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64 新しい配下
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部屋に入れば漸く全ての力が体から抜け、春輝はグッタリと降ろされたソファに体を預けていた。
その姿は暫く見ない間に一回りは小さくなったように見える。
「見ない間にやつれたな」
当然のように隣りに腰を下ろしてきたガベルトゥスは、未だ顔色の悪い春輝の頬を撫でた。
その肌はかさつき、やはり状態がいいとは言い難いものだ。
「なんで魔王様がこんなところにいるんだよ」
気怠げに添えられた手を退けた春輝は、じろりとガベルトゥスを見る。突然現れた理由を話せと促され、ガベルトゥスはやれやれと言ったふうに苦笑した。
久しぶりの再会に甘やかな歓迎を期待しなかった訳ではないが、相変わらずの態度にそれも春輝の持ち味なのだと堪能する。
下手に甘やかしい物など、すぐに消えてなくなると知っているからだ。
「言っただろう、暫く離れると。準備が整ったから戻ってきただけさ。なんだ嬉しくないのか?」
グッタリとし、あからさまな拒否をされないことをいいことに、ガベルトゥスは春輝の腰を引き寄せ髪を弄ぶ。
不機嫌さを隠しもしない春輝だが、預けてくる体の重さに気を許しているのがわかり、ガベルトゥスの笑みは止まらない。
「なんの準備だ」
「お前と一緒に王都に行く準備と、そうだなハンネスを消す準備だ」
わからないと言ったふうの春輝に、ガベルトゥスは控えていた侍従を呼び寄せた。
スラリと伸びた背に、人好きするような柔らかさを持つ笑みをする侍従は、春輝の前に出て来ると膝をつき頭を下げた。
「お初にお目にかかります、勇者ハルキ様。トゥーラ・アブロッシェと申します」
「俺以前の魔王が作った半魔の一族がいたのを思い出してな、手駒に加えたのさ。」
「半魔……?」
魔族は人を誘惑し、時に享楽の一環として人と交わることがある。だが種族が違う物同士、本来であれば子はできないはずだった。
なににでも例外があるように、ある時魔族の子を孕んだ人間が出てきたのだ。
なんとしても王都の結界を突破したかった時の魔王は、時間をかけその半魔の人間を増やしていく。
しかしことはそう上手くは運ばず、魔族の血が濃過ぎるが故に、作られた半魔達は王都へと入ることができなかった。
魔王が討伐され彼ら半魔の存在は忘れ去られたが、上手く隠れすみながら人間の血を引き入れ薄めつつ、魔族としての力も濃くしていったのだと言う。
「我が一族は魔族を潰す機会をずっと窺っていたのです。陛下が我が一族の元へ来た時は警戒致しましたが、事情を伺えば納得いたしまして。陛下の配下に加わることにしたのです」
にこやかに話すトゥーラには、嘘偽りがないようだった。
魔族への怒りもあるが、人間に対しての怒りもあるという。北の辺境はオーグリエ王国の流刑地も兼ねている過酷な地だ。
魔族と人間への恨みを持った彼ら半魔の一族は、まさしくガベルトゥスの新たな配下に相応しいと言えた。
「王都の結界を壊すために、中で動ける兵は必要だろう? 勇者とその犬だと偵察には向かないからな」
「確かにな。それで、ハンネスってのは?」
聞いた覚えのない名前にガベルトゥスに春輝が問い掛ければ、呆れたような目で見られる。
「それも覚えてないから。ハンネスは俺の側近だったやつだ。俺を殺す時にいただろう」
「あぁ、トビアスがやったやつか。側近を消す理由は?」
「あれは俺を裏切るからな。今日の魔獣の襲撃は俺の指示ではない。それに新たに作り出せと俺はアレに指示を出してないんだ。それを勝手に作り出し動かして、襲撃先はここだろう? 早めに首はすげ替えていた方がいいに決まってる」
視線をトゥーラに向ければ、ニンマリとした笑みを浮かべ小さく頷かれた。
首のすげ替え先はどうやらこの目の前のトゥーラらしい。
春輝にとって魔族のいざこざなど興味のないことこの上ない。ガベルトゥスが使えると判断を下し側に置くのなら、それなりに価値があるのだろう。
だか気に入らないことがあるとすれば、いくら使える配下を揃えるためとは言え、春輝の前に長らく姿を見せなかったと言う点だ。
それに加えて、聖剣とジェンツからの魔力で具合の悪さは限界だと言うのに、いつまで経っても魔力を寄越さないガベルトゥスに苛立ってしまう。
「ガイル、そろそろ魔力を寄越せ」
「焦らせば可愛いおねだりが聞けると思ったんだがな」
「そんな気色の悪いことがお望みなら別のやつのとこれへ行け」
「まったく俺の勇者はつれないな」
二人が唇を合わせようとしたその時、誰かが春輝の部屋へと向かってくることに気が付いたトビアスにより二人の行動は制された。
誰がなにをしに来たのか確かめようと、悪戯を思いついた意地悪い笑みを浮かべたガベルトゥスによって春輝はベッドに寝かされてしまい、ガベルトゥス達はそのまま続きになっている扉から、トビアスの部屋へと姿を向かっていった。
軽く舌打ちをした春輝だったが、ガベルトゥスの言うように誰がなんの用があってこの部屋まで来るのか興味をそそられた春輝は、目を瞑りそのまま寝たふりをする。
