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47 ドラゴンの鱗
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「ドラゴン?」
「おとぎ話の生き物ではないのですか?」
聖剣から流し込まれた知識の中に、ドラゴンという生き物は存在していなかった。春輝はやはり異世界なのだなと思ったが、この世界の住人であるトビアスすらおとぎ話、想像上の生き物だと思っているような生き物らしい。
図書館で手あたり次第に読んでいた本にも、その存在を記したものは見たことはなかった。であれば本当にそんな存在が存在しているのか疑わしい。
訝し気に春輝がガベルトゥスを見れば、二人の困惑が伝わったのか、説明を始めた。
「はるか昔に絶滅した種族だ。だがその生き残りが一匹隠れ住んでいてな。いざという時のために狩るのをやめていたんだよ。まぁそれを剥ぎ取るために殺したがな?」
「そのドラゴンの鱗があるとどうなるんだ」
「あれを呑めば、あの体が回復することはないが、トビアスは今以上の力を得られる」
――まぁ人間ではなくなるがな? とくつくつと笑いながらガベルトゥスはトビアスを見てきた。
ドラゴンの鱗を呑めば、人ではなくドラゴンへと変化するのだという。魔獣としての最上位に位置づけられるドラゴンは、長寿である上にその魔力量も豊富で、魔法を用いて姿も人の姿を保てるようだった。
「それを呑めば力が手に入る。だが人には過ぎた力だ。寿命も延びる。その鱗の持ち主は千年は生きていたらしいぞ? それでも、お前は春輝に忠誠を誓っていられるか? 人には膨大過ぎる時間だ。それに耐えられる人間は、そうはいないからな」
すっと表情を消し、威圧の放ちながら見てくるガベルトゥスに、トビアスは無意識に後ずさりそうになってしまった。
春輝の側にいるときに見せているような、気安げな雰囲気ではもちろんない。魔王城で見た時よりも格段に増したような威圧に、トビアスの全身は一気に粟立ち冷や汗が止まらない。まるで蛇に睨まれた蛙だ。
ガベルトゥスがここまで圧を掛け、トビアスの覚悟を見ようとしてくるのも、当然のことだろう。人間には手に余る力を持つのだ。
ガベルトゥスが大事にしているとわかる春輝を容易く殺せる力を持ってしまうトビアスを、春輝の側に置くことに迷いもあるのかもしれない。
トビアスは一瞬の迷いののち、春輝の側にいると決め魔王を陛下と呼んでいる時点で後戻りするという選択肢がないことに気が付いた。
悠久の時を生きようが、春輝の力になれるならいいではないかと。瞳に強い意志を宿したトビアスは、手にした鱗を一思いに飲み下した。
体は内側から燃えるように熱くなり、全ての血を吐き出すように夥しい量を痛みで這いつくばった床の上にまき散らす。
春輝は呻き声を上げながらのた打ち回るトビアスを不安げに見るしかなかった。藻掻き苦しみ、赤い血の海に溺れるトビアスの光景は凄まじい。
どうしてここまでしてトビアスが付いてきてくれるのか、春輝には不思議でしょうがない。
「忠誠心熱い犬は便利だろう? アレはお前によく尽くすだろう。不思議そうな顔をしてるが、簡単なことだ。トビアスは真面目過ぎるんだよ。信じていたものが崩れ去り、忠誠のある場所が無くなったところに、当事者である春輝が居れば自然とこうなるだろう。依存先をお前に見出してるのさ、あの犬は」
「……依存先ねぇ」
「春輝の依存先はもう俺だけだろう? でないとお前の復讐が達成される前に噛み殺してその血を啜ってしまうぞ?」
首筋に口を寄せ、軽く噛まれる。尖った犬歯が春輝の薄い肌を貫き、小さな痛みと真っ赤な鮮血を垂らした。
「おとぎ話の生き物ではないのですか?」
聖剣から流し込まれた知識の中に、ドラゴンという生き物は存在していなかった。春輝はやはり異世界なのだなと思ったが、この世界の住人であるトビアスすらおとぎ話、想像上の生き物だと思っているような生き物らしい。
図書館で手あたり次第に読んでいた本にも、その存在を記したものは見たことはなかった。であれば本当にそんな存在が存在しているのか疑わしい。
訝し気に春輝がガベルトゥスを見れば、二人の困惑が伝わったのか、説明を始めた。
「はるか昔に絶滅した種族だ。だがその生き残りが一匹隠れ住んでいてな。いざという時のために狩るのをやめていたんだよ。まぁそれを剥ぎ取るために殺したがな?」
「そのドラゴンの鱗があるとどうなるんだ」
「あれを呑めば、あの体が回復することはないが、トビアスは今以上の力を得られる」
――まぁ人間ではなくなるがな? とくつくつと笑いながらガベルトゥスはトビアスを見てきた。
ドラゴンの鱗を呑めば、人ではなくドラゴンへと変化するのだという。魔獣としての最上位に位置づけられるドラゴンは、長寿である上にその魔力量も豊富で、魔法を用いて姿も人の姿を保てるようだった。
「それを呑めば力が手に入る。だが人には過ぎた力だ。寿命も延びる。その鱗の持ち主は千年は生きていたらしいぞ? それでも、お前は春輝に忠誠を誓っていられるか? 人には膨大過ぎる時間だ。それに耐えられる人間は、そうはいないからな」
すっと表情を消し、威圧の放ちながら見てくるガベルトゥスに、トビアスは無意識に後ずさりそうになってしまった。
春輝の側にいるときに見せているような、気安げな雰囲気ではもちろんない。魔王城で見た時よりも格段に増したような威圧に、トビアスの全身は一気に粟立ち冷や汗が止まらない。まるで蛇に睨まれた蛙だ。
ガベルトゥスがここまで圧を掛け、トビアスの覚悟を見ようとしてくるのも、当然のことだろう。人間には手に余る力を持つのだ。
ガベルトゥスが大事にしているとわかる春輝を容易く殺せる力を持ってしまうトビアスを、春輝の側に置くことに迷いもあるのかもしれない。
トビアスは一瞬の迷いののち、春輝の側にいると決め魔王を陛下と呼んでいる時点で後戻りするという選択肢がないことに気が付いた。
悠久の時を生きようが、春輝の力になれるならいいではないかと。瞳に強い意志を宿したトビアスは、手にした鱗を一思いに飲み下した。
体は内側から燃えるように熱くなり、全ての血を吐き出すように夥しい量を痛みで這いつくばった床の上にまき散らす。
春輝は呻き声を上げながらのた打ち回るトビアスを不安げに見るしかなかった。藻掻き苦しみ、赤い血の海に溺れるトビアスの光景は凄まじい。
どうしてここまでしてトビアスが付いてきてくれるのか、春輝には不思議でしょうがない。
「忠誠心熱い犬は便利だろう? アレはお前によく尽くすだろう。不思議そうな顔をしてるが、簡単なことだ。トビアスは真面目過ぎるんだよ。信じていたものが崩れ去り、忠誠のある場所が無くなったところに、当事者である春輝が居れば自然とこうなるだろう。依存先をお前に見出してるのさ、あの犬は」
「……依存先ねぇ」
「春輝の依存先はもう俺だけだろう? でないとお前の復讐が達成される前に噛み殺してその血を啜ってしまうぞ?」
首筋に口を寄せ、軽く噛まれる。尖った犬歯が春輝の薄い肌を貫き、小さな痛みと真っ赤な鮮血を垂らした。
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