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72 贈り物
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ギシリと痛む体をベッドから無理矢理起こした春輝は、ベッドから抜け出し窓辺にある椅子に腰かけた。
青白い手は幾分か肉が落ち、この世界に来た時よりも骨が浮いている。かさりと手にした紙に視線を落とした春輝は、眉間に皺を寄せ疲れたように目を瞑った。
オーバンから渡された缶に入っていた紙片には、震える手で書いたようなガタガタとした字がまるで懺悔をするように綴られていた。
サーシャリアから逃がすためにジェンツを頼り、結果オーバンはジェンツの手によって思考を鈍らされ言いなりになってしまった。
マルコムを殺したのは、その時マルコムといちかを追っていたサーシャアリアの護衛騎士サイモン。
そのあといちかをジェンツの元に連れて行ったのはオーバン自身だと言うのだ。先にいちかを殺そうとしていたのはサーシャリアだが、最終的にはジェンツがいちかに薬を飲ませ、病に見せかけ殺したと言う。
咎は全て判断を誤ってしまった自身にあるのだと綴られている紙片に、春輝はこれに偽りはなさそうだと感じていた。
洗脳されることを知らなければ、王族に立ち向かえるだけの権力を持つ者に頼ろうと思うのは当然だ。なによりオーバンは教会の関係者で神官長でもある。自身の所属する場所の最高位を頼るのは何ら不思議ではないのだ。
教会の最高位であるジェンツが精霊族なのは間違いないだろうと言うのは春輝達の中での共通認識だ。
教会に所属している人間もそうだろうかと考えていたが、オーバンの様子を見るに教会に属する人間もいる。
果たしてどこまで妖精族が復活し、その数を増やしているのか。血を見なければその判別が付かないと言うのはとても難儀なことだ。
難儀なことと言うえばもう一つと、春輝は紙片を置いて豪華な手紙を手に取った。これは先日領地からやっと王都へと戻っていったサーシャリアから直接手渡されたものだ。
王家の印が押されたそれには、建国記念の式典に出席するようにとの王命が記されていた。当然そんな物には行きたくない春輝だが、王都に戻る恰好の口実だとし渋々参加することになった。
式典まで三月、滞在期間は二月だ。その間にできる限り軍備を整え、結界を内側から壊して王都を襲撃する狙いだ。
人間への被害など春輝もガベルトゥスも考えてはいない。王都が火の海になり人がいくら死のうとも、二人には関係のないことだ。
目的はただ召喚した王家への復讐と、いちかを殺した者への復讐。それは精霊族を殺すことにも繋がる。
「なんだ起きていたのか。悪夢でも見たか?」
のそりと起きたガベルトゥスが春輝の元へと来る。夜が明けるまでまだ少しばかりの時間があり、空は未だに暗く月が輝く。
月明りに照らされ光る春輝の幾分か艶めきが落ちた髪を撫でたガベルトゥスは、春輝の横にちょこんと座るうさぎのぬいぐるみをひょいと取り上げた。
「おい、それに触るな、早く返せ」
「まぁ待て、別に取り上げたりしない」
そういったガベルトゥスはどこから取り出したのか、紐が付いたブローチを取り出し、うさぎのぬいぐるみの首元にそれを付けた。
幅広のリボンは紫で、ぬいぐるみの背後に大きなリボンを作る。いちかが好きだった色と、せがまれ髪にリボンを付けていたことを思い出して胸が詰まった。
キラリと光るブローチは赤。これもいちかの目の色を思い起こさせる。泣きそうなほど顔を歪ませた春輝に、ガベルトゥスはいつものようないやらしい笑みではなく、優し気にそして少し苦笑を交えながら春輝にぬいぐるみを手渡した。
「気に入ってくれたようでなにより」
「これは?」
「そのブローチには俺の魔力が込めてある。王都で万が一のことがあればそれから魔力を取り込め。リボンと色は,
まぁサービスだな」
ガベルトゥスの気づかいにそんなこともできるのかと少し感心しながら、春輝は手元に戻って来たぬいぐるみの頭を撫でる。
気遣いといちかの色に、春輝は知らずの内にいちかに向けていたような柔らかい笑みを零す。
「そんな顔をされると、そのぬいぐるみを燃やしてしまいたくなるな」
本来ならば礼を言うところだろうが、春輝はそれをしないしガベルトゥスもそれを求めない。
