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71 変えられる体
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サーシャリアやジェンツ達らと共に食事を摂るのは晩餐だけではあるが、彼らが滞在する数日間、春輝にとってその時間は苦痛意外のなにものでもなかった。
妖精の粉が入っている食事だとわかっているが、怪しまれないためにそれを食さなければならない。
彼らが領地に来る前よりも、あからさまに増えたであろう粉のせいで、時折口の中でじゃりっと音が鳴る。
咀嚼する度に聞こえてくるその音は、春輝を不快にさせ吐き気を促す。
トビアスにあるドラゴンの記憶は全て馴染んだ。その記憶から、なぜ粉を春輝に盛るのかが明確に判明したのだ。
妖精の粉は、妖精その物を粉末にすることで作られる。鱗粉かなにかだと思っていた春輝には予想外の事実だ。
虫の粉末だと思わず呟いたガベルトゥスには心底腹が立つ。わかっていても他人からそれを言われるのは中々に堪えるのだ。
そして粉にはもう一つ洗脳を促す以外の効能があった。それは体内に精霊の種を受け入れ育てるための胚を作り上げると言うもの。
それを聞いた瞬間のガベルトゥスの怒りようと、春輝の嫌悪感による吐き気は凄まじかった。
当然のようにその日の夜、ガベルトゥスは嫉妬と怒りに飲まれ、春輝を食い殺さんばかりに求め、春輝もそれを拒否しなかった。
体内を知らない間に作り替えられているなど、今すぐにでも己の体を切り裂きたい衝動に駆られてしまう。
それをガベルトゥスからの嫉妬と怒りを受け入れ、塗り替えるようにする。
それは日夜繰り返され、それでも二人の中にある衝動を消し去ることはできなかった。
晩餐から部屋へと戻り、春輝が胃の中の物を全て吐き出し、トゥーラが用意した安全な食事を取る。
それが終われば二人はお互いを激しく求め合い、春輝は良い知れぬ恐怖に怯えながら早朝に眠りにいていた。
ジェンツ達の滞在期間は半月。その間繰り返される晩餐は春輝にとって既に恐怖の対象でしかない。
表面上にこやかに会話は繰り広げられる。だがその空間にいる者は皆敵同士だ。
ストレスは日に日に溜まり、春輝の精神は春輝自身も気がつかないくらいに摩耗していた。
最奥に穿たれたガベルトゥスの物から放たれる白濁に、冷え切った体が温められる。
ジワリと広がる熱と、僅かに入れ込まれた魔力は春輝を満たす。だが不安が消え去ることはない。
「……魔族か魔獣の血を飲んで早く核を壊せば、まだマシになると思うか?」
顔色を悪くしグッタリとする春輝から溢れた小さな問いに、ガベルトゥスの収まりかけた怒りが溢れ出す。
「俺にお前を殺せと、そう言うのかハルキ」
「死なないかもしれないだろ。現にガイルは生きてる」
「言っただろう、俺が馴染んだのはまぐれでしかない。なにより俺の時と状況が違うだろう。お前は二度も核が入れ込まれているし、根は深い。この腹に胚ができているかもしれないんだぞ? そんな状態で飲めばどうなるか。それとも、死にたいのか?」
嫉妬の炎を瞳にありありと見せながら、ガベルトゥスは威圧を多分に含んだ声音で春輝に問い掛けてくる。
春輝は死にたいわけではない。ただただ今の状況から少しでも抜け出したいだけなのだ。
しかしいちかという生きる糧を失った直後、死にたがっていた春輝を知っているガベルトゥスには春輝がこの状況に辟易し、死を望んでいるように写るのだろう。
「この状況が嫌なだけで、死にたいわけじゃない。それにガイルは、俺が死にたがっても生かすだろう?」
「当たり前だ、俺だけの勇者だからな」
「ははっ、俺もお前が生きている限りは死なないつもりだから安心しろよ。誰かに取られたら困るからな」
ーー俺だって嫉妬深いんだ、わかるだろう?
そう囁けば、ガベルトゥスが噛み付くように唇を重ねてくる。
全てを寄越せと言わんばかりのそれに、春輝も同じように答え続けた。
妖精の粉が入っている食事だとわかっているが、怪しまれないためにそれを食さなければならない。
彼らが領地に来る前よりも、あからさまに増えたであろう粉のせいで、時折口の中でじゃりっと音が鳴る。
咀嚼する度に聞こえてくるその音は、春輝を不快にさせ吐き気を促す。
トビアスにあるドラゴンの記憶は全て馴染んだ。その記憶から、なぜ粉を春輝に盛るのかが明確に判明したのだ。
妖精の粉は、妖精その物を粉末にすることで作られる。鱗粉かなにかだと思っていた春輝には予想外の事実だ。
虫の粉末だと思わず呟いたガベルトゥスには心底腹が立つ。わかっていても他人からそれを言われるのは中々に堪えるのだ。
そして粉にはもう一つ洗脳を促す以外の効能があった。それは体内に精霊の種を受け入れ育てるための胚を作り上げると言うもの。
それを聞いた瞬間のガベルトゥスの怒りようと、春輝の嫌悪感による吐き気は凄まじかった。
当然のようにその日の夜、ガベルトゥスは嫉妬と怒りに飲まれ、春輝を食い殺さんばかりに求め、春輝もそれを拒否しなかった。
体内を知らない間に作り替えられているなど、今すぐにでも己の体を切り裂きたい衝動に駆られてしまう。
それをガベルトゥスからの嫉妬と怒りを受け入れ、塗り替えるようにする。
それは日夜繰り返され、それでも二人の中にある衝動を消し去ることはできなかった。
晩餐から部屋へと戻り、春輝が胃の中の物を全て吐き出し、トゥーラが用意した安全な食事を取る。
それが終われば二人はお互いを激しく求め合い、春輝は良い知れぬ恐怖に怯えながら早朝に眠りにいていた。
ジェンツ達の滞在期間は半月。その間繰り返される晩餐は春輝にとって既に恐怖の対象でしかない。
表面上にこやかに会話は繰り広げられる。だがその空間にいる者は皆敵同士だ。
ストレスは日に日に溜まり、春輝の精神は春輝自身も気がつかないくらいに摩耗していた。
最奥に穿たれたガベルトゥスの物から放たれる白濁に、冷え切った体が温められる。
ジワリと広がる熱と、僅かに入れ込まれた魔力は春輝を満たす。だが不安が消え去ることはない。
「……魔族か魔獣の血を飲んで早く核を壊せば、まだマシになると思うか?」
顔色を悪くしグッタリとする春輝から溢れた小さな問いに、ガベルトゥスの収まりかけた怒りが溢れ出す。
「俺にお前を殺せと、そう言うのかハルキ」
「死なないかもしれないだろ。現にガイルは生きてる」
「言っただろう、俺が馴染んだのはまぐれでしかない。なにより俺の時と状況が違うだろう。お前は二度も核が入れ込まれているし、根は深い。この腹に胚ができているかもしれないんだぞ? そんな状態で飲めばどうなるか。それとも、死にたいのか?」
嫉妬の炎を瞳にありありと見せながら、ガベルトゥスは威圧を多分に含んだ声音で春輝に問い掛けてくる。
春輝は死にたいわけではない。ただただ今の状況から少しでも抜け出したいだけなのだ。
しかしいちかという生きる糧を失った直後、死にたがっていた春輝を知っているガベルトゥスには春輝がこの状況に辟易し、死を望んでいるように写るのだろう。
「この状況が嫌なだけで、死にたいわけじゃない。それにガイルは、俺が死にたがっても生かすだろう?」
「当たり前だ、俺だけの勇者だからな」
「ははっ、俺もお前が生きている限りは死なないつもりだから安心しろよ。誰かに取られたら困るからな」
ーー俺だって嫉妬深いんだ、わかるだろう?
そう囁けば、ガベルトゥスが噛み付くように唇を重ねてくる。
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