上 下
45 / 123

45 助けを求める先

しおりを挟む
「ハルキ殿!!」

 驚愕し駆け寄ってくるトビアスの声すらも不快で仕方がない。

「ガイル、ガイルは……こんな時にも来ないのかっあのくそ親父っ!」

 血が絡み、咳が止まらない。
 悪夢で見るようにじわじわと、しかし早急に春輝を飲み込もうとしてくる聖剣から流れ込んできた物に春輝だけでは抗えないというのに。
 いつも助けてくれるガベルトゥスが今この場に現れないことに、苛立ちと共に不安が募って仕方がない。
 唯一核を押さえつける力を持っているのは、ガベルトゥスだけなのだ。このまま飲み込まれてしまえば、二度と戻ってこれない気がしてならない春輝は、その恐怖にも怯えていた。
 聖剣を手にした瞬間体内に入り込んできた異物は、最初の物に比べて強力な物に思える。体の奥底に太い根を張り巡らせ、強固に根付く。
 春輝の思考を乗っ取ろうとしてくるそれに呑まれてしまえば全てを失ってしまうのではないかと、そう思えてしまうほどに凶悪だ。

 いちかと言う生きる理由を失ってしまった頃であったなら、春輝はここまで抵抗しなかっただろう。
 生きている意味がない中で思考を乗っ取られても、それは死と変わらない。抵抗などせず、寧ろ自ら死を選ぶようにこの核に呑まれたはずだ。だが今はそれができない。
 いちかを殺した者を見つけ出し、復讐する。それは変わらず春輝の中にある目標ではある。だがそれと同時に、ガベルトゥスと共にあるのことが心地良くなってしまっていた。

 いつの間にか自然と依存してしまっていたのだろう。
 春輝は弱い。何かに依存しなければ今まで生きてこられなかった人生だ。
 ガベルトゥスは拠り所が無くなった隙間に、不快感すら抱かせず、当然のように入り込んできた。
 今まで幼い妹へ与えてきた物とは違うが、それに近しいものをガベルトゥスは春輝に齎す。
 悪夢から拾い上げ、春輝自身を強く求め、満たしてくれるのだ。それに依存してしまうのは仕方のないことだ。

 止まらない咳と共に、血を大量に吐き出し春輝は膝をついた床の上に血溜まりを作る。
 ずっと抱えている白いうさぎのぬいぐるみに、垂れた血や、床から跳ね上がった血で汚れていってしまうが、それすら気にしていられない。

「医師を……それか今なら、まだ教皇様に頼んで治癒を…!!」
「や、めろ、トビアス……! この状態は聖剣のせいだ、ガイルじゃなきゃ、どうにもできない」
「聖剣の…せい?」
「おいおい、なんだこれは。一体なにがあった」

 ぐにゃりと影が重なる場所が歪み、目の前の惨状に眉を顰めたガベルトゥスが現れた。
 助かったと、安堵すると同時に春輝はすぐには現れなかったガベルトゥスに対しふつふつと怒りが湧き上がる。

「遅すぎるんだよ」

 近寄り春輝の顔色を窺おうとしたガベルトゥスの胸倉を掴んだ春輝は、血塗れの口をガベルトゥスに押しつけた。

「熱烈な歓迎だなハルキ。そんなに恋しかったか?」
「どうでも、いい、ごほっ……早く、どうにかしてくれ、意識が……」

 安心してしまったせいか、留めていた意識を手放しそうになるのを必死で堪える。だがそれも長くは持ちそうになかった。

「なにがあった、トビアス」
「返還の儀で、聖剣が戻ってきました。元から体調が悪かったのですが、部屋に戻ってから吐血してしまいまして」

 青褪めるトビアスの言葉に漸く投げ捨てられた聖剣に目を止めた。

「ちっ更に埋め込まれたのか。呑み込まれるなよハルキ」

 己の服を掴んでいた春輝の手から力が抜けていることに気がついたガベルトゥスは、その手を握りしめ春輝に深く口付けた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

愛し合う条件

キサラギムツキ
BL
異世界転移をして10年以上たった青年の話

何を間違った?【完結済】

maruko
恋愛
私は長年の婚約者に婚約破棄を言い渡す。 彼女とは1年前から連絡が途絶えてしまっていた。 今真実を聞いて⋯⋯。 愚かな私の後悔の話 ※作者の妄想の産物です 他サイトでも投稿しております

