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74 居住区
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「王都に行く前にここの奴らを始末しようと思うんだが。トビアス、やれそうか?」
ひらひらと招待状を弄びながら、ガベルトゥスは事も無げに言う。春輝もトビアスに視線を向ければ、トビアスはこくりと頷いた。
「ドラゴンブレスも既に使えますし、精霊族を殺すには充分かと。寝静まった頃に叩けば一網打尽にできます」
「ねぐらは?」
「使用人の共住場所が見えないのでそこだと思います。あとは霊廟ですね」
「出発は三日後か。前夜に全て始末できるように整えておけ」
「陛下、全てですか? ただの人間もいる可能性があるのでは?」
共に話を聞いていたトゥーラが疑問を口に挟むが、ガベルトゥスは何か問題があるのかと首を傾げるだけだった。
「混ざっていたとして、それがどうした?」
「ふふ、怖いお方ですね。失礼いたしました」
話が進んでいく中、春輝は始終無言を貫いていた。聖剣の力を扱えないとなれば、春輝はただの非力な人でしかない。
魔力を仕えないどころか、剣すらまともに握れないのだ。これから王都に乗り込むと言うのに、戦力とならない自分自身が嫌でしょうがなかった。だからと言って、洗脳が進んでしまう聖剣を振るうつもりはない。
ガベルトゥスはなにも言わないが、足手まといになるのは目に見えているのだ。目の前で繰り広げられる会話にも参加できるはずもなく、ふてくされたようにしていればガベルトゥスが頭を乱雑に撫でてきた。
「お前の最大の戦力はトビアスだぞ? 上手く使え」
「自分で動けなきゃ意味がないだろうが」
「だからと言って聖剣はだめだぞ?」
「当たり前だ」
揶揄うように言ってくるガベルトゥスを睨みつけると、春輝は話を続けろと目で促し、トゥーラが持ってきた安全な菓子を口に放り込んだ。
「勇者様が暫くいないと思うと寂しくなりますね」
心にもないだろうに、出発前日そう言ってきたアルバロに春輝は眉を潜めるだけでなにも答えなかった。
そしてその夜、人間が作った睡眠薬を混ぜた酒をガベルトゥスが盛大に使用人達に振舞うと、いつもより早く屋敷の中は静けさに包まれた。
薬に耐性がないと言う情報は勿論トビアスにるドラゴンの記憶がもたらした者だ。すんなりと彼らが酒を飲んだことに春輝は安堵する。
できれば王都へ行く前に戦闘することは避けたかったからだ。魔王にドラゴンに半魔にと、戦力としては十分すぎる物があるが、極力消耗することは避けたい。
なにより戦えない春輝がこんなところで負傷すると言うリスクは避けたかった。
トビアスを先頭に、使用人の居住場所を目指す。全ての使用人達が階下へと下がっているのはトビアスの能力で確認済みだ。
ふかふかの絨毯が敷き詰められた廊下から、フローリングが剥き出しの床へと変わる。階下へと降りる階段は、僅かだが魔法が掛かっていた。
これがトビアスの視界を遮っていたのだろう。しかし以外にもトゥーラがドアノブを捻れば、あっさりと開いたのだった。
「頑丈に施錠されてるかと思いましたが」
どこか拍子抜けしたような声を出すトゥーラに一同が頷き返す。隠したいのか隠したくないのかよくわからない。だが面倒なことがないと言うのはいいことだ。
ぎぎぎと音を立て開く先は暗い。寝ているとはわかっていても、足音を立てないように慎重に階段を降り、春輝たちは移動していった。
地下へと降りる階段は異様に長い。こんなに深く潜ることがあるのだろうかと春輝がトビアスを見れば、トビアスすらも疑問に思っているようだった。
「こんな深くまで下がるとは……」
「やっぱりおかしいのか?」
「城は違いますが、一般的な屋敷では半地下とその下があるだけですからね。ここまで降りるのは考えられません」
更に下れば漸く最下層まで着いた。ひんやりとした空気に満たされ肌寒い。地上とは大分気温が違うようだった。それでいて湿気があるわけでもなく、汚らしいわけでもなく綺麗に整えられている。
石畳の廊下を進めば、部屋の扉が見えてくる。手前の扉をトゥーラが慎重に開ければその先は真っ暗だった。
「明かりを付けましょう」
