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65 忍び寄るサーシャリア

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*女性との絡みがありますが未遂です。すぐに終わります。








 サーシャリアはぎりしと音をたてベッドの縁に腰を下ろすと、その細い指で春輝の頬を軽く撫でた。

「ふふ、ぐっすりね」

 春輝が起きないとわかると、サーシャリアは体を全てベッドの上に乗り上げる。

「本当にお顔が素敵だわ。それにこの世界にはない肌の色……あの躾のなっていない目障りな子供さえ消せば簡単に手に入ると思っていたけれど、まさか気鬱になるなんて」

 いちかのことを言われ、春輝は思わずサーシャリアを問い詰めたくなるが、それをぐっと堪えるしかなかった。

「でも、今日の姿は良かったわ。すっかり回復しているのなら、可愛がってあげなくちゃ」

 サーシャリアは夜着の裾を捲し上げ春輝に跨ると、春輝の纏うシャツの上から艶かしく体を撫で上げ始める。
 それは次第にシャツをはだけさせ、地肌に直接手を這わされ始めた。
 ガベルトゥスとは違う、細くヒヤリとする手が体の凹凸を確かめるように、ゆっくりと這う。
 あまりの気持ち悪さにぞわりと肌が粟立つが、サーシャリアはそれを良い反応と受け入れたようで、手を止めることはない。

「王女と勇者、素敵だわ。普段はつれないけれど、既成事実さえあれば……ふふふ、流石に逃げられないでしょう」

 サーシャリアが腰を緩くくねらせ始めれば、春輝の嫌悪感は最高潮に達する。
 一思いに首を掻っ切り殺してしまいたいほどだ。隣室に居るはずのガベルトゥス達は、この状況をわかっているはずなのに未だに春輝を助けようとはしない。
 なにかまだあるのだろうと思うが、いよいよ下履きにまで手を掛けられそうになれば、春輝が耐え切れるはずがなかった。

 ピクリと春輝が手を動かした直後、サーシャリアの体から力が抜けどさりと春輝に覆いかぶさってきた。

「ぐっっ」

 突然の圧迫感に目を開ければ、トビアスが立っており、すぐにサーシャリアは春輝の上から退かされる。
 グッタリとしているサーシャリアは、どうやらトビアスが気絶させたようだった。

「楽しめたか? ハルキ」
「そう見えるか? クソみたいな気分だ」

 揶揄うように部屋に入ってきたガベルトゥスに、春輝は側にあった枕を力一杯投げつける。
 元々体力が尽き掛けて入る春輝の力ではガベルトゥスまで届かず、ぽすんと床に落ちてしまう。
 舌打ちし眉根を限界まで寄せた春輝を宥めるようにガベルトゥスが頭を撫でてくる。

「なんで早く入ってこなかった」
「そのお陰でいちかを殺した相手がわかっただろう?」
「にしてもだ。それで、ソレどうするんだ」

 気絶しているサーシャリアに目を向けた春輝に、トビアスが扉の方を見遣る。

「丁度いい者が来ました。お二人はお静かに」

 そう言うとトビアスはサーシャリアを抱えながら器用に扉を開け廊下へと出る。
 数歩も歩かない内に、トビアスが索敵で見ていた人物が暗がりから姿を現した。

「おや、ホッパー卿……それに殿下? どうされたのですか」
「ハルキ殿の部屋に無断で入り込み、寝台に上がろうとしておりましたので気絶させました」
「それはまた……」

 既に夜着に着替えていてもいい時間だと言うのに、ジェンツは未だに法衣を纏っている。
 渋面をしたジェンツは呆れたようにサーシャリアを見た。

「猊下はなぜこちらに?」
「ハルキ様のお加減を確かめようかと思いまして」
「先程ようやく寝入ったばかりですので、明日にしては頂けませんか。このようなこともありましたので」

 チラリとトビアスがサーシャリアを見れば、仕方がないとばかりにジェンツは首を振る。

「ハルキ様に異変がないのなら良いのですよ。あぁ、殿下を部屋までお連れしなければなりませんね」

 トビアスはジェンツを伴い、サーシャリアに与えられた部屋まで行く。
 一体護衛はなにをしていたのかと腹が立つが、きっと彼らもサーシャリアのこの短絡的な行動を止めはしなかったのだろう。
 なにより一番側に侍るサイモンは、サーシャリアの忠実なる犬だ。
 そう考えればトビアスも当てはまることではあるのだが、盲信的に苦言も呈しもしない犬は駄犬でしかない。

「殿下の行動を止めもしないとはな」

 トビアスがサーシャリアをサイモンに手渡しながらそう言えば、きっと睨まれるがトビアスにとってそんなものなど威嚇にすらなりはしない。

「猊下、サーシャリア殿下のお体を見て頂いても宜しいでしょうか? 勇者様に無体を働かれたかもしれませんので」
「その前に私が止めた」
「本当にそうだかわからないだろう? 猊下に確認頂ければ安心だ」
「わかりました、ではお二人は外へお願い致します」

 ジェンツは二人を外に追い出したあと、不愉快そうに眠るサーシャリアを見つめた。

「私の勇者の体を暴こうなど……この売女が」

 サーシャリアを見るジェンツの顔は、そのまま殺してしまいそうなほどに酷く凶悪に歪んでいた。


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