暫くするとカチャリと静かに扉が開く音が聞こえ、衣擦れの音がベッドの横で止まる。
薄めでその姿を確認すれば、そこにいたのはサーシャリアだった。
その姿は暫く見ない間に一回りは小さくなったように見える。
「見ない間にやつれたな」
当然のように隣りに腰を下ろしてきたガベルトゥスは、未だ顔色の悪い春輝の頬を撫でた。
その肌はかさつき、やはり状態がいいとは言い難いものだ。
「なんで魔王様がこんなところにいるんだよ」
気怠げに添えられた手を退けた春輝は、じろりとガベルトゥスを見る。突然現れた理由を話せと促され、ガベルトゥスはやれやれと言ったふうに苦笑した。
久しぶりの再会に甘やかな歓迎を期待しなかった訳ではないが、相変わらずの態度にそれも春輝の持ち味なのだと堪能する。
下手に甘やかしい物など、すぐに消えてなくなると知っているからだ。
「言っただろう、暫く離れると。準備が整ったから戻ってきただけさ。なんだ嬉しくないのか?」
グッタリとし、あからさまな拒否をされないことをいいことに、ガベルトゥスは春輝の腰を引き寄せ髪を弄ぶ。
不機嫌さを隠しもしない春輝だが、預けてくる体の重さに気を許しているのがわかり、ガベルトゥスの笑みは止まらない。
「なんの準備だ」
「お前と一緒に王都に行く準備と、そうだなハンネスを消す準備だ」
わからないと言ったふうの春輝に、ガベルトゥスは控えていた侍従を呼び寄せた。
スラリと伸びた背に、人好きするような柔らかさを持つ笑みをする侍従は、春輝の前に出て来ると膝をつき頭を下げた。
「お初にお目にかかります、勇者ハルキ様。トゥーラ・アブロッシェと申します」
「俺以前の魔王が作った半魔の一族がいたのを思い出してな、手駒に加えたのさ。」
「半魔……?」
魔族は人を誘惑し、時に享楽の一環として人と交わることがある。だが種族が違う物同士、本来であれば子はできないはずだった。
なににでも例外があるように、ある時魔族の子を孕んだ人間が出てきたのだ。
なんとしても王都の結界を突破したかった時の魔王は、時間をかけその半魔の人間を増やしていく。
しかしことはそう上手くは運ばず、魔族の血が濃過ぎるが故に、作られた半魔達は王都へと入ることができなかった。
魔王が討伐され彼ら半魔の存在は忘れ去られたが、上手く隠れすみながら人間の血を引き入れ薄めつつ、魔族としての力も濃くしていったのだと言う。
「我が一族は魔族を潰す機会をずっと窺っていたのです。陛下が我が一族の元へ来た時は警戒致しましたが、事情を伺えば納得いたしまして。陛下の配下に加わることにしたのです」
にこやかに話すトゥーラには、嘘偽りがないようだった。
魔族への怒りもあるが、人間に対しての怒りもあるという。北の辺境はオーグリエ王国の流刑地も兼ねている過酷な地だ。
魔族と人間への恨みを持った彼ら半魔の一族は、まさしくガベルトゥスの新たな配下に相応しいと言えた。
「王都の結界を壊すために、中で動ける兵は必要だろう? 勇者とその犬だと偵察には向かないからな」
「確かにな。それで、ハンネスってのは?」
聞いた覚えのない名前にガベルトゥスに春輝が問い掛ければ、呆れたような目で見られる。
「それも覚えてないから。ハンネスは俺の側近だったやつだ。俺を殺す時にいただろう」
「あぁ、トビアスがやったやつか。側近を消す理由は?」
「あれは俺を裏切るからな。今日の魔獣の襲撃は俺の指示ではない。それに新たに作り出せと俺はアレに指示を出してないんだ。それを勝手に作り出し動かして、襲撃先はここだろう? 早めに首はすげ替えていた方がいいに決まってる」
視線をトゥーラに向ければ、ニンマリとした笑みを浮かべ小さく頷かれた。
首のすげ替え先はどうやらこの目の前のトゥーラらしい。
春輝にとって魔族のいざこざなど興味のないことこの上ない。ガベルトゥスが使えると判断を下し側に置くのなら、それなりに価値があるのだろう。
だか気に入らないことがあるとすれば、いくら使える配下を揃えるためとは言え、春輝の前に長らく姿を見せなかったと言う点だ。
それに加えて、聖剣とジェンツからの魔力で具合の悪さは限界だと言うのに、いつまで経っても魔力を寄越さないガベルトゥスに苛立ってしまう。
「ガイル、そろそろ魔力を寄越せ」
「焦らせば可愛いおねだりが聞けると思ったんだがな」
「そんな気色の悪いことがお望みなら別のやつのとこれへ行け」
「まったく俺の勇者はつれないな」
二人が唇を合わせようとしたその時、誰かが春輝の部屋へと向かってくることに気が付いたトビアスにより二人の行動は制された。
誰がなにをしに来たのか確かめようと、悪戯を思いついた意地悪い笑みを浮かべたガベルトゥスによって春輝はベッドに寝かされてしまい、ガベルトゥス達はそのまま続きになっている扉から、トビアスの部屋へと姿を向かっていった。
軽く舌打ちをした春輝だったが、ガベルトゥスの言うように誰がなんの用があってこの部屋まで来るのか興味をそそられた春輝は、目を瞑りそのまま寝たふりをする。
暫くするとカチャリと静かに扉が開く音が聞こえ、衣擦れの音がベッドの横で止まる。
薄めでその姿を確認すれば、そこにいたのはサーシャリアだった。
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