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62 魔獣の襲撃2
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魔獣達が這いずりまわった部分がどろりと溶け異臭を放つ。鼻先を掠めるキツイ臭いに春輝はえづきそうになってしまう。
こんな物早く倒してしまいたいと、膨大な魔力を聖剣からもらい受け何度も剣を振るう。だが何度突き刺しても、目の前の魔獣達が死ぬことはなかった。まるでゾンビだ。
何度か剣を振るい、ゾンビがどうやって死ぬかを思い出した春輝は、脳幹めがけて突き刺すように剣を振るい始める。
一度では聞く気配がなかったが、何度か狙いを定めて攻撃し続ければ、明らかに弱っていくのがわかった。
トビアスは本来は身軽に動けるにも関わらず、必死に動きを鈍くさせ魔獣を相手にしている。ドラゴンの能力が使えない今、騎士としての力をできる限り使い、春輝の戦闘を横目で見ていたのか、トビアスも魔獣の脳幹を狙い始めた。
後ろを見れば、戦闘に参加する気がない騎士達が安全な離れた場所からこちらを見ているばかり。
世間的には戦力になりえないトビアスと二人、魔獣達の真っただ中で戦わせているのだ。お前達の世界のことだろうに、と沸々と怒りが湧き上がってきた春輝は、敢えて一匹見逃し安全だと思い込んでいる者達の方へそれとわからないように誘導した。
途端に後方から上がる悲鳴を聞き、春輝は鼻で笑う。少しは焦ればいいのだ。
「ある程度したら止めに入らないとバレてしまいますよ」
「……あれぐらいすぐ倒せよな。教会の騎士はともかく、王宮の騎士だろ」
「残念なことに今の王宮の騎士達では、この魔物を倒すのは無理でしょう」
「とんだ体たらくだな」
トビアスからの忠告に春輝は小さく舌打ちをし、後方に逃がした魔獣を追った。剣に魔法で炎を纏わせ、魔獣の首の部分を力強く刎ね飛ばす。勿論嫌がらせの意味を込めて、サーシャリアのドレスの前に落ちるようにだ。
弧を描いた生首はどしゃりと鈍い音を立てて、春輝の目論見通りにサーシャリア達の前へと落ちた。
「ひぃいっ!」
「飛ばす方向を考えろ! それでも勇者か!」
サーシャリアの側に立っていたサイモンが、春輝に向かって声を張り上げてくるが、春輝はそれに一瞥するだけしてトビアスの元へと戻ろうとし踵を返す。
だが刎ね飛ばしたはずの魔獣の首がもぞもぞと僅かに動いたのを、春輝は見逃さなかった。このまま放っておけば確実に生首にやられる。放っておいてもいいのではないだろうか、これは事故だ。
何も気が付いてはいない風を装いながら春輝はトビアスの元へ戻ろうとした。するとまたもや背後から叫び声が聞こえる。
死にはしないまでも重症くらいにはなってらいいのにと振り返れば、目にした光景に春輝は目を疑った。
そこに居たのは、日の光が当たりより一層に髪を赤々と燃えさせるように靡かせたガベルトゥスだったからだ。
サーシャリアの側で蠢き今にも周りの者達を食い殺そうと牙を剥いていた生首めがけ、大きく幅が太めの剣を振るう。
ガベルトゥスはいつも羽織っているローブではなく、貴族が着るような豪華な衣服を身に纏っていて、その姿と剣がなんともミスマッチだった。
生首を細切れにし魔法で燃したガベルトゥスは、サーシャリア達に向かって礼を取る。
「王家、それと神殿の方々ですね。危ないですのでもっと下がった方がよろしいかと」
「た、助かった。ところで貴殿は……」
「北の辺境を賜っております、ガイル・サウザーでございます」
「まぁ、北の。剣が扱えますのね、助かりましたわ」
「辺境はよく出ますので」
春輝がその姿にあっけに取られていれば、悪戯が成功したと言うようにニヤリと笑まれる。
「俺も助太刀いたしますよ、勇者様」
こんな物早く倒してしまいたいと、膨大な魔力を聖剣からもらい受け何度も剣を振るう。だが何度突き刺しても、目の前の魔獣達が死ぬことはなかった。まるでゾンビだ。
何度か剣を振るい、ゾンビがどうやって死ぬかを思い出した春輝は、脳幹めがけて突き刺すように剣を振るい始める。
一度では聞く気配がなかったが、何度か狙いを定めて攻撃し続ければ、明らかに弱っていくのがわかった。
トビアスは本来は身軽に動けるにも関わらず、必死に動きを鈍くさせ魔獣を相手にしている。ドラゴンの能力が使えない今、騎士としての力をできる限り使い、春輝の戦闘を横目で見ていたのか、トビアスも魔獣の脳幹を狙い始めた。
後ろを見れば、戦闘に参加する気がない騎士達が安全な離れた場所からこちらを見ているばかり。
世間的には戦力になりえないトビアスと二人、魔獣達の真っただ中で戦わせているのだ。お前達の世界のことだろうに、と沸々と怒りが湧き上がってきた春輝は、敢えて一匹見逃し安全だと思い込んでいる者達の方へそれとわからないように誘導した。
途端に後方から上がる悲鳴を聞き、春輝は鼻で笑う。少しは焦ればいいのだ。
「ある程度したら止めに入らないとバレてしまいますよ」
「……あれぐらいすぐ倒せよな。教会の騎士はともかく、王宮の騎士だろ」
「残念なことに今の王宮の騎士達では、この魔物を倒すのは無理でしょう」
「とんだ体たらくだな」
トビアスからの忠告に春輝は小さく舌打ちをし、後方に逃がした魔獣を追った。剣に魔法で炎を纏わせ、魔獣の首の部分を力強く刎ね飛ばす。勿論嫌がらせの意味を込めて、サーシャリアのドレスの前に落ちるようにだ。
弧を描いた生首はどしゃりと鈍い音を立てて、春輝の目論見通りにサーシャリア達の前へと落ちた。
「ひぃいっ!」
「飛ばす方向を考えろ! それでも勇者か!」
サーシャリアの側に立っていたサイモンが、春輝に向かって声を張り上げてくるが、春輝はそれに一瞥するだけしてトビアスの元へと戻ろうとし踵を返す。
だが刎ね飛ばしたはずの魔獣の首がもぞもぞと僅かに動いたのを、春輝は見逃さなかった。このまま放っておけば確実に生首にやられる。放っておいてもいいのではないだろうか、これは事故だ。
何も気が付いてはいない風を装いながら春輝はトビアスの元へ戻ろうとした。するとまたもや背後から叫び声が聞こえる。
死にはしないまでも重症くらいにはなってらいいのにと振り返れば、目にした光景に春輝は目を疑った。
そこに居たのは、日の光が当たりより一層に髪を赤々と燃えさせるように靡かせたガベルトゥスだったからだ。
サーシャリアの側で蠢き今にも周りの者達を食い殺そうと牙を剥いていた生首めがけ、大きく幅が太めの剣を振るう。
ガベルトゥスはいつも羽織っているローブではなく、貴族が着るような豪華な衣服を身に纏っていて、その姿と剣がなんともミスマッチだった。
生首を細切れにし魔法で燃したガベルトゥスは、サーシャリア達に向かって礼を取る。
「王家、それと神殿の方々ですね。危ないですのでもっと下がった方がよろしいかと」
「た、助かった。ところで貴殿は……」
「北の辺境を賜っております、ガイル・サウザーでございます」
「まぁ、北の。剣が扱えますのね、助かりましたわ」
「辺境はよく出ますので」
春輝がその姿にあっけに取られていれば、悪戯が成功したと言うようにニヤリと笑まれる。
「俺も助太刀いたしますよ、勇者様」
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