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49 マルコムの両親
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警戒心を滲ませたトビアスだったが、夫婦二人の憔悴しきったような表情や雰囲気に少しばかり警戒心を解く。
女性は小柄で目の下には隈が色濃くできており、血の気もない。男性も貴族にしては珍しく服のサイズがあっていないように思えた。
「突然お声がけして申し訳ありません、私はナサニエル・オットー。こちらは妻のリーリアです」
マルコムの名前を聞き、興味なさげに対応をトビアスに任せていた春輝は僅かに目を見開いた。よく見ればリーリアと呼ばれた女性は、マルコムに似ている。二人がマルコムの両親だと言うことは間違いなさそうだった。
「ハルキ殿、どうなさいますか」
「話を聞こう、なにかあるんだろ?」
そう春輝が答えれば、明らかにほっとしたようにナサニエルとリーリアは胸を撫でおろしていた。
二人を連れ、宿屋に辿り着く。その間二人はきょろきょろと辺りを警戒するようにしていて落ち着かない様子であった。
「なにをそんなに警戒している」
春輝の背後を守るように立つトビアスに問われ、二人はびくりと体を揺らす。
「これからお話することを、誰かに聞かれたらマズいのです。私達がこの場にいることも、勇者様に接触するのも、見つかってしまったら……」
「私達は、マルコムのように殺されてしまうわ」
ガタガタと震えだしたリーリアの肩を引き寄せたナサニエルの顔色も、心なしか悪くなっている。
「マルコムが殺された? 一体誰に」
「それは、わからないのです。ですが息子は、発表されているような病死では決してありません」
「わからないのに殺されたとは、話が飛び過ぎてはいないか」
「あなた、ハッキリ言ったらいいじゃない! あの子は王家に殺されたと!!」
「リーリア!」
「勇者様、私の可愛いマルコムは貴方に乞われて妹君の世話と護衛をしていました。ですがそのせいで……そのせいであの子は妹君を排除したい王家に殺されたのですよ!」
怒りを露わにし興奮したように声を荒げるリーリアをナサニエルは窘めようとするが、リーリアが春輝を睨むことを止めなかった。憎しみが籠った目が春輝に突き刺さる。
「なぜ王家が妹君を排除しようとする?」
「……勇者様を意のままに操りたかったのではないでしょうか。妹君への愛情の深さは噂になっておりましたし、現に妹君を亡くされた勇者様は気鬱になられたとか。それを利用したかったのだと思います」
確かにいちかを殺し気鬱になりはしたが、それが洗脳をより深くするためなのだとしたら納得がいく。
普通であれば殺さず、手なずけ上手く誘導した方がいいのだろうが、初めから核を埋め込まれている春輝にとって、それ以上に手っ取り早かったのだろう。
「あの子は瀕死の状態で家に帰ってきました。背中には大きな刺し傷があって、血が絶えず流れて……でも医者は呼べなかった」
「何故呼ばなかった、子爵家であればお抱えの医師ぐらいいるだろう」
「呼べば、マルコムが生きていることがわかれば、確実に今度は殺されると言われたのです」
「誰に?」
「神官長のオーバン様です」
「オーバン?」
オーバンは瀕死のマルコムを抱え、ナサニエル達の家に突然訪れたのだという。
治癒も出来る限り施し、数日は生き延びていたマルコムだが、過度な治癒を施せる訳もなく、マルコムは息を引き取った。
オーバンはマルコムの死を偽装するために、貧民街の死体を燃やしてからナサニエル達の元にマルコムを連れてきていた。
数日後に病気により療養したが、死亡したという知らせと共に王宮から手紙がと証明のように遺骨が送られて来たのだが、それはオーバンが用意した偽の物。
マルコムの遺体は密かに墓に入れられ、偽の物も人知れず弔われた。
オーバンはしきりに"知られてはいけない、隠し通さなければ"と言っていたらしい。
春輝達が領地へと出立すると密かに知らせてくれたのもオーバンであるらしかった。
無記名の手紙であったが、内容からオーバンで間違い無いと二人は確信し、今か今かと春輝がこの街に来るのを待っていたと言うのだ。
「これがその手紙です」
差し出された手紙の文字は、一見解読が出来ないような文字だった。
それを見たトビアスも眉を顰める。たが書かれている文章には、確かにオーバンであるとわかる内容が認められていた。
「オーバン様はお元気でしょうか、彼の方は恩人です。彼の方まてわ魔の手が伸びてしまったら……」
心苦しそうに言うナサニエルとリーリアに、春輝は何も答えられない。
オーバンは信用に値しないと既に位置付けていたからだ。だが、マルコムへの行動を考えると疑問が湧き上がる。