さよならの合図は、

15
BL
君の声。

魔法学園の悪役令息ー替え玉を務めさせていただきます

オカメ颯記
BL
田舎の王国出身のランドルフ・コンラートは、小さいころに自分を養子に出した実家に呼び戻される。行方不明になった兄弟の身代わりとなって、魔道学園に通ってほしいというのだ。 魔法なんて全く使えない抗議したものの、丸め込まれたランドルフはデリン大公家の公子ローレンスとして学園に復学することになる。無口でおとなしいという触れ込みの兄弟は、学園では悪役令息としてわがままにふるまっていた。顔も名前も知らない知人たちに囲まれて、因縁をつけられたり、王族を殴り倒したり。同室の相棒には偽物であることをすぐに看破されてしまうし、どうやって学園生活をおくればいいのか。混乱の中で、何の情報もないまま、王子たちの勢力争いに巻き込まれていく。

御機嫌ようそしてさようなら  ~王太子妃の選んだ最悪の結末

Hinaki
恋愛
令嬢の名はエリザベス。 生まれた瞬間より両親達が創る公爵邸と言う名の箱庭の中で生きていた。 全てがその箱庭の中でなされ、そして彼女は箱庭より外へは出される事はなかった。 ただ一つ月に一度彼女を訪ねる5歳年上の少年を除いては……。 時は流れエリザベスが15歳の乙女へと成長し未来の王太子妃として半年後の結婚を控えたある日に彼女を包み込んでいた世界は崩壊していく。 ゆるふわ設定の短編です。 完結済みなので予約投稿しています。

【R18】【Bl】魔力のない俺は今日もイケメン絶倫幼馴染から魔力をもらいます

ペーパーナイフ
BL
俺は猛勉強の末やっと魔法高校特待生コースに入学することができた。 安心したのもつかの間、魔力検査をしたところ魔力適性なし?! このままでは学費無料の特待生を降ろされてしまう…。貧乏な俺にこの学校の学費はとても払えない。 そんなときイケメン幼馴染が魔力をくれると言ってきて… 魔力ってこんな方法でしか得られないんですか!! 注意 無理やり フェラ 射精管理 何でもありな人向けです リバなし 主人公受け 妊娠要素なし 後半ほとんどエロ ハッピーエンドになるよう努めます

出戻り聖女はもう泣かない

たかせまこと
BL
西の森のとば口に住むジュタは、元聖女。 男だけど元聖女。 一人で静かに暮らしているジュタに、王宮からの使いが告げた。 「王が正室を迎えるので、言祝ぎをお願いしたい」 出戻りアンソロジー参加作品に加筆修正したものです。 ムーンライト・エブリスタにも掲載しています。 表紙絵:CK2さま

【完結】子爵の息子は体を売る。ざまあ後の不幸を少なくするために覚悟を決めたら愛されました。

鏑木 うりこ
BL
 ある日突然、私は思い出した。この世界は姉ちゃんが愛読していたテンプレざまあ小説の世界だと。このまま行くと私の姉として存在している娘は公爵令嬢を断罪するも逆にざまあされる。私の大切な家族は全員悲惨で不幸な道を歩まされる。  そんなのは嫌だ。せめて仲の良い兄妹だけでも救いたい。私は素早く行動した。  溺愛気味R18でさらさらと進んで行きます。令嬢ざまぁ物ではありません。タイトルのせいでがっかりした方には申し訳なく思います。すみません……。タグを増やしておきました。  男性妊娠がある世界です。  文字数は2万字を切る少なさですが、お楽しみいただけると幸いに存じます。  追加編を少し加えたので、少し文字数が増えました。  ★本編完結済みです。 5/29 HOT入りありがとうございます! 5/30 HOT入り&BL1位本当にありがとうございます!嬉しくて踊りそうです! 5/31 HOT4位?!BL1位?!?!え?何ちょっとびっくりし過ぎて倒れるかも・:*+.\(( °ω° ))/.:+ビャー!  HOT1位になっておりま、おりま、おりまし、て……(混乱) 誠に!誠にありがとう!ございますーー!!ど、動悸がっ!! 6/1 HOT1位&人気16位に置いていただき、感謝感謝です!こんなに凄い順位をいただいて良いのでしょうか・:*+.\(( °ω° ))/.:+  最近沈んでいたので、ものすごく嬉しいです!(*‘ω‘ *)ありがとーありがとー!

処理中です...