手直にあるランプに火を灯し部屋の中へと掲げれば、眼前に広がったのは天井からぶら下がる大きな繭の群れだった。
ひらひらと招待状を弄びながら、ガベルトゥスは事も無げに言う。春輝もトビアスに視線を向ければ、トビアスはこくりと頷いた。
「ドラゴンブレスも既に使えますし、精霊族を殺すには充分かと。寝静まった頃に叩けば一網打尽にできます」
「ねぐらは?」
「使用人の共住場所が見えないのでそこだと思います。あとは霊廟ですね」
「出発は三日後か。前夜に全て始末できるように整えておけ」
「陛下、全てですか? ただの人間もいる可能性があるのでは?」
共に話を聞いていたトゥーラが疑問を口に挟むが、ガベルトゥスは何か問題があるのかと首を傾げるだけだった。
「混ざっていたとして、それがどうした?」
「ふふ、怖いお方ですね。失礼いたしました」
話が進んでいく中、春輝は始終無言を貫いていた。聖剣の力を扱えないとなれば、春輝はただの非力な人でしかない。
魔力を仕えないどころか、剣すらまともに握れないのだ。これから王都に乗り込むと言うのに、戦力とならない自分自身が嫌でしょうがなかった。だからと言って、洗脳が進んでしまう聖剣を振るうつもりはない。
ガベルトゥスはなにも言わないが、足手まといになるのは目に見えているのだ。目の前で繰り広げられる会話にも参加できるはずもなく、ふてくされたようにしていればガベルトゥスが頭を乱雑に撫でてきた。
「お前の最大の戦力はトビアスだぞ? 上手く使え」
「自分で動けなきゃ意味がないだろうが」
「だからと言って聖剣はだめだぞ?」
「当たり前だ」
揶揄うように言ってくるガベルトゥスを睨みつけると、春輝は話を続けろと目で促し、トゥーラが持ってきた安全な菓子を口に放り込んだ。
「勇者様が暫くいないと思うと寂しくなりますね」
心にもないだろうに、出発前日そう言ってきたアルバロに春輝は眉を潜めるだけでなにも答えなかった。
そしてその夜、人間が作った睡眠薬を混ぜた酒をガベルトゥスが盛大に使用人達に振舞うと、いつもより早く屋敷の中は静けさに包まれた。
薬に耐性がないと言う情報は勿論トビアスにるドラゴンの記憶がもたらした者だ。すんなりと彼らが酒を飲んだことに春輝は安堵する。
できれば王都へ行く前に戦闘することは避けたかったからだ。魔王にドラゴンに半魔にと、戦力としては十分すぎる物があるが、極力消耗することは避けたい。
なにより戦えない春輝がこんなところで負傷すると言うリスクは避けたかった。
トビアスを先頭に、使用人の居住場所を目指す。全ての使用人達が階下へと下がっているのはトビアスの能力で確認済みだ。
ふかふかの絨毯が敷き詰められた廊下から、フローリングが剥き出しの床へと変わる。階下へと降りる階段は、僅かだが魔法が掛かっていた。
これがトビアスの視界を遮っていたのだろう。しかし以外にもトゥーラがドアノブを捻れば、あっさりと開いたのだった。
「頑丈に施錠されてるかと思いましたが」
どこか拍子抜けしたような声を出すトゥーラに一同が頷き返す。隠したいのか隠したくないのかよくわからない。だが面倒なことがないと言うのはいいことだ。
ぎぎぎと音を立て開く先は暗い。寝ているとはわかっていても、足音を立てないように慎重に階段を降り、春輝たちは移動していった。
地下へと降りる階段は異様に長い。こんなに深く潜ることがあるのだろうかと春輝がトビアスを見れば、トビアスすらも疑問に思っているようだった。
「こんな深くまで下がるとは……」
「やっぱりおかしいのか?」
「城は違いますが、一般的な屋敷では半地下とその下があるだけですからね。ここまで降りるのは考えられません」
更に下れば漸く最下層まで着いた。ひんやりとした空気に満たされ肌寒い。地上とは大分気温が違うようだった。それでいて湿気があるわけでもなく、汚らしいわけでもなく綺麗に整えられている。
石畳の廊下を進めば、部屋の扉が見えてくる。手前の扉をトゥーラが慎重に開ければその先は真っ暗だった。
「明かりを付けましょう」
手直にあるランプに火を灯し部屋の中へと掲げれば、眼前に広がったのは天井からぶら下がる大きな繭の群れだった。
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