「まさか、オーバン様も洗脳されているのでは?」
こそりと耳打ちしてきたトビアスの言葉に春輝はその考えになぜ至らなかったのだろうかと思った。
女性は小柄で目の下には隈が色濃くできており、血の気もない。男性も貴族にしては珍しく服のサイズがあっていないように思えた。
「突然お声がけして申し訳ありません、私はナサニエル・オットー。こちらは妻のリーリアです」
マルコムの名前を聞き、興味なさげに対応をトビアスに任せていた春輝は僅かに目を見開いた。よく見ればリーリアと呼ばれた女性は、マルコムに似ている。二人がマルコムの両親だと言うことは間違いなさそうだった。
「ハルキ殿、どうなさいますか」
「話を聞こう、なにかあるんだろ?」
そう春輝が答えれば、明らかにほっとしたようにナサニエルとリーリアは胸を撫でおろしていた。
二人を連れ、宿屋に辿り着く。その間二人はきょろきょろと辺りを警戒するようにしていて落ち着かない様子であった。
「なにをそんなに警戒している」
春輝の背後を守るように立つトビアスに問われ、二人はびくりと体を揺らす。
「これからお話することを、誰かに聞かれたらマズいのです。私達がこの場にいることも、勇者様に接触するのも、見つかってしまったら……」
「私達は、マルコムのように殺されてしまうわ」
ガタガタと震えだしたリーリアの肩を引き寄せたナサニエルの顔色も、心なしか悪くなっている。
「マルコムが殺された? 一体誰に」
「それは、わからないのです。ですが息子は、発表されているような病死では決してありません」
「わからないのに殺されたとは、話が飛び過ぎてはいないか」
「あなた、ハッキリ言ったらいいじゃない! あの子は王家に殺されたと!!」
「リーリア!」
「勇者様、私の可愛いマルコムは貴方に乞われて妹君の世話と護衛をしていました。ですがそのせいで……そのせいであの子は妹君を排除したい王家に殺されたのですよ!」
怒りを露わにし興奮したように声を荒げるリーリアをナサニエルは窘めようとするが、リーリアが春輝を睨むことを止めなかった。憎しみが籠った目が春輝に突き刺さる。
「なぜ王家が妹君を排除しようとする?」
「……勇者様を意のままに操りたかったのではないでしょうか。妹君への愛情の深さは噂になっておりましたし、現に妹君を亡くされた勇者様は気鬱になられたとか。それを利用したかったのだと思います」
確かにいちかを殺し気鬱になりはしたが、それが洗脳をより深くするためなのだとしたら納得がいく。
普通であれば殺さず、手なずけ上手く誘導した方がいいのだろうが、初めから核を埋め込まれている春輝にとって、それ以上に手っ取り早かったのだろう。
「あの子は瀕死の状態で家に帰ってきました。背中には大きな刺し傷があって、血が絶えず流れて……でも医者は呼べなかった」
「何故呼ばなかった、子爵家であればお抱えの医師ぐらいいるだろう」
「呼べば、マルコムが生きていることがわかれば、確実に今度は殺されると言われたのです」
「誰に?」
「神官長のオーバン様です」
「オーバン?」
オーバンは瀕死のマルコムを抱え、ナサニエル達の家に突然訪れたのだという。
治癒も出来る限り施し、数日は生き延びていたマルコムだが、過度な治癒を施せる訳もなく、マルコムは息を引き取った。
オーバンはマルコムの死を偽装するために、貧民街の死体を燃やしてからナサニエル達の元にマルコムを連れてきていた。
数日後に病気により療養したが、死亡したという知らせと共に王宮から手紙がと証明のように遺骨が送られて来たのだが、それはオーバンが用意した偽の物。
マルコムの遺体は密かに墓に入れられ、偽の物も人知れず弔われた。
オーバンはしきりに"知られてはいけない、隠し通さなければ"と言っていたらしい。
春輝達が領地へと出立すると密かに知らせてくれたのもオーバンであるらしかった。
無記名の手紙であったが、内容からオーバンで間違い無いと二人は確信し、今か今かと春輝がこの街に来るのを待っていたと言うのだ。
「これがその手紙です」
差し出された手紙の文字は、一見解読が出来ないような文字だった。
それを見たトビアスも眉を顰める。たが書かれている文章には、確かにオーバンであるとわかる内容が認められていた。
「オーバン様はお元気でしょうか、彼の方は恩人です。彼の方まてわ魔の手が伸びてしまったら……」
心苦しそうに言うナサニエルとリーリアに、春輝は何も答えられない。
オーバンは信用に値しないと既に位置付けていたからだ。だが、マルコムへの行動を考えると疑問が湧き上がる。
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