼もしい発言に、ガベルトゥスは鷹揚に頷くと、走る馬車の扉を開ける。並走していたトビアスは、羽を消すと器用に中へと入った。
「さて、王都に着いたらまずやらねばならないことはなんだ春輝」
「結界を壊すことだろう? でないと援軍が入れないからな」
「その通りだ。トビアス、あの結界の大元はわかるか?」
春輝の隣に腰を下ろしたトビアスは、記憶を辿るように目を伏せる。
「王宮の地下深くでしょう。あの場所は元々精霊族の城があった場所ですから」
「教会じゃないのか?」
精霊族は今のところジェンツの周りばかりだ。それに加えアルバロの部屋にあった手紙類にも王家が精霊族と言うような文言はどこにもなかった。
そう言ったことから春輝は、結界の大元が精霊族の本境地であろう教会のどこかだとばかり思っていたのだ。
「あの結界は精霊族が滅んでから百八十年ほど経ってからできました。あれほどの物を生き残りだけで一から作り上げるのは無理です。であれば、元々の物が残っていたと考えた方が良い。そうなると、彼らの城がかつてあった場所にある、と考えるべきかと。上物は人間達が作り上げた物ですし、となれば残るは」
「地下ってことか、なるほどな。だけどそう簡単に地下へは行けないだろう? 入り口もわからないわけだし?」
春輝の問に流石にそこまでの記憶は無いトビアスは、困った様に頷いた。ふむと手を口元に当て考え込むと、春輝はやはりこれしかないだろうと口を開く。
「俺が探りを入れた方が一番確実だと思うけど、どうだ?」
「力がないお前がか?」
途端に不機嫌そうにガベルトゥスが言葉を投げてくるが、それ以外の方法があるなら教えて欲しいと春輝は思う。
確かに力がない春輝には、何か起きた時の対処などできはしない。かと言って聖剣の力をあてにしているわけでもないのだ。
「なんだよ、俺を守りはしないのか?」
強力な力を持つ目の前の二人に春輝がそういえば、目を丸くしそのあとはすぐに顔を顰めた。
「それは当然のことだが、そう言うことじゃないことぐらいわかるだろう」
「なにかあってからでは遅いのですよ、ハルキ殿」
まるで聞き分けの無い子供を窘めるような二人に、春輝は顔を顰める。一人だけお荷物になるのは嫌でしょうがない。
下手に動くことが悪手であることは存分に理解しているが、過保護すぎるのだ。
領地での食事の中身に気が付いてからは、安全な物しか口にしていないため体は幾分か元に戻ったように思う。
そしてガベルトゥスが常に側に居ることで、魔力の譲渡も滞ることもなくなった。核は少しずつ弱体化させることができているのだ。
体力も戻りつつある。それになりよりも、ジェンツの狙いは紛れもなく春輝だ。
胎を借りようとしている相手に近づくのは気持ちが悪いが、だからこそその懐に飛び込めるのは自分しかいないと春輝は自負している。
それに魔王のガベルトゥスに加え、精霊族の天敵であるドラゴンのトビアスも居るのだ。どこに怖がる必要があると言うのか。
話はどこまでも平行線を辿り、結局はトゥーラに探らせることで決着がついた。
王都へ辿り着けば、すぐに王宮へと案内される。またこの場所に戻って来てしまったのかと春輝は気が重くなる。
これでやっと彼らに復讐できるのかと思うと、幾分か心が軽くなる。それに今は一人ではない。心から頼れるガベルトゥスやトビアスが居るのだ。
腹の奥に僅かに感じ始めた違和感も、悪夢に魘される夜も、これですべて終わるだろう。
「やめろ、昼間だぞ」
「密室に二人きりだぞ? 少しくらい良いだろう」
体を弄り服の下へと潜り込ませようとしてくる手を、春輝は叩き落とすとガベルトゥスと距離を取るように座席を反対側へと移動する。
「つれないなぁ」
意地悪く笑うガベルトゥスの足を蹴った春輝は、窓から空を見た。日の光に目を細めれば、点にしか見えないかったものが、猛スピードで大きくなっていく。強大なドラゴンが姿を見せれば春輝は笑みを浮かべた。
トビアスは領地から出る直前、ドラゴンの姿へと変わることができるようになったのだ。その姿は大きく、漆黒の鱗が煌めき背からは大きな翼が生えていて、おとぎ話に出てくる姿そのものだ。
羽だけを残し滑空してきたトビアスは、馬車に急速に近づく。
「調子はどうだトビアス」
「良好です陛下。これなら心置きなく暴れられますよ」
