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33 図書館2
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向けられたジェンツの笑みに、何故だか肌の下が急に騒めき不快感が襲いくる。顔を顰め、一体何の用だとばかりに春輝がジェンツを見れば、あっと言う間に対面に椅子が用意され、そこにジェンツが腰を下ろした。
「お話するのは凱旋以来でございますね。体調が戻ったようでなにより。何度か伺ったのですが、ハルキ様は寝ておられましたので……こうしてお邪魔した次第です」
ジェンツは教皇と言う立場上、頻繁に教会本部から出られるわけもなく、オーバンから聞くハルキの状況に胸を痛めていたのだと語る。
こちらの都合で呼びつけ、大切にしていたいちかまで失い、どれだけ詫びればいいのか。ジェンツは深く頭を下げ、悲痛に歪めまるで春輝に懺悔するように後悔の念を口にする。
「王宮の居心地はいかがです? もし不便がおありなら、教会で生活することもできますよ」
魔王討伐後の勇者の扱いは、国民にとっても国にとっても英雄だ。しかしいちかが居なくなったことで、一時的に心神喪失状態に陥っていた春輝を侮る者は多い。
これは度々訪れるガベルトゥスから聞き及んだことでもあるし、春輝が魔王討伐前から影で言われていたから知っていることでもある。
騎士達が勇者を軽んじ更に功績が取られると憎く思っていたように、貴族や王族もまた表面上は勇者を称えはするが、腹の底では使い捨ての便利な道具としか見ていない。
特に魔王討伐後それが顕著だった。体力が回復し王宮内を歩き回り、こうして図書館に入り浸る春輝をすれ違う人々から向けられらる視線がどんなものであるか、春輝がわからないわけがない。
聞こえないと思っているのか、小声でひそひそと話される内容もいいものであるはずがなかった。
それもそうだろう。魔王と言う強大な敵がいなくなり、魔獣や魔族が姿を現さない今、勇者などただの兵士と変わらない。
むしろ魔王を討伐できるだけの力がある春輝は腫物でもあるし、使い方によっては他国をも侵略できてしまう。
春輝が洗脳されていると思い込んでいなければ、命はとっくに無くなっているかもしれない、なんとも言い難い状況に身を置いているのが今の春輝だ。
「これは公にはされていないことですが、歴代の勇者様方の中には、心無いことを言われお心を病まれてしまった方も多いと教会の記録には残っております。私はハルキ様にはせめて心安らかに過ごしてほしいと願っているのです」
春輝が考えに耽っていればなにを思ったのか、ジェンツは春輝に寄り添うように言ってくる。しかしそれはお門違いだ。
心神喪失の原因はいちかの死のみ。周りから何を言われようが、春輝は元の世界でおかれている状況に似ていることから、それに関しての耐性があるのでダメージはない。言いたい奴は言いたいだけ言えばいいとさえ思っている。
なによりも、今は後ろ盾に魔王であるガベルトゥスが仲間として控えている。その安心感は破壊しれないほど春輝の中では大きくなっていた。
「少し顔色が悪いようですね、私が治癒いたしましょう」
すっと触られた指先から、ゾワゾワと言い知れぬ不快感が波紋のように広がっていく。だが手を離したくても、脳内で警告音がけたたましく鳴り響き、決して振り解いてはいけないのだと春輝に教えてくる。
笑みを絶やさぬまま、じっと見つめてくるジェンツは春輝の手をゆっくりと握り絡めてくるジェンツに、春輝は僅かに眉間に力を入れた。
ジェンツの周りがキラキラと淡く輝き、他の人々が見ればさぞや神々しく見えただろう光景が、春輝には心臓が直に捕まえれたような恐怖を与えていた。
カタカタと震えそうになる手をうさぎのぬいぐるみをキツく抱くことでなんとか納める。背中に流れる冷や汗と、体内を駆け巡るジェンツの魔力の不快感が、治癒をされているはずなのにガンガンと春輝の何かを削っているようだった。
どれくらい手を握られていたのか、耐え切れずスッと目を逸らした春輝に、くすりと笑ったジェンツは身を乗り出すと、春輝の唇に軽く口づけてきた。
「ハルキ様に憂いの影があればこのジェンツがお守りいたしましょう。これでも教皇と言う立場は王族とも引けを取らない地位なのですよ。私は何があってもハルキ様の味方です」
目を見開き驚く春輝に、ジェンツは悪びれた様子もなくそう告げると、何事もなかったかのように席を立ちお供を引き連れ図書館を出ていった。
