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34 オーバンの変化
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ジェンツと図書館で接触してからというもの、春輝の体調はまた逆戻りしていた。内側からじわじわと乱されている感覚と共に、常に不快感が付きまとう。
ガベルトゥスが訪れればいつもより多めに魔力を貰うが、それも回復中のガベルトゥスの負担になっているらしく、春輝はもどかしさを感じていた。
「ハルキ様、漸く聖剣が元に戻ったようですよ。日程を整えてから返還の義を執り行うそうです。それと、領地への移動も聖剣が戻り次第だとか……寂しくなります」
読んでいた本からオーバンへと目を向ける。その顔はありありと寂しさが浮かんでいた。果たしてこれすらも演技であるのかと猜疑心は膨れ上がる。
今春輝が信じていられるのは協力関係にあるガベルトゥスしかいない。
「その領地とやらは、ここから遠いのか?」
「そうですね、馬車で一週間程でしょうか。あぁそうだ、その前に王都の観光など如何でしょう? ハルキ様はこちらに来てから、討伐以外でこの王宮から出てはいませんし」
「その前にいちかの棺もちゃんと持っていけるようにしてくれ」
「手配済みですから御心配には及びませんよ」
そこまで考えていると、ふといちかがよく懐いていたマルコムのことを思い出す。いちかは悪意に敏感だ。オーバンにも確かに懐いてはいたが、どちらかと言えば、マルコムとの距離の方が近かった。
いちかが死んだと聞かされてから、今の今までマルコムのことなど思い出しもしなかった春輝だが、ここで思い出したのもきっとなにかあるに違いないと口を開く。
「……王都を見るついでにマルコムの墓に行けるか?」
「マ、ルコム……の墓は」
そう呟いたオーバンは、よく見なくても分かる程に狼狽えだした。瞳が忙しなく左右に動き、組んで膝の上に置かれている手も震えている。それに加えあからさまに顔色も悪くなっていた。
この反応は一体なんだ? と訝しみながら、春輝は注意深くオーバンを観察する。
「いちかが大分懐いてたし、そんなに離れてるなら領地と王都の行き来なんて面倒だろ? だったら離れる前にと思ったんだけど」
春輝が言葉を紡ぐ度に、オーバンの震えは酷くなる。額から流れ落ちる汗がオーバンの服にパタパタと落ち染みを何個も作っていく。
口をはくはくと開けては閉じてを繰り返していたオーバンは、結局言葉を発することなく、口をきつく結んでしまう。そのままじっと春輝が観察していれば、オーバンは懐から小さなケースを取り出すと、中に入っている甘い香りのする粉を指で摘み、手の甲に乗せそれを吸い込んだ。
何をしているのかと春輝は怪訝そうに眉根を寄せる。深く息を吸い込んだオーバンは緩く頭を振り、深呼吸を繰り返したあと顔を上げて春輝ににこりと微笑んだ。
「失礼しました、年のせいかどうにも体が言うことを利かない時があるのです。なんでしたか……あぁマルコムの墓参りですね、それもこちらで調整いたしましょう。他に要望はありますか?」
何事もなかったかのように話し出したオーバンは、先ほどの震えも顔色の悪さもどこにもなかった。
「とくには、思いつかないな」
「そうですか。では私がハルキ様が満足出来るように流行りの店などを調べましょう。あぁ本に興味があるのでしたら本屋もよろしいですね? 移動時間は長いですから」
にこにこと笑み楽しそうに話すその顔に、なぜだかジェンツの笑みに近いものを感じ、春輝は薄ら寒くなり、抱えているうさぎのぬいぐるみを更に強く抱きしめた。
ガベルトゥスが訪れればいつもより多めに魔力を貰うが、それも回復中のガベルトゥスの負担になっているらしく、春輝はもどかしさを感じていた。
「ハルキ様、漸く聖剣が元に戻ったようですよ。日程を整えてから返還の義を執り行うそうです。それと、領地への移動も聖剣が戻り次第だとか……寂しくなります」
読んでいた本からオーバンへと目を向ける。その顔はありありと寂しさが浮かんでいた。果たしてこれすらも演技であるのかと猜疑心は膨れ上がる。
今春輝が信じていられるのは協力関係にあるガベルトゥスしかいない。
「その領地とやらは、ここから遠いのか?」
「そうですね、馬車で一週間程でしょうか。あぁそうだ、その前に王都の観光など如何でしょう? ハルキ様はこちらに来てから、討伐以外でこの王宮から出てはいませんし」
「その前にいちかの棺もちゃんと持っていけるようにしてくれ」
「手配済みですから御心配には及びませんよ」
そこまで考えていると、ふといちかがよく懐いていたマルコムのことを思い出す。いちかは悪意に敏感だ。オーバンにも確かに懐いてはいたが、どちらかと言えば、マルコムとの距離の方が近かった。
いちかが死んだと聞かされてから、今の今までマルコムのことなど思い出しもしなかった春輝だが、ここで思い出したのもきっとなにかあるに違いないと口を開く。
「……王都を見るついでにマルコムの墓に行けるか?」
「マ、ルコム……の墓は」
そう呟いたオーバンは、よく見なくても分かる程に狼狽えだした。瞳が忙しなく左右に動き、組んで膝の上に置かれている手も震えている。それに加えあからさまに顔色も悪くなっていた。
この反応は一体なんだ? と訝しみながら、春輝は注意深くオーバンを観察する。
「いちかが大分懐いてたし、そんなに離れてるなら領地と王都の行き来なんて面倒だろ? だったら離れる前にと思ったんだけど」
春輝が言葉を紡ぐ度に、オーバンの震えは酷くなる。額から流れ落ちる汗がオーバンの服にパタパタと落ち染みを何個も作っていく。
口をはくはくと開けては閉じてを繰り返していたオーバンは、結局言葉を発することなく、口をきつく結んでしまう。そのままじっと春輝が観察していれば、オーバンは懐から小さなケースを取り出すと、中に入っている甘い香りのする粉を指で摘み、手の甲に乗せそれを吸い込んだ。
何をしているのかと春輝は怪訝そうに眉根を寄せる。深く息を吸い込んだオーバンは緩く頭を振り、深呼吸を繰り返したあと顔を上げて春輝ににこりと微笑んだ。
「失礼しました、年のせいかどうにも体が言うことを利かない時があるのです。なんでしたか……あぁマルコムの墓参りですね、それもこちらで調整いたしましょう。他に要望はありますか?」
何事もなかったかのように話し出したオーバンは、先ほどの震えも顔色の悪さもどこにもなかった。
「とくには、思いつかないな」
「そうですか。では私がハルキ様が満足出来るように流行りの店などを調べましょう。あぁ本に興味があるのでしたら本屋もよろしいですね? 移動時間は長いですから」
にこにこと笑み楽しそうに話すその顔に、なぜだかジェンツの笑みに近いものを感じ、春輝は薄ら寒くなり、抱えているうさぎのぬいぐるみを更に強く抱きしめた。
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