その頼もしい発言に、ガベルトゥスは鷹揚に頷くと、走る馬車の扉を開ける。並走していたトビアスは、羽を消すと器用に中へと入った。
「さて、王都に着いたらまずやらねばならないことはなんだ春輝」
「結界を壊すことだろう? でないと援軍が入れないからな」
「その通りだ。トビアス、あの結界の大元はわかるか?」
春輝の隣に腰を下ろしたトビアスは、記憶を辿るように目を伏せる。
「王宮の地下深くでしょう。あの場所は元々精霊族の城があった場所ですから」
「教会じゃないのか?」
精霊族は今のところジェンツの周りばかりだ。それに加えアルバロの部屋にあった手紙類にも王家が精霊族と言うような文言はどこにもなかった。
そう言ったことから春輝は、結界の大元が精霊族の本境地であろう教会のどこかだとばかり思っていたのだ。
「あの結界は精霊族が滅んでから百八十年ほど経ってからできました。あれほどの物を生き残りだけで一から作り上げるのは無理です。であれば、元々の物が残っていたと考えた方が良い。そうなると、彼らの城がかつてあった場所にある、と考えるべきかと。上物は人間達が作り上げた物ですし、となれば残るは」
「地下ってことか、なるほどな。だけどそう簡単に地下へは行けないだろう? 入り口もわからないわけだし?」
春輝の問に流石にそこまでの記憶は無いトビアスは、困った様に頷いた。ふむと手を口元に当て考え込むと、春輝はやはりこれしかないだろうと口を開く。
「俺が探りを入れた方が一番確実だと思うけど、どうだ?」
「力がないお前がか?」
途端に不機嫌そうにガベルトゥスが言葉を投げてくるが、それ以外の方法があるなら教えて欲しいと春輝は思う。
確かに力がない春輝には、何か起きた時の対処などできはしない。かと言って聖剣の力をあてにしているわけでもないのだ。
「なんだよ、俺を守りはしないのか?」
強力な力を持つ目の前の二人に春輝がそういえば、目を丸くしそのあとはすぐに顔を顰めた。
「それは当然のことだが、そう言うことじゃないことぐらいわかるだろう」
「なにかあってからでは遅いのですよ、ハルキ殿」
まるで聞き分けの無い子供を窘めるような二人に、春輝は顔を顰める。一人だけお荷物になるのは嫌でしょうがない。
下手に動くことが悪手であることは存分に理解しているが、過保護すぎるのだ。
領地での食事の中身に気が付いてからは、安全な物しか口にしていないため体は幾分か元に戻ったように思う。
そしてガベルトゥスが常に側に居ることで、魔力の譲渡も滞ることもなくなった。核は少しずつ弱体化させることができているのだ。
体力も戻りつつある。それになりよりも、ジェンツの狙いは紛れもなく春輝だ。
胎を借りようとしている相手に近づくのは気持ちが悪いが、だからこそその懐に飛び込めるのは自分しかいないと春輝は自負している。
それに魔王のガベルトゥスに加え、精霊族の天敵であるドラゴンのトビアスも居るのだ。どこに怖がる必要があると言うのか。
話はどこまでも平行線を辿り、結局はトゥーラに探らせることで決着がついた。
王都へ辿り着けば、すぐに王宮へと案内される。またこの場所に戻って来てしまったのかと春輝は気が重くなる。
これでやっと彼らに復讐できるのかと思うと、幾分か心が軽くなる。それに今は一人ではない。心から頼れるガベルトゥスやトビアスが居るのだ。
腹の奥に僅かに感じ始めた違和感も、悪夢に魘される夜も、これですべて終わるだろう。
11
お気に入りに追加
366
あなたにおすすめの小説
【完結】魔女を求めて今日も彼らはやって来る。
まるねこ
ファンタジー
私の名前はエイシャ。私の腰から下は滑らかな青緑の鱗に覆われた蛇のような形をしており、人間たちの目には化け物のように映るようだ。神話に出てくるエキドナは私の祖母だ。
私が住むのは魔女エキドナが住む森と呼ばれている森の中。
昼間でも薄暗い森には多くの魔物が闊歩している。細い一本道を辿って歩いていくと、森の中心は小高い丘になっており、小さな木の家を見つけることが出来る。
魔女に会いたいと思わない限り森に入ることが出来ないし、無理にでも入ってしまえば、道は消え、迷いの森と化してしまう素敵な仕様になっている。
そんな危険を犯してまで森にやって来る人たちは魔女に頼り、願いを抱いてやってくる。
見目麗しい化け物に逢いに来るほどの願いを持つ人間たち。
さて、今回はどんな人間がくるのかしら?