どっと疲れが押し寄せた春輝は、うさぎのぬいぐるみに顔を埋め体内で荒ぶる魔力を鎮めるように努めた。
「ガイル……」
知らずに漏れた囁きは、縋るような力のない物だった。
「お話するのは凱旋以来でございますね。体調が戻ったようでなにより。何度か伺ったのですが、ハルキ様は寝ておられましたので……こうしてお邪魔した次第です」
ジェンツは教皇と言う立場上、頻繁に教会本部から出られるわけもなく、オーバンから聞くハルキの状況に胸を痛めていたのだと語る。
こちらの都合で呼びつけ、大切にしていたいちかまで失い、どれだけ詫びればいいのか。ジェンツは深く頭を下げ、悲痛に歪めまるで春輝に懺悔するように後悔の念を口にする。
「王宮の居心地はいかがです? もし不便がおありなら、教会で生活することもできますよ」
魔王討伐後の勇者の扱いは、国民にとっても国にとっても英雄だ。しかしいちかが居なくなったことで、一時的に心神喪失状態に陥っていた春輝を侮る者は多い。
これは度々訪れるガベルトゥスから聞き及んだことでもあるし、春輝が魔王討伐前から影で言われていたから知っていることでもある。
騎士達が勇者を軽んじ更に功績が取られると憎く思っていたように、貴族や王族もまた表面上は勇者を称えはするが、腹の底では使い捨ての便利な道具としか見ていない。
特に魔王討伐後それが顕著だった。体力が回復し王宮内を歩き回り、こうして図書館に入り浸る春輝をすれ違う人々から向けられらる視線がどんなものであるか、春輝がわからないわけがない。
聞こえないと思っているのか、小声でひそひそと話される内容もいいものであるはずがなかった。
それもそうだろう。魔王と言う強大な敵がいなくなり、魔獣や魔族が姿を現さない今、勇者などただの兵士と変わらない。
むしろ魔王を討伐できるだけの力がある春輝は腫物でもあるし、使い方によっては他国をも侵略できてしまう。
春輝が洗脳されていると思い込んでいなければ、命はとっくに無くなっているかもしれない、なんとも言い難い状況に身を置いているのが今の春輝だ。
「これは公にはされていないことですが、歴代の勇者様方の中には、心無いことを言われお心を病まれてしまった方も多いと教会の記録には残っております。私はハルキ様にはせめて心安らかに過ごしてほしいと願っているのです」
春輝が考えに耽っていればなにを思ったのか、ジェンツは春輝に寄り添うように言ってくる。しかしそれはお門違いだ。
心神喪失の原因はいちかの死のみ。周りから何を言われようが、春輝は元の世界でおかれている状況に似ていることから、それに関しての耐性があるのでダメージはない。言いたい奴は言いたいだけ言えばいいとさえ思っている。
なによりも、今は後ろ盾に魔王であるガベルトゥスが仲間として控えている。その安心感は破壊しれないほど春輝の中では大きくなっていた。
「少し顔色が悪いようですね、私が治癒いたしましょう」
すっと触られた指先から、ゾワゾワと言い知れぬ不快感が波紋のように広がっていく。だが手を離したくても、脳内で警告音がけたたましく鳴り響き、決して振り解いてはいけないのだと春輝に教えてくる。
笑みを絶やさぬまま、じっと見つめてくるジェンツは春輝の手をゆっくりと握り絡めてくるジェンツに、春輝は僅かに眉間に力を入れた。
ジェンツの周りがキラキラと淡く輝き、他の人々が見ればさぞや神々しく見えただろう光景が、春輝には心臓が直に捕まえれたような恐怖を与えていた。
カタカタと震えそうになる手をうさぎのぬいぐるみをキツく抱くことでなんとか納める。背中に流れる冷や汗と、体内を駆け巡るジェンツの魔力の不快感が、治癒をされているはずなのにガンガンと春輝の何かを削っているようだった。
どれくらい手を握られていたのか、耐え切れずスッと目を逸らした春輝に、くすりと笑ったジェンツは身を乗り出すと、春輝の唇に軽く口づけてきた。
「ハルキ様に憂いの影があればこのジェンツがお守りいたしましょう。これでも教皇と言う立場は王族とも引けを取らない地位なのですよ。私は何があってもハルキ様の味方です」
目を見開き驚く春輝に、ジェンツは悪びれた様子もなくそう告げると、何事もなかったかのように席を立ちお供を引き連れ図書館を出ていった。
どっと疲れが押し寄せた春輝は、うさぎのぬいぐるみに顔を埋め体内で荒ぶる魔力を鎮めるように努めた。
「ガイル……」
知らずに漏れた囁きは、縋るような力のない物だった。
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