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63 四面楚歌

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 思わずしかめっ面を返す春輝に対し、ガベルトゥスはにやにやと笑みを返すばかり。考えることが面倒臭くなった春輝は、溜息を吐くと再び魔獣達との戦闘に戻った。
 ガベルトゥスが戦闘に加わったことにより、あっという間にことは片付く。トビアスもガベルトゥスの登場に目を零れんばかりに見開いていた。

 魔獣達を一掃した後、一同は屋敷へとまた列を成して帰る。そこにガベルトゥスも当然のように着いてきた。
 ガベルトゥスに付き従って来たのだろう、数人の従者も一緒だ。彼らは皆一様に肌が白く、目も榛色だ。
 魔族だろうかと考えが過るが、それにしては人間に近過ぎ気がして春輝は首を捻る。

「お二人は仲が大変宜しいのですね」

 トビアスと共に馬に跨っていれば、一瞬心底嫌そうな顔をした。だがすぐさまにこやかにそう言ってきたガベルトゥスに、いつもとは全く違う口調と態度もあいまり、春輝は思わず吹き出しそうになってしまった。

 辺境から来た貴族の端くれとそう名乗ったガベルトゥスは、魔物や魔族からの襲撃が多い辺境の今後のために、魔王を討伐した勇者に戦闘方法の教えを請いに来たのだとサーシャリア達には説明していた。
 正体を知っている春輝とトビアスは何か裏があるのだろうと怪訝に思っていたが、サーシャリアやジェンツ達はそれを信じたようだった。
 晩餐を優雅に取りながら、にこやかに会話を繰り広げるガベルトゥスの姿はなんとも胡散臭いものがある。
 だがこの四面楚歌な状況で、ガベルトゥスがどんな理由があれどこうして真夜中以外にも側に居ると言う状況は安心ができた。

 対して食欲も湧かない中、出てくるフルコースに春輝は辟易としながらも淡々と口に運ぶ。
 香辛料がジャリジャリと口の中で鳴り、ザラつく口内が嫌で水で無理やり飲み下す。
 どれを食べても美味しさを感じなくなったのはいつからだったか。生きるためだけの食事など、例えそれが豪華で贅の限りを尽くした物であっても、美味しいとは感じはしない。

 頭の中がぐらぐらと揺れる感覚に、春輝は思わずガシャンとカトラリーを落としてしまう。途端に食堂に居る全員の視線が春輝に集中し、更に不快感は募った。
 背後に控えたトビアスがすかさず春輝の元に来て、退席することを伝える。春輝の顔色は真っ青になってしまっていた。

「久々の討伐で疲れが出てのでしょう。アレは見たこともない魔獣でしたから……」

 ジェンツは春輝に近づくと、その手を握り治癒を緩くかけてきた。途端にぞわぞわと体内を直接触られた感覚が走り、気持ちの悪さに拍車をかける。
 振り払いたくても春輝にはできなかった。敵であるとわかってはいるが、洗脳状態で尚且つジェンツの善意からの治癒を振り払うなど、勇者のすべきことではない。

 脂汗がじっとりと滲み、堪らずガベルトゥスに助けを求めそうにもなるが、視線を向けるだけになんとか止めた。
 うさぎのぬいぐるみを抱く腕に力を込めてひたすらに耐える時間は、実際の時間よりも長く長く感じる。

「あとはしっかり休まれれば大丈夫でしょう」

 にこりと笑むジェンツの手から、自身の手を引き抜いた春輝は足早に食堂を後にした。
 トビアスに支え慣れながら廊下を進むが、思うように進まない。

「俺が部屋までお連れしましょう」

 不意に背後から掛けられた声に振り返れば、ガベルトゥスが立っていた。すたすたと春輝の側に寄って来れば、手を差し出してくる。
 何も言わずにその手を取れば、そのまま抱き上げられぽすんとガベルトゥスの片腕に春輝は収まった。
 久しぶりの体温と匂いに、春輝が無意識に体から力を抜けば、ガベルトゥスはくつくつと笑いながら春輝を部屋まで連れて行った。

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