※グロ表現も含まれています。読む方はご注意ください。
ダークファンタジーかも知れません…。
10/30ファンタジーにカテゴリ移動しました。
今流行りAIアプリで絵を作ってみました。
なろう小説、カクヨムにも投稿しています。
Copyright©︎2021-まるねこ
男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。
カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。
今年のメインイベントは受験、
あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。
だがそんな彼は飛行機が苦手だった。
電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?!
あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな?
急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。
さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?!
変なレアスキルや神具、
八百万(やおよろず)の神の加護。
レアチート盛りだくさん?!
半ばあたりシリアス
後半ざまぁ。
訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前
お腹がすいた時に食べたい食べ物など
思いついた名前とかをもじり、
なんとか、名前決めてます。
***
お名前使用してもいいよ💕っていう
心優しい方、教えて下さい🥺
悪役には使わないようにします、たぶん。
ちょっとオネェだったり、
アレ…だったりする程度です😁
すでに、使用オッケーしてくださった心優しい
皆様ありがとうございます😘
読んでくださる方や応援してくださる全てに
めっちゃ感謝を込めて💕
ありがとうございます💞

光る穴に落ちたら、そこは異世界でした。
みぃ
BL
自宅マンションへ帰る途中の道に淡い光を見つけ、なに? と確かめるために近づいてみると気付けば落ちていて、ぽん、と異世界に放り出された大学生が、年下の騎士に拾われる話。
生活脳力のある主人公が、生活能力のない年下騎士の抜けてるとこや、美しく格好いいのにかわいいってなんだ!? とギャップにもだえながら、ゆるく仲良く暮らしていきます。
何もかも、ふわふわゆるゆる。ですが、描写はなくても主人公は受け、騎士は攻めです。

精霊の港 飛ばされたリーマン、体格のいい男たちに囲まれる
風見鶏ーKazamidoriー
BL
秋津ミナトは、うだつのあがらないサラリーマン。これといった特徴もなく、体力の衰えを感じてスポーツジムへ通うお年ごろ。
ある日帰り道で奇妙な精霊と出会い、追いかけた先は見たこともない場所。湊(ミナト)の前へ現れたのは黄金色にかがやく瞳をした美しい男だった。ロマス帝国という古代ローマに似た巨大な国が支配する世界で妖精に出会い、帝国の片鱗に触れてさらにはドラゴンまで、サラリーマンだった湊の人生は激変し異なる世界の動乱へ巻きこまれてゆく物語。
※この物語に登場する人物、名、団体、場所はすべてフィクションです。
名もなき花は愛されて
朝顔
BL
シリルは伯爵家の次男。
太陽みたいに眩しくて美しい姉を持ち、その影に隠れるようにひっそりと生きてきた。
姉は結婚相手として自分と同じく完璧な男、公爵のアイロスを選んだがあっさりとフラれてしまう。
火がついた姉はアイロスに近づいて女の好みや弱味を探るようにシリルに命令してきた。
断りきれずに引き受けることになり、シリルは公爵のお友達になるべく近づくのだが、バラのような美貌と棘を持つアイロスの魅力にいつしか捕らわれてしまう。
そして、アイロスにはどうやら想う人がいるらしく……
全三話完結済+番外編
18禁シーンは予告なしで入ります。
ムーンライトノベルズでも同時投稿
1/30 番外編追加

【完結】ここで会ったが、十年目。
N2O
BL
帝国の第二皇子×不思議な力を持つ一族の長の息子(治癒術特化)
我が道を突き進む攻めに、ぶん回される受けのはなし。
(追記5/14 : お互いぶん回してますね。)
Special thanks
illustration by おのつく 様
X(旧Twitter) @__oc_t
※ご都合主義です。あしからず。
※素人作品です。ゆっくりと、温かな目でご覧ください。
※◎は視点が変わります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる