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57 依存先2
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なにかに依存しなければ生きていけない己にほとほと呆れ果てる春輝だが、そうしてなにかに縋るらなければ生きていくことが辛い人生だった。
うさぎのぬいぐるみもその一つで、いちかの変わりとして常に持ち歩いているが、それはあくまで代わりでしかない。ぬいぐるみは言葉を発しないし、なにも春輝には答えてはくれないのだ。
だがガベルトゥスはいつだって春輝を悪夢から救い上げ、歪んだ感情であろうとも春輝を求めてくる。
その感情に春輝はいつも満たされるのだ。そして同時に、同じくらい歪な形をした物であってもガベルトゥスなら受け止めてくれるとわかっている。それがどれだけ心地が良いか。
恋人を助けるために魔獣すら食らい、恋人を奪われれば魔王にすらなる。普通の人間であったなら、そこまでのことは決してできはしないだろう。
春輝にはそのガベルトゥスの行動は理解ができるし、もし気鬱に陥らず魔力の得方を知っていれば同じ行動を取っていたはずだ。
お互いでなければ駄目なのだとハッキリとわかる。そのことがどれだけ心地がいいか。
恋愛を経験したことはないしする気もなかった春輝だが、対象になるのは女性であるだろうと思っていた。しかしそれがまさか男性で、しかも歳が離れた既に人間ですらない者とこんな関係になろうとは。
始まりから歪ではあるが、しかし普通を歩んで来なかった春輝には相応しくも思えてしまう。泣き止んだかと思えばくすくすと笑い出した春輝に、ガベルトゥスは怪訝な顔をする。
「俺だけの魔王か、悪くない」
ニヤリと春輝が笑えば、ガベルトゥスは喜色を浮かべ、満足そうに頷いた。
「悪くないだろう? そしてお前なら、共にこの国を壊してくれる、そうだろうハルキ」
愉しげに発せられたガベルトゥスの言葉は愛の言葉ではないが、それすらも春輝には好ましい。
「ハルキ殿、そろそろ戻りましょう」
周りを警戒していたトビアスが、僅かに後方を見ながら言ってくる。
時間切れかと辺りを見れば、遠くの空が僅かに明るくなっていた。あともう少しすれば、メイド達が起きてくる時間だ。
「さて、俺も戻る。それと、暫くここには来れなくなるからな、魔力はトビアス。お前が春輝に与えろ」
「おい待て、俺はあんなことトビアスとするつもりはないぞ」
一瞬何を言われているのかわからないと言った風に首を顎髭を撫でたガベルトゥスだったが、すぐにそのことに思い至ったようだ。
「本来、魔力譲渡は体の一部を触れればいいだけだ。すなわち、手を握るだけでもいい」
「は? お前……じゃあなんであんなことしてきたんだ」
「言っただろう、そう言う意味でも興味があると」
「……そうかよ」
ニヤリとと笑うガベルトゥスに春輝は呆れて言い返すことを諦めた。
肩をすくめた春輝の頭をぐしゃりと撫でるガベルトゥスを睨めば、そこには先程とは違う色を宿した瞳があった。
「本当であれば、お前にトビアスの魔力を混ぜたくはないんだ、わかるだろう? だが仕方ない。お前に入れられた新たな核はそれほどに強い」
心底嫌そうに、嫉妬を滲ませながらそう話すガベルトゥスに、春輝は苦笑してしまう。力がある魔王である男がこれほど感情を露わにしているのは愉快だ。
「トビアス、忠実なる番犬よ。頼んだぞ」
「はい、陛下」
ガベルトゥスはそうトビアスに声を掛けると、フッと姿を霧に変え消えてしまう。牽制ともとれる最後の発言に春輝が苦笑を漏らせば、トビアスも同じ反応をする。
「まさかハルキ殿が陛下の寵愛を賜るとは。あの頃からは想像できません。随分と遠くに来てしまった気さえします」
「確かにな。俺もそうだが騎士らしいお前が、俺に着いて尚且つドラゴンになるとは、誰も想像できないだろ」
「えぇ、本当に。昔の私では考えられないでしょう。でも楽しくもあるのです。自身の変化が。しかし同時に寂しくもあるのです。お二人は仲睦まじさを見ていると」
寂しげに笑うトビアスを春輝はじっと見つめた。思えばトビアスも難儀な性格であり、ある意味で歪んでいる。
騎士の中の騎士と言えるトビアスは、忠誠先がなければ生きてはいけない類の人間だ。
忠誠を捧げる人間はいくらでもいるが、自身が人間を辞めてまで忠義に厚い人間などトビアスを除いては存在しないだろう。
「俺のドラゴン。いつか真の姿をみせてくれよ、楽しみなんだ」
春輝がそいた言ってやればトビアスは嬉しそうに顔を綻ばせ、大きな体で土の上へと躊躇いなく膝をつく。
「その時は一番に真の姿を見せましょう、我が主」
仰々しく言うトビアスは濁った瞳で笑う。誰も彼もが歪んでいて、それが酷く居心地がよかった。
うさぎのぬいぐるみもその一つで、いちかの変わりとして常に持ち歩いているが、それはあくまで代わりでしかない。ぬいぐるみは言葉を発しないし、なにも春輝には答えてはくれないのだ。
だがガベルトゥスはいつだって春輝を悪夢から救い上げ、歪んだ感情であろうとも春輝を求めてくる。
その感情に春輝はいつも満たされるのだ。そして同時に、同じくらい歪な形をした物であってもガベルトゥスなら受け止めてくれるとわかっている。それがどれだけ心地が良いか。
恋人を助けるために魔獣すら食らい、恋人を奪われれば魔王にすらなる。普通の人間であったなら、そこまでのことは決してできはしないだろう。
春輝にはそのガベルトゥスの行動は理解ができるし、もし気鬱に陥らず魔力の得方を知っていれば同じ行動を取っていたはずだ。
お互いでなければ駄目なのだとハッキリとわかる。そのことがどれだけ心地がいいか。
恋愛を経験したことはないしする気もなかった春輝だが、対象になるのは女性であるだろうと思っていた。しかしそれがまさか男性で、しかも歳が離れた既に人間ですらない者とこんな関係になろうとは。
始まりから歪ではあるが、しかし普通を歩んで来なかった春輝には相応しくも思えてしまう。泣き止んだかと思えばくすくすと笑い出した春輝に、ガベルトゥスは怪訝な顔をする。
「俺だけの魔王か、悪くない」
ニヤリと春輝が笑えば、ガベルトゥスは喜色を浮かべ、満足そうに頷いた。
「悪くないだろう? そしてお前なら、共にこの国を壊してくれる、そうだろうハルキ」
愉しげに発せられたガベルトゥスの言葉は愛の言葉ではないが、それすらも春輝には好ましい。
「ハルキ殿、そろそろ戻りましょう」
周りを警戒していたトビアスが、僅かに後方を見ながら言ってくる。
時間切れかと辺りを見れば、遠くの空が僅かに明るくなっていた。あともう少しすれば、メイド達が起きてくる時間だ。
「さて、俺も戻る。それと、暫くここには来れなくなるからな、魔力はトビアス。お前が春輝に与えろ」
「おい待て、俺はあんなことトビアスとするつもりはないぞ」
一瞬何を言われているのかわからないと言った風に首を顎髭を撫でたガベルトゥスだったが、すぐにそのことに思い至ったようだ。
「本来、魔力譲渡は体の一部を触れればいいだけだ。すなわち、手を握るだけでもいい」
「は? お前……じゃあなんであんなことしてきたんだ」
「言っただろう、そう言う意味でも興味があると」
「……そうかよ」
ニヤリとと笑うガベルトゥスに春輝は呆れて言い返すことを諦めた。
肩をすくめた春輝の頭をぐしゃりと撫でるガベルトゥスを睨めば、そこには先程とは違う色を宿した瞳があった。
「本当であれば、お前にトビアスの魔力を混ぜたくはないんだ、わかるだろう? だが仕方ない。お前に入れられた新たな核はそれほどに強い」
心底嫌そうに、嫉妬を滲ませながらそう話すガベルトゥスに、春輝は苦笑してしまう。力がある魔王である男がこれほど感情を露わにしているのは愉快だ。
「トビアス、忠実なる番犬よ。頼んだぞ」
「はい、陛下」
ガベルトゥスはそうトビアスに声を掛けると、フッと姿を霧に変え消えてしまう。牽制ともとれる最後の発言に春輝が苦笑を漏らせば、トビアスも同じ反応をする。
「まさかハルキ殿が陛下の寵愛を賜るとは。あの頃からは想像できません。随分と遠くに来てしまった気さえします」
「確かにな。俺もそうだが騎士らしいお前が、俺に着いて尚且つドラゴンになるとは、誰も想像できないだろ」
「えぇ、本当に。昔の私では考えられないでしょう。でも楽しくもあるのです。自身の変化が。しかし同時に寂しくもあるのです。お二人は仲睦まじさを見ていると」
寂しげに笑うトビアスを春輝はじっと見つめた。思えばトビアスも難儀な性格であり、ある意味で歪んでいる。
騎士の中の騎士と言えるトビアスは、忠誠先がなければ生きてはいけない類の人間だ。
忠誠を捧げる人間はいくらでもいるが、自身が人間を辞めてまで忠義に厚い人間などトビアスを除いては存在しないだろう。
「俺のドラゴン。いつか真の姿をみせてくれよ、楽しみなんだ」
春輝がそいた言ってやればトビアスは嬉しそうに顔を綻ばせ、大きな体で土の上へと躊躇いなく膝をつく。
「その時は一番に真の姿を見せましょう、我が主」
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