苦笑しながらも本気ではないと春輝にはわかる言葉に、春輝は鼻を鳴らして一蹴しぬいぐるみの頭を日が昇るまで撫で続けた。
青白い手は幾分か肉が落ち、この世界に来た時よりも骨が浮いている。かさりと手にした紙に視線を落とした春輝は、眉間に皺を寄せ疲れたように目を瞑った。
オーバンから渡された缶に入っていた紙片には、震える手で書いたようなガタガタとした字がまるで懺悔をするように綴られていた。
サーシャリアから逃がすためにジェンツを頼り、結果オーバンはジェンツの手によって思考を鈍らされ言いなりになってしまった。
マルコムを殺したのは、その時マルコムといちかを追っていたサーシャアリアの護衛騎士サイモン。
そのあといちかをジェンツの元に連れて行ったのはオーバン自身だと言うのだ。先にいちかを殺そうとしていたのはサーシャリアだが、最終的にはジェンツがいちかに薬を飲ませ、病に見せかけ殺したと言う。
咎は全て判断を誤ってしまった自身にあるのだと綴られている紙片に、春輝はこれに偽りはなさそうだと感じていた。
洗脳されることを知らなければ、王族に立ち向かえるだけの権力を持つ者に頼ろうと思うのは当然だ。なによりオーバンは教会の関係者で神官長でもある。自身の所属する場所の最高位を頼るのは何ら不思議ではないのだ。
教会の最高位であるジェンツが精霊族なのは間違いないだろうと言うのは春輝達の中での共通認識だ。
教会に所属している人間もそうだろうかと考えていたが、オーバンの様子を見るに教会に属する人間もいる。
果たしてどこまで妖精族が復活し、その数を増やしているのか。血を見なければその判別が付かないと言うのはとても難儀なことだ。
難儀なことと言うえばもう一つと、春輝は紙片を置いて豪華な手紙を手に取った。これは先日領地からやっと王都へと戻っていったサーシャリアから直接手渡されたものだ。
王家の印が押されたそれには、建国記念の式典に出席するようにとの王命が記されていた。当然そんな物には行きたくない春輝だが、王都に戻る恰好の口実だとし渋々参加することになった。
式典まで三月、滞在期間は二月だ。その間にできる限り軍備を整え、結界を内側から壊して王都を襲撃する狙いだ。
人間への被害など春輝もガベルトゥスも考えてはいない。王都が火の海になり人がいくら死のうとも、二人には関係のないことだ。
目的はただ召喚した王家への復讐と、いちかを殺した者への復讐。それは精霊族を殺すことにも繋がる。
「なんだ起きていたのか。悪夢でも見たか?」
のそりと起きたガベルトゥスが春輝の元へと来る。夜が明けるまでまだ少しばかりの時間があり、空は未だに暗く月が輝く。
月明りに照らされ光る春輝の幾分か艶めきが落ちた髪を撫でたガベルトゥスは、春輝の横にちょこんと座るうさぎのぬいぐるみをひょいと取り上げた。
「おい、それに触るな、早く返せ」
「まぁ待て、別に取り上げたりしない」
そういったガベルトゥスはどこから取り出したのか、紐が付いたブローチを取り出し、うさぎのぬいぐるみの首元にそれを付けた。
幅広のリボンは紫で、ぬいぐるみの背後に大きなリボンを作る。いちかが好きだった色と、せがまれ髪にリボンを付けていたことを思い出して胸が詰まった。
キラリと光るブローチは赤。これもいちかの目の色を思い起こさせる。泣きそうなほど顔を歪ませた春輝に、ガベルトゥスはいつものようないやらしい笑みではなく、優し気にそして少し苦笑を交えながら春輝にぬいぐるみを手渡した。
「気に入ってくれたようでなにより」
「これは?」
「そのブローチには俺の魔力が込めてある。王都で万が一のことがあればそれから魔力を取り込め。リボンと色は,
まぁサービスだな」
ガベルトゥスの気づかいにそんなこともできるのかと少し感心しながら、春輝は手元に戻って来たぬいぐるみの頭を撫でる。
気遣いといちかの色に、春輝は知らずの内にいちかに向けていたような柔らかい笑みを零す。
「そんな顔をされると、そのぬいぐるみを燃やしてしまいたくなるな」
本来ならば礼を言うところだろうが、春輝はそれをしないしガベルトゥスもそれを求めない。
苦笑しながらも本気ではないと春輝にはわかる言葉に、春輝は鼻を鳴らして一蹴しぬいぐるみの頭を日が昇るまで撫で続けた。
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