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42 それぞれの道
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ぐったりと横たわる春輝とは裏腹に、ガベルトゥスは満足したように春輝の頭を撫でまわす。
甘さを含んだそれに春輝は鬱陶しさを感じつつも、むず痒さが広がり眉を潜める。触れてくるガベルトゥスの手を気だるげに押しやった。
「おっと、なんだ終わったら随分素っ気ないな」
「やりすぎだ。ちょっとはこっちのことを考えろ、くそ親父」
「楽しもうと言ったのはハルキだろう? あぁトビアス、もう入ってもいいぞ」
春輝が抗議する前に隣室の扉が開かれ、トビアスが気まずそうな顔を向け入ってきた。事後の跡はそのままに、服も着てはいない春輝は流石に羞恥を覚え、ガベルトゥスをどつく。
「アレを側に置くなら慣れるんだな」
くつくつと笑うガベルトゥスは羞恥心など無いのか、逞しい肉体を晒したままベッドから出る。落ちていた長いローブを簡単に羽織ると、ゆったりとした動きで一人掛けのソファに座った。
「それでなんの話だったか……あぁ聖剣が戻り次第領地にだったな」
「アレが手元に戻ってくるなんて吐き気がする」
体を起こすと中に出されたものがどろりと溢れ出し、春輝を更に不快にさせた。いつの間にか側に来ていたトビアスが、気づかわし気に服を春輝に手渡してきた。
「それと、トビアスを使えるようにか。来いトビアス」
ガベルトゥスに対し警戒心を解いてはいないトビアスは、不安げに春輝を見る。春輝に視線で促されたトビアスは、月明りに照らされ尊大に座るガベルトゥスの元に行く。
「片目は見えてないな? 足も動きが鈍い。さて、これを使えるようにする方法は……」
「魔……いえ、陛下は、治癒魔法が使えるのですか」
「使えないが?」
「勿体ぶってないで早く言えよ」
「すぐには無理だ。領地に行くのはまだ先だな? 俺もやらなきゃいけないことだったからなぁ。丁度いい。」
それだけ言うとガベルトゥスは、まるで闇に溶けるようにふっと姿を消した。
「あの、陛下は……」
「帰ったんだろう。いつものことだよ。お前も慣れろ」
「……似たようなことを言うんですね」
トビアスにそう言われ、ぐっと喉を詰まらせた春輝は、ぼふんとベッドに倒れ込んだ。気が付けば外は薄明りが差し始め、夜が明ける間際だった。
魔王城に戻ったガベルトゥスは、開けたローブのまま部屋に戻ると、上機嫌のまま熱い湯を浴びる。
久々の交わりは嫉妬という感情を思い出したことも重なり、ガベルトゥスを酷く高揚させた。思い出すだけでも兆しそうになる自身に苦笑しつつも、ガベルトゥスは春輝の望みを叶えるべく、昨夜の出来事を頭の隅に追いやる。
手早く身支度を整え部屋から出たのを待ち受けていたのは、酷く顔を歪めたハンネスだった。その顔にゲンナリしつつも、ガベルトゥスはハンネスを無視して廊下へと出た。
「陛下っまた勇者の元へ行っていたのですか!? しかも交わるなど!!」
「俺が何をしようが関係ないだろう? アレのことは気に入ってるんだ」
「しかし臭いがっ人間の臭いが染みついてしまっては、陛下の威厳が……」
煩いコバエのように追いかけてきては小言を言ってくるハンネスに、ガベルトゥスはウンザリしていた。
協力者としての勇者を受け入れるのはいいが、侍らすのは気に食わないと感情を剥き出しにしてくる。
ガベルトゥスにとってハンネスはただの使い勝手の良い駒でしかなく、それ以外の感など絶対に持とうとも思わない、そんな存在でしかないのに。
今の今まで大人しかったのは、ガベルトゥスの隣は自分だという確信があったからだろう。これも嫉妬の部類なのだろうが、春輝に向けられるならともかく、ハンネスに向けられても煩わしさしか湧いてこない。
「その煩い口を閉じろハンネス。俺はやることがある」
魔王城から再び姿を消したガベルトゥスに、ハンネスは尖った歯で自身の唇を貫いた。ぼたぼたと垂れる青の血は白いシャツを汚す。
「こんなはずでは、こんなはずではなかった……人間ごときの勇者のどこがいいのか」
協力者とは名ばかりで、犬のように子飼いにするのだとばかり思っていた勇者に心惹かれている様子を見せるガベルトゥスに、ハンネスは焦っていた。
このままでは全てを捧げてきた焦がれる主をたかが人間に取られてしまうのだ。
「どうすれば」
ハンネスの仄暗い呟きは、光が届かない魔王城の闇の中に静かに溶けた。
甘さを含んだそれに春輝は鬱陶しさを感じつつも、むず痒さが広がり眉を潜める。触れてくるガベルトゥスの手を気だるげに押しやった。
「おっと、なんだ終わったら随分素っ気ないな」
「やりすぎだ。ちょっとはこっちのことを考えろ、くそ親父」
「楽しもうと言ったのはハルキだろう? あぁトビアス、もう入ってもいいぞ」
春輝が抗議する前に隣室の扉が開かれ、トビアスが気まずそうな顔を向け入ってきた。事後の跡はそのままに、服も着てはいない春輝は流石に羞恥を覚え、ガベルトゥスをどつく。
「アレを側に置くなら慣れるんだな」
くつくつと笑うガベルトゥスは羞恥心など無いのか、逞しい肉体を晒したままベッドから出る。落ちていた長いローブを簡単に羽織ると、ゆったりとした動きで一人掛けのソファに座った。
「それでなんの話だったか……あぁ聖剣が戻り次第領地にだったな」
「アレが手元に戻ってくるなんて吐き気がする」
体を起こすと中に出されたものがどろりと溢れ出し、春輝を更に不快にさせた。いつの間にか側に来ていたトビアスが、気づかわし気に服を春輝に手渡してきた。
「それと、トビアスを使えるようにか。来いトビアス」
ガベルトゥスに対し警戒心を解いてはいないトビアスは、不安げに春輝を見る。春輝に視線で促されたトビアスは、月明りに照らされ尊大に座るガベルトゥスの元に行く。
「片目は見えてないな? 足も動きが鈍い。さて、これを使えるようにする方法は……」
「魔……いえ、陛下は、治癒魔法が使えるのですか」
「使えないが?」
「勿体ぶってないで早く言えよ」
「すぐには無理だ。領地に行くのはまだ先だな? 俺もやらなきゃいけないことだったからなぁ。丁度いい。」
それだけ言うとガベルトゥスは、まるで闇に溶けるようにふっと姿を消した。
「あの、陛下は……」
「帰ったんだろう。いつものことだよ。お前も慣れろ」
「……似たようなことを言うんですね」
トビアスにそう言われ、ぐっと喉を詰まらせた春輝は、ぼふんとベッドに倒れ込んだ。気が付けば外は薄明りが差し始め、夜が明ける間際だった。
魔王城に戻ったガベルトゥスは、開けたローブのまま部屋に戻ると、上機嫌のまま熱い湯を浴びる。
久々の交わりは嫉妬という感情を思い出したことも重なり、ガベルトゥスを酷く高揚させた。思い出すだけでも兆しそうになる自身に苦笑しつつも、ガベルトゥスは春輝の望みを叶えるべく、昨夜の出来事を頭の隅に追いやる。
手早く身支度を整え部屋から出たのを待ち受けていたのは、酷く顔を歪めたハンネスだった。その顔にゲンナリしつつも、ガベルトゥスはハンネスを無視して廊下へと出た。
「陛下っまた勇者の元へ行っていたのですか!? しかも交わるなど!!」
「俺が何をしようが関係ないだろう? アレのことは気に入ってるんだ」
「しかし臭いがっ人間の臭いが染みついてしまっては、陛下の威厳が……」
煩いコバエのように追いかけてきては小言を言ってくるハンネスに、ガベルトゥスはウンザリしていた。
協力者としての勇者を受け入れるのはいいが、侍らすのは気に食わないと感情を剥き出しにしてくる。
ガベルトゥスにとってハンネスはただの使い勝手の良い駒でしかなく、それ以外の感など絶対に持とうとも思わない、そんな存在でしかないのに。
今の今まで大人しかったのは、ガベルトゥスの隣は自分だという確信があったからだろう。これも嫉妬の部類なのだろうが、春輝に向けられるならともかく、ハンネスに向けられても煩わしさしか湧いてこない。
「その煩い口を閉じろハンネス。俺はやることがある」
魔王城から再び姿を消したガベルトゥスに、ハンネスは尖った歯で自身の唇を貫いた。ぼたぼたと垂れる青の血は白いシャツを汚す。
「こんなはずでは、こんなはずではなかった……人間ごときの勇者のどこがいいのか」
協力者とは名ばかりで、犬のように子飼いにするのだとばかり思っていた勇者に心惹かれている様子を見せるガベルトゥスに、ハンネスは焦っていた。
このままでは全てを捧げてきた焦がれる主をたかが人間に取られてしまうのだ。
「どうすれば」
ハンネスの仄暗い呟きは、光が届かない魔王城の闇の中に静かに溶けた。
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