69 / 123
69 妖精2
しおりを挟む
驚きに目を見開いた春輝に、怪訝そうに眉を顰めたガベルトゥスは、なにか思い当たることがあるのかと春輝に話すように促す。
そこで春輝は殺されたメイドの血が緑だったこと、それを殺したアルバロも他のメイドも、血の色を見て驚くことはなく平然としいたと話した。
心底面倒臭そうに息を深く吐き出したガベルトゥスは、不機嫌そうに顎髭を弄る。
「いつから精霊族が復活していたのやら……俺はずっと人間が相手だとばかり思っていたんだが、厄介だな」
「しかし陛下が来られた現段階で事態が把握できてよかったかと。ハルキ殿がこれ以上ここでの食事を取らないようにできますし、陛下であれば深くケアができます」
「お前にそこまでさせる気はないからな。ハルキの血の味が変わっていたのはこの気味の悪い食事のせいだろうよ。領地入りする前までは美味かったからな。お前は気がつかなかったのかトビアス」
人間であったころは血の味など興味も無かったが、同じ世界からの人間で尚且つ同じだけの暗さを持つ春輝の血は別格だった。
閨事の際に、春輝に執拗に噛みついてしまうのはマーキング行為ではあったが、それとは別に血の色と味に安堵を覚えていたのだ。
かつての己と同じだと。これが自身に流れていた時が確かにあったのだと。
気に入っていた物が変質したことは許し難い。攻めるようにトビアスを睨みつけたガベルトゥスに、トビアスは申し訳なさそうに膝をついて首を垂れる。
「私が食事をしていれば、早く気がつけていたはずです。申し訳ございません」
「ドラゴンであることが仇になったか」
肩をすくめたトゥーラがトビアスの肩をぽんと叩き、ピリつく二人の間に割ってはいる。ジロリとガベルトゥスに睨まれても引かない辺り、なかなかに肝が据わっているようだった。
「陛下、各方面への嫉妬は見苦しいかと。トビアス様を攻めるのもお門違いです。我々の食事に妖精ははいっておりませんから。その証拠に、陛下は晩餐の時には気が付かれなかったでしょう?」
トゥーラの最もな指摘に罰が悪そうに片眉を器用に跳ね上げたガベルトゥスは、手をひらひらとさせながらトゥーラの話を遮った。
「ともあれ、ハルキ様のお食事は私共の方で用意致しましょう。陛下も万が一がありますのでね」
「そうしてくれ。あとは……裏切り者の始末だな。どうなってる」
「私の配下に追わせています。念の為に領地を出てから仕留めるように指示を出しましたが、宜しかったですか?」
「上出来だ。人間ではないものがどこまで察知できるかわからないからな。俺たちがいる分には大丈夫そうだが、あまり中でなにかをやるのは勘付かれる可能性がある」
面倒ごとばかりだとガベルトゥスは疲れたように呟いた。
春輝の核の根深さも、敵が人間ではなく妖精族の復活も、配下の裏切りも、なにもかもが面倒だ。だが、とガベルトゥスは独りごちる。
異世界から人を呼び出し、洗脳するために核を植え付けるなど、この世界の人間になぜできるのかと疑問に思うことはなかった。
異世界だからだろうと思考がそこで止まってしまっていたのだ。
しかし精霊族と言うものがいるのであれば、妙に納得してしまうことも事実だった。
ガベルトゥスが物思いに耽っていれば、春輝の腹が僅かに鳴った。
途端に不機嫌そうに眉を寄せた春輝に、ガベルトゥスは喉の奥で笑いながら、トゥーラに食事の調達に行かせようと指示を出す。
「他のやっつはまだ入ってないんだろ? 今はそれでいいよ」
トビアスが手をつけない分を示した春輝に、トゥーラもトビアスも申し訳なさそうに眉を下げる。
腹に溜まればなんでもいい春輝にとって、食事が冷めていようが本来違う人の分だろうが気にはしない。
「すぐに調達してきます、夜には間に合わせますねハルキ様」
ガベルトゥスに目配せをされたトゥーラは、廊下に出ようと扉を開け、おや? と動きを止めた。
そこには今にも扉を叩こうと、腕を上げたまま止まっているオーバンが居たのだった。
そこで春輝は殺されたメイドの血が緑だったこと、それを殺したアルバロも他のメイドも、血の色を見て驚くことはなく平然としいたと話した。
心底面倒臭そうに息を深く吐き出したガベルトゥスは、不機嫌そうに顎髭を弄る。
「いつから精霊族が復活していたのやら……俺はずっと人間が相手だとばかり思っていたんだが、厄介だな」
「しかし陛下が来られた現段階で事態が把握できてよかったかと。ハルキ殿がこれ以上ここでの食事を取らないようにできますし、陛下であれば深くケアができます」
「お前にそこまでさせる気はないからな。ハルキの血の味が変わっていたのはこの気味の悪い食事のせいだろうよ。領地入りする前までは美味かったからな。お前は気がつかなかったのかトビアス」
人間であったころは血の味など興味も無かったが、同じ世界からの人間で尚且つ同じだけの暗さを持つ春輝の血は別格だった。
閨事の際に、春輝に執拗に噛みついてしまうのはマーキング行為ではあったが、それとは別に血の色と味に安堵を覚えていたのだ。
かつての己と同じだと。これが自身に流れていた時が確かにあったのだと。
気に入っていた物が変質したことは許し難い。攻めるようにトビアスを睨みつけたガベルトゥスに、トビアスは申し訳なさそうに膝をついて首を垂れる。
「私が食事をしていれば、早く気がつけていたはずです。申し訳ございません」
「ドラゴンであることが仇になったか」
肩をすくめたトゥーラがトビアスの肩をぽんと叩き、ピリつく二人の間に割ってはいる。ジロリとガベルトゥスに睨まれても引かない辺り、なかなかに肝が据わっているようだった。
「陛下、各方面への嫉妬は見苦しいかと。トビアス様を攻めるのもお門違いです。我々の食事に妖精ははいっておりませんから。その証拠に、陛下は晩餐の時には気が付かれなかったでしょう?」
トゥーラの最もな指摘に罰が悪そうに片眉を器用に跳ね上げたガベルトゥスは、手をひらひらとさせながらトゥーラの話を遮った。
「ともあれ、ハルキ様のお食事は私共の方で用意致しましょう。陛下も万が一がありますのでね」
「そうしてくれ。あとは……裏切り者の始末だな。どうなってる」
「私の配下に追わせています。念の為に領地を出てから仕留めるように指示を出しましたが、宜しかったですか?」
「上出来だ。人間ではないものがどこまで察知できるかわからないからな。俺たちがいる分には大丈夫そうだが、あまり中でなにかをやるのは勘付かれる可能性がある」
面倒ごとばかりだとガベルトゥスは疲れたように呟いた。
春輝の核の根深さも、敵が人間ではなく妖精族の復活も、配下の裏切りも、なにもかもが面倒だ。だが、とガベルトゥスは独りごちる。
異世界から人を呼び出し、洗脳するために核を植え付けるなど、この世界の人間になぜできるのかと疑問に思うことはなかった。
異世界だからだろうと思考がそこで止まってしまっていたのだ。
しかし精霊族と言うものがいるのであれば、妙に納得してしまうことも事実だった。
ガベルトゥスが物思いに耽っていれば、春輝の腹が僅かに鳴った。
途端に不機嫌そうに眉を寄せた春輝に、ガベルトゥスは喉の奥で笑いながら、トゥーラに食事の調達に行かせようと指示を出す。
「他のやっつはまだ入ってないんだろ? 今はそれでいいよ」
トビアスが手をつけない分を示した春輝に、トゥーラもトビアスも申し訳なさそうに眉を下げる。
腹に溜まればなんでもいい春輝にとって、食事が冷めていようが本来違う人の分だろうが気にはしない。
「すぐに調達してきます、夜には間に合わせますねハルキ様」
ガベルトゥスに目配せをされたトゥーラは、廊下に出ようと扉を開け、おや? と動きを止めた。
そこには今にも扉を叩こうと、腕を上げたまま止まっているオーバンが居たのだった。
11
お気に入りに追加
352
あなたにおすすめの小説
何を間違った?【完結済】
maruko
恋愛
私は長年の婚約者に婚約破棄を言い渡す。
彼女とは1年前から連絡が途絶えてしまっていた。
今真実を聞いて⋯⋯。
愚かな私の後悔の話
※作者の妄想の産物です
他サイトでも投稿しております
魔法学園の悪役令息ー替え玉を務めさせていただきます
オカメ颯記
BL
田舎の王国出身のランドルフ・コンラートは、小さいころに自分を養子に出した実家に呼び戻される。行方不明になった兄弟の身代わりとなって、魔道学園に通ってほしいというのだ。
魔法なんて全く使えない抗議したものの、丸め込まれたランドルフはデリン大公家の公子ローレンスとして学園に復学することになる。無口でおとなしいという触れ込みの兄弟は、学園では悪役令息としてわがままにふるまっていた。顔も名前も知らない知人たちに囲まれて、因縁をつけられたり、王族を殴り倒したり。同室の相棒には偽物であることをすぐに看破されてしまうし、どうやって学園生活をおくればいいのか。混乱の中で、何の情報もないまま、王子たちの勢力争いに巻き込まれていく。
御機嫌ようそしてさようなら ~王太子妃の選んだ最悪の結末
Hinaki
恋愛
令嬢の名はエリザベス。
生まれた瞬間より両親達が創る公爵邸と言う名の箱庭の中で生きていた。
全てがその箱庭の中でなされ、そして彼女は箱庭より外へは出される事はなかった。
ただ一つ月に一度彼女を訪ねる5歳年上の少年を除いては……。
時は流れエリザベスが15歳の乙女へと成長し未来の王太子妃として半年後の結婚を控えたある日に彼女を包み込んでいた世界は崩壊していく。
ゆるふわ設定の短編です。
完結済みなので予約投稿しています。
【R18】【Bl】魔力のない俺は今日もイケメン絶倫幼馴染から魔力をもらいます
ペーパーナイフ
BL
俺は猛勉強の末やっと魔法高校特待生コースに入学することができた。
安心したのもつかの間、魔力検査をしたところ魔力適性なし?!
このままでは学費無料の特待生を降ろされてしまう…。貧乏な俺にこの学校の学費はとても払えない。
そんなときイケメン幼馴染が魔力をくれると言ってきて…
魔力ってこんな方法でしか得られないんですか!!
注意
無理やり フェラ 射精管理 何でもありな人向けです
リバなし 主人公受け 妊娠要素なし
後半ほとんどエロ
ハッピーエンドになるよう努めます
出戻り聖女はもう泣かない
たかせまこと
BL
西の森のとば口に住むジュタは、元聖女。
男だけど元聖女。
一人で静かに暮らしているジュタに、王宮からの使いが告げた。
「王が正室を迎えるので、言祝ぎをお願いしたい」
出戻りアンソロジー参加作品に加筆修正したものです。
ムーンライト・エブリスタにも掲載しています。
表紙絵:CK